準天頂衛星システムの世界展開…自動運転技術への応用期待も

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準天頂衛星システムの世界展開…自動運転技術への応用期待も
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2013年10月29日から31日まで東京海洋大学で開催された測位航法学会「GPS・GNSSシンポジウム」では、自動車、鉄道、農業、防災の各分野の専門家が衛星測位と日本の測位衛星システム、準天頂衛星システムの利用拡大について意見を交わした。

初日のパネルディスカッション「GNSS利用市場の開拓・拡大向けての航海」では、世界で米GPS、露GLONASS、欧州Galileo、中国BeiDouなど世界で複数のGNSS(全地球航法衛星システム)網が完成していくなかで、日本の地域測位衛星システム「準天頂衛星システム」の活用と利用拡大を進めていくべきか、産業界の各分野の専門家が意見を交わした。

コーディネーターは測位航法学会の峰正弥氏。峰氏は「欧州では、Galileoシステムの開発、運用はESAが、GNSSを利用した市場開発はGSAという役割分担がうまくいっており、日本はそのようになっていない」としながらも、産業界の各分野から意見を取りまとめて準天頂衛星システムの利用拡大につなげていくと、パネリストの意見を募った。

農業分野からは、準天頂衛星の電波で高精度測位が利用できる補強信号を使って、トラクターの無人走行などの実証で成果を上げている北海道大学の野口伸教授が「ロボット農業」の見通しを紹介。すでに補強信号「LEX信号」を利用し、作物が成長した畑で畝と畝の間を無人農機が走行し除草作業を行うといったことが可能になっている。平成26~28年度は、北海道で実証試験を進め、準天頂衛星の2号機目以降の整備が進む平成29年度以降は北海道で「ICT×ロボット農業特区」として地域で利用できるようにするという。しかし、比較的農地が大規模な北海道と本州とでは条件が異なるとし、一気にアジア・オセアニアでの海外展開を進め、日本へは逆輸入のかたちで持ち込むとした。ただし、「アジア・オセアニア地域での精密農業普及はまだまだ」とのことで「農業分野のコミュニティで国際会議にGNSS関連セッションを準備する」といった人の交流づくりから始めることが必要だという。

鉄道総研の山本春生氏は、現在「GPSベースのアプリケーションは導入が進んでいる」と述べ、将来は準天頂衛星システムのように高い精度の位置情報が利用できるようになることで「列車の保安制御、線路作業中の鉄道員の安全確保、保守用車の安全制御」などに利用する期待があるとした。とはいえ、「線路の周囲の建物で(測位衛星の電波が地上の建物などに反射して誤った信号として受信機に認識される)マルチパスの影響が懸念される」と技術上の課題があるという。また、地域測位衛星システムである準天頂衛星システムを最大限に利用するアプリケーションを開発した場合、他の地域へは展開できないということになる。「その場合、メーカーのモチベーションをどう維持するのか」と疑問を述べた。

防災の分野からコメントした慶応義塾大学の神武直彦教授は、アジア地域での準天頂衛星システム活用について現地へ足を運んで調査したところ、「東アジアには、3G携帯もまだ利用できない地域が多くある。そうしたところで、(今後の準天頂衛星に搭載される予定の)簡易メッセージ送信機能が利用できれば、災害に関する情報を届ける唯一の連絡手段になるかもしれない」という。現地からは、使えるものは使いたいという要望も強いとのことだ。課題として、そうした端末を普及させたとして「メッセージを送っても受け取った人は文字が読めないこともある。文字以外のメッセージや、受信した人が地域のコミュニティの中で伝え合うような仕組みを作らないといけない」と、測位衛星の機能だけでは解決しない問題を述べた。

ITS世界会議でも注目された、自動車の自律運転に準天頂衛星システムなど精度の高い位置情報の利用について、自動車業界から発言したのはデンソーの浜田隆彦氏。一般的な道路のレーン幅は3.5メートルで、それ以下の精度の位置情報を測位衛星から得られれば自動運転への利用が可能になる。「現状は、GPSのみでは難しく、センサーやカメラでの補正が必要。準天頂衛星の補強信号でサブメータ級の信号が本当に使えるならとても有望」と期待があるという。技術的課題としては、高架下やトンネルでは衛星からの電波が受信できないことに加え、都市部では建物からのマルチパスが強い点を挙げた。日本では道路の幅員が狭く、建物が迫っていることからもマルチパスはかなり問題だという。準天頂衛星システムのよい点ばかりではなく、「詳細な仕様が必要」と今後の開発にあたっての要望を述べた。

また、準天頂衛星は利用できる地域が限られ、自動車のように世界市場での展開をにらむ分野では導入しにくい部分があるとしながらも、「グローバル市場はすごい競争で、少しとんがっていないと生き残れない。競争する部分と、市場と協調を分離して、競争領域も残さないと生き残れない。東南アジアの交通事情には、あまり交通ルール守らないといった独特の点がある。そういう地域で安全な車を提供すればそれは売れる可能性がある。(アジアの)市場は大きいので、東南アジアで日本車が花咲いて、それを欧米に持っていくということも考えられる。欧米と同じ領域でだけ競争していると勝ち残るのは難しい」とし、準天頂衛星システムを活用した自動運転技術をアジアで展開して、日本車の「売り」にしていける可能性を示した。

《秋山 文野》

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