7月15日、NASA ラングレー・リサーチ・センターのステファン・カツバーグ研究員は、海面に反射して測位には利用できないGPS信号をハリケーンの風速の観測に利用する新手法を発表した。
GPS衛星から送信される測位信号の電波は、海面など水域で約60パーセントが反射されるという。水面が波立っていると反射の方向は一定でなく、あちこちに散乱することになる。GPSレシーバーで散乱した電波と衛星から直接受信した電波を比較すると、水面の波立ちの程度から風速を推計できるというものだ。風速5メートルから計測が可能だという。アメリカ海洋大気局(NOAA)と共同で実際にハリケーンを観測する実証も行われた。この手法に関する論文は「Radio Science」誌に発表された。
現在、ハリケーンの観測は、ドロップゾンデと呼ばれる使い捨て型の観測機器を投下しておこなう。ミシシッピ州キースラー空軍基地を拠点とする、アメリカ空軍の専任観測部隊"ハリケーン・ハンターズ"は、C-130J輸送機をベースにした専用機WC-130Jでドロップゾンデを投下する役割を担っている。ドロップゾンデは気圧、湿度、温度、風速を精密に観測でき、風速0.5メートルから計測可能だ。しかし1台約750ドルと高価なため一度に多数の機器を投下することは難しい。GPS反射電波による風速計測手法は、精密さでは劣るものの、これまで推測に頼っていたドロップゾンデ投下地点間を埋めるように広範囲な観測が可能になる。両手法を組み合わせて、より精密なハリケーンの進路予測が可能になるとのことだ。