【フィット プロトタイプ】名機ZCエンジンの再来か…新開発1.5リットルは6MTで爽快感抜群

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ホンダ フィットRS(プロトタイプ)
  • ホンダ フィットRS(プロトタイプ)
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ホンダが9月に発売を予定している次期3代目『フィット』。北海道のテストコース「鷹栖プルービングセンター」で行われたマスメディア向け試乗会でテストドライブをする機会があったのでリポートする。

◆ドライビングプレジャーで他グレードを圧倒する1.5RS+6MT

試乗会で用意されたのは量産試作車とおぼしきもの。市販モデルまでに最後の改変のチャンスがあるとのことだが、ほぼ同一スペックで出てくるものと思われる。最もベーシックな1.3リットルCVTからハイブリッドまで幅広く用意されたなかで、1台だけ純粋な手動変速機を搭載した個体があった。シリーズ中最もスポーティな味付け、内外装を持つ「1.5RS」である。

広大な室内空間と荷室を持つエコカーというイメージが強いフィットだが、次期フィットのラインナップ中、ドライビングプレジャーの面でブッチギリだったのは、そのRS+6速MTだった。次期フィットの有段変速モデルは7速デュアルクラッチ変速機を持つハイブリッドも存在する。それも十分に運転を楽しめる仕様ではあったのだが、RSの楽しさはそのハイブリッドも寄せつけないくらいのものだった。

◆官能面でも好印象の1.5リットル直噴エンジン

RSを素晴らしいクルマにしているのは、1にも2にもエンジンだ。ホンダとしては久しぶりに直噴方式を採用した新開発の1.5リットル4気筒直噴DOHCは、最高出力132ps、最大トルク15.7kgmを発揮する。スペック自体、1.6リットル級のスポーティエンジン並みの立派なものだが、強烈な印象をもたらしたのは絶対的な速さより、エンジンサウンドや回転感など官能評価に関する部分だった。

1.5RSの試乗コースは鷹栖プルービングセンター内の「ワインディング路」。ニュルブルクリンクサーキットよろしく荒れた路面、分厚い縁石、ジャンピングスポット、きついアップダウンなどを配したサーキット様式のテストコースである。

クルマに乗り込み、コースへの合流で6800rpm付近のレッドラインまできっちり引っ張り、第1コーナー出口でさらに3速、4速と全開加速させてみた。果たして新型1.5リットルは、高圧縮エンジンによくある少し荒々しい燃焼音を伴いながら、レッドラインに向かってトルク値があまり下がらないまま一気に上りつめるようなフィーリングで回る。

詳細なスペックはまだ公表されていないが、1000kg台半ばと推測される軽量な車体との組み合わせということもあってか、ワインディングコースのきつい登り坂でも失速感なしに4速に達するなど、動力性能の絶対値も今や死語となりつつある“ホットハッチ”として十分以上のもの。電子制御スロットルのレスポンスも鈍くもなく過敏でもない、コーナーからの立ち上がり加速が楽しくなるような絶妙な味付けだった。

◆初代・2代目CR-Xに搭載されたZCエンジンの再来か

最近のエンジンは燃費向上のためのピーク効率追求や排ガス対策のため、とりわけ小排気量分野では数値性能はいいが中高回転のフィーリングが重ったるいものが多い。考えぬかれたスポーツカーパッケージングが世界的にも高く評価されているスバル『BRZ』/トヨタ『86』ですら、エンジンフィールは上が重い。そのなかにあって新開発1.5リットルは今どき珍しいくらいの伸びきり感を持つ気持ちのよいユニットだというのが、あくまで私見ながら率直な感想である。

自動車工学が今日ほど進んでいなかった1980年代半ば、ホンダは「ZC型」と呼ばれる1.6リットルDOHCエンジンを世に送り出したことがある。燃焼室をコンパクト化して効率を上げるというコンセプトで、ボアをリッターカーエンジンに近い75mmとする一方、ストロークは実に90mmに達するというロングストロークエンジンだった。

高出力エンジンはビッグボア・ショートストロークにするものという当時の常識と真逆のディメンションであったにもかかわらず、ZCエンジンは当時の量産1.6リットルとしては世界最高レベルの出力とレッドライン付近でもきわめて滑らかな回転感を持ちあわせており、世界に“エンジンのホンダ”を印象づけるのに一役買った。

筆者は学生時代、友人が所有していたZCエンジン搭載の2代目『CR-X』を運転させてもらったことがある。レッドラインは7200rpmだったが、タコメーターを見ていないとそこをはるかに突き抜けてしまうような回転上がりと、リッターバイクのような快音に驚愕したものだった。面白いように回る3代目フィットの1.5リットルのフィーリングは、その名機ZCエンジンを彷彿とさせるものがあった。

◆F1エンジニアが市販車エンジンの設計に…「“エンジンのホンダ”と言われたい」

新型1.5リットルの開発にあたっては、先にデビューした『アコードハイブリッド』の2リットルミラーサイクルを手がけた角田哲史氏が基本設計の段階まで関わっていたという。筆者は非自動車の別メディア、別ネタの取材で偶然、その角田氏と話をしたことがある。

角田氏は高校時代に2輪レースの最高峰、MOTOGPを見て「ホンダでレースをやるんだ」と決意して大学で機械工学を学び、本田技術研究所入社後はインディカー用V8、第3期F1用V10、V8など、レース畑を歩んできた人物。その角田氏が市販車開発に転じたのは、福井威夫前社長がコストパフォーマンス一辺倒からトップランナー狙いに方向修正し、市販車の技術開発にF1エンジニアをあてることを決めたのがきっかけだった。

その角田氏は「エンジン分野では今後もドラスティック(劇的)な革命は起こらないだろう」としながらも、「良いエンジン作りは新技術やCAE(コンピュータ支援設計)だけではできない。経験、見識などを生かしながら、機種ごとに丹精込めて作って初めていいなと思えるものができるのであって、その仕事に終わりはない。もともとホンダはエンジンの良さを看板としてきた会社。もう一度皆さんから“エンジンのホンダ”と言われたい」と思いを語っていた。

次期フィットRSのエンジンフィールを味わって、角田氏が語っていたことが脳裏に甦ってくるような気がした。特殊なハイパワーエンジンでなくとも、また排ガス規制や燃費規制が日に日に厳しくなるという今日の環境下にあっても、作り込み次第でここまで爽快さを感じさせるユニットができるのだなあ、と。

◆通常のガソリンエンジンにもDCTを希望

不満点は2つ。同じエンジンを積んだCVT車もドライブしたが、CVTではそのエンジンの絶妙な回転上がり感やトルク変動のチューニングがほとんど伝わってこない。これは変速機の性能が悪いのではなく、持っている個性によるもので致し方のないところだ。出来れば市街地燃費が多少落ちてもいいから、1.5リットルにはCVTではなく新しいデュアルクラッチ変速機(DCT)をセットアップしてくれればいいのになあというのが正直な気持ちだ。

もうひとつはRSの足回りがマイルドすぎること。エンジンの切れ味がこれだけ良いと、コーナー出口でフルスロットルを与えた時に、トルクによるロール方向の姿勢変化なしにビシっと出口を向くだけのロール剛性が欲しくなる。現行フィットベースの『CR-Z』がマイナーチェンジを機に快適さを大して犠牲にしないまま劇的にハンドリングが良くなったことを考えると、そういう足を作る技術も見識も十分に持ち合わせているはずだ。RSの販売比率はきわめて低いと予想されるので、どうせなら万人受けを過剰に意識せず、これこそがホンダのコンパクトスポーツだと主張できるようなモデルに仕立てたほうがよかったのではないか。

次期フィットのなかでドライブ好き、とくにドライビングと旅行を両方楽しみたいロングツーリング好きのカスタマーにイチオシなのは、断然このRS+6速MTだ。MT免許を保有し、走りの良いクルマに興味があるという人は、試乗車があったらぜひ試してみていただきたいところだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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