【プジョー 5008 試乗】個人主義のミニバン…金子浩久

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プジョーの3列7人乗りミニバン『5008』をドライブした。

運転席のシートに腰掛けた瞬間から、これは日本製ミニバンとずいぶんと違っていそうだぞという予感を抱かされた。見た目はシンプルなシートなのに、動き始めてから背面と座面がこちらの上半身と腰、腿の裏側のツボを適確にホールドし支えてくれる。このシートはいい。

ミニバンには多様なシートの畳み方が求められるが、その点でも5008は独自のアイデアを持ち、多彩な使い方を実現している。まず、シートそのものが前述のように座面や背面がフラットでシンプルでありながら左右の張り出しが明確にあるタイプが7人分据え付けられている。これならば、乗員の一人一人をしっかりと支えてくれるはずだ。3点式シートベルトが7人分揃っているのも日本車勢に対する安全面での大きなアドバンテージになるだろう。

さらに驚かされるのは2列目だ。長いひとつのベンチシートを3人乗りと称するのではなく、2列目の3人分は3脚がそれぞれに独立して前後にスライドし、背もたれを個別に倒すことができる。足元は広く、乗り降りも左右への移動も行いやすい。

2列目が左右に独立して真ん中に空間が空いている、いわゆる“キャプテンシート”というものは日本車でも珍しくはないが、3人分がそれぞれ接していながら個別に調整できるこのようなシートは、日本車を想定するととても珍しい。ステレオタイプな比喩で恐縮だが、いかにも個人主義の国フランスのミニバンらしい。7人乗れるといっても、十把ひとからげにして、人格も好みも聞いてもらえない荷物のような扱いはしないのである。ただ詰め込まれるだけのミニバンではない。ドライバープラス6人をそれぞれの人格を尊重しているからだ。

2列目の3脚も3列目の2脚も背面を前方に倒すと座面とともに床に沈み込み、フルフラットな床が出現する。操作も簡単。望めば1列目の助手席の背面も前方に倒してフラットにすることができるから、サーフボードやスキーのような長いものを車内に収めることもできる。

シートを前後と上下に調整すれば、ミニバンとしては珍しく、低めのドライビングポジションを取ることができる。走りっぷりは、まず直進性の高さが印象的だ。そこからハンドルを切っていくと微かなタイヤの抵抗を感じてコーナリングに入っていく。いったんコーナリングが始まるとハンドルはとても滑らかに切れ続けていく。

オイルを封入したリアアクスルのラバーブッシュが効いているのか、リアタイヤがとても良く路面を捉えている。機敏に向きを変えながらも落ち着いていて安定している。路面からのショックと振動もうまく吸収され、角も丸められている。良くまとまった操縦性と乗り心地だ。

ダウンサイジングされた1.6リッターガソリン直噴ターボエンジンのパワーも必要十分。6速ATも賢い。

もうひとつの長所は最小回転半径の小ささだ。視界やドライビングポジションにも影響されるものだけれども、5.6メートルという数字以上に小回りが効く。大き過ぎないボディと高過ぎない全高もミニバン然としておらず、ドライビングポジションも含めて、むしろステーションワゴンのそれに近い。

直進時やコーナリング時には太いAピラーは視界の妨げにはならなかったが、一時停止からT字路へ直角に進入するような場合に良く見る必要性を感じた。この点が短所らしい短所かもしれない。

少なくなったとはいえ、一年間に日本国内で販売される乗用車は300万台もある。そのうち80万台がミニバンで、これらのほとんどが日本車だ。80万人のユーザーがミニバンに求めるものの優先順位は、赤ん坊のオムツの交換時やチャイルドシートの組み付けやすさなど、クルマが停まっている時の事柄が上位に来ている。だから、日本のミニバンにはそれが反映された、クルマいうよりはマンションや建売住宅を造るような考え方でまとめられている。

5008は違う。7人が等しく安全に長距離も含めた移動ができることを最優先して造られている。そのためのシートそのものであり、アレンジだ。一台に大勢を乗せるという目的は同じなのに、こうもクルマが違ってでき上がってくるのかと驚かされる。善し悪しではなく、使われ方と価値観の違いだからどちらもアリだ。大人数を乗せるクルマが必要なのだけれども、日本製ミニバンとは違ったものを探している人には一度試してみることを強く勧めたくなった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア・居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

金子浩久|モータリングライター
1961年、東京生まれ。主な著書に、『10年10万キロストーリー 1~4』 『セナと日本人』『地球自動車旅行』『ニッポン・ミニ・ストーリー』『レクサスのジレンマ』『力説自動車』(共著)など。
《金子浩久》

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