【アテンザ開発者への10の質問】Q.10 マツダが目指すのは"日本のBMW"か?

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マツダ 藤原清志執行役員
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2012年11月、マツダが販売を開始した新型『アテンザ』。3月3日現在での受注台数は当初の予定を大幅に上回る1万2000台超と、上々の立ち上がりを見せている。

同社の新世代技術"SKYACTIV TECHNOLOGY"をフルに採用した新世界戦略車である新型アテンザはどのようにして生まれたのか。それを明らかにするため、アテンザ開発陣に「10の質問」を行った。

Q.10 マツダが目指すのは"日本のBMW"か?
A. スタンスは似ている。マツダは、日本のものづくりの象徴としてあり続けるために、数値では表せない感性の領域を大事にしていきたい。

SKYACTIV TECHNOLGYをフルに投入して開発された新型アテンザ。最後に、その開発を指揮した商品企画担当執行役員の藤原清志氏に、「マツダがアテンザに賭けた思い」を聞いてみた。

◆『靭(SINARI)』を活かせなければこの先10年間マツダは沈んだまま

「私は2011年の初めにパワートレーン開発の本部長兼役員から、商品企画やプログラム、デザインなどの担当執行役員になりました。その頃すでに新型アテンザの開発はスタートしていたんですが、開発の現場では悩みも色々あって、出来上がってきたアテンザのスタイリングは今一つという状況でした。すでに時間も少なくなっていて、厳しいタイミングでしたが『このままではいかん』と思い、思い切ってスタイリングをやり直すことを指示したんです。というのもデザインコンセプトの『靭(SINARI)』というスーパーモデルが登場して、今後しばらくのマツダデザインの方向性が決まったな、と思っていたからです。それは見方を返せば、『これを活かせなければこの先10年間はウチは沈んだままだな』という覚悟だったので、靭のデザインをアテンザで再現するように開発陣にハッパをかけました」

結果的にこの決断は正しかったかもしれないが、こうした大胆な行動はすぐに社内で認められたのだろうか。

◆怒られても仕方ない、やるしかないのだから。

「いや、上の人たちからは、相当怒られましたよ。『この時期にきてデザインをやり直すなど、何を考えてるんだ!』とね。でも、怒られても仕方ありません、やるしかないんですから。たまたまグローバルマーケティングセールス担当の毛籠と、デザイン本部長の前田、そして私という、かつて一緒にやってきた同僚が開発の責任を負う立場となったことで、力を合わせて何とか経営陣を説得することにしたんです。『3週間時間を下さい、何とかします』とね。まぁ実際にはそれを何度か繰り返して、結局2か月くらいかかりましたけどね」

ピンチをチャンスに変える努力こそ、マツダのものづくりを支えた影なる力だった。こうして3人の「やんちゃ」が防波堤になりつつ、開発スタッフの尻を叩いたことでアテンザの開発は土壇場での進化をみせたのだ。しかも藤原氏には、アテンザのパッケージングに持論があったと言う。

◆「勝負あったな」とほくそ笑んだパッケージング

「アテンザの場合、シャーシの基本はSKYACTIV TECHNOLOGYですでに完成度の高いものが出来ていたんですが、それを活かすデザインが出来ていなかった。だけどね、FFでもキャビンを後方に下げて、ちょっとFRっぽくすればグンとカッコ良くなるんです。私は元々パッケージングエンジニアなので、エンジンや乗員の配置を考えるのが得意なんですよ。FFでもタイヤを前に出して足元を外側に広げて、ちゃんと乗員を座らせてあげる。このレイアウトは、すでに2006年に考え出していたんですよ。これで勝負あったなと、実はほくそ笑んでいました」

しかし、この考え方はエンジンルームをコンパクトに作るFFの基本的な設計法とは全く逆の発想だ。実際に開発するエンジニアからの反発はなかったのだろうか。

「そうですね、従来はFFでは実現不可能なデザインと言われていましたから、抵抗はありましたよ。特に衝突安全技術の担当からは『FFでは逆効果じゃないか?』と言われましたが、クラッシャブルゾーンはエンジンルーム後方に作ればいいんです。それを実現することを考えるのがエンジニアの仕事でしょう」

難題に挑戦するからこそ、やりがいを感じる。「開発」という生みの苦しみを楽しむ姿勢がマツダのエンジニアたちに浸透しているからこそ、アテンザの開発はやり遂げられたのだった。独自の技術で走りの楽しさを追求する姿勢は、ドイツのBMWとダブるという印象もあるが、意識したことはあるだろうか。

◆いつかは欧州でも真っ向勝負ができるブランドに成長したい

「そう言ってもらえるのは光栄ですね。キャラクターは違うと思いますが、スタンスはBMWと似ているところもあるとは思っています。そして、この先いつかは欧州でも、商品力だけで真っ向勝負ができるブランドに成長したいですね。まぁ2040年とか50年になるかもしれませんが、そうでなければ日本の自動車メーカーでいる意味がないんじゃないでしょうか。クルマは白物家電とは違います。日本のものづくりの象徴としてあり続けるために、数値では表せない感性の領域を大事にしていきたい。それに、これからも日本の基幹産業として、雇用を支えているという自覚を持ち続けていきたいとも思っています」

開発と生産の両輪で技術レベルを引き上げて、生産の効率化を達成する「ものづくり革新」を掲げたマツダ。2006年から続けられてきた、この全社的プロジェクトはアテンザで完全に達成できたのだろうか。

「達成できてはいるんですが、実際に行なってみると反省もあるし、もっと上も見えてくる。これまではファーストステージだとすると、これからがセカンドステージ。また新たな挑戦の始まりですね」

「クルマを走らせることでドライバーの心を元気にしたい」と語る藤原氏。これからのアテンザの進化、そしてマツダが作り上げるクルマがますます楽しみになってきた。

《高根英幸》

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