【ホンダミーティング12】独自のDCTハイブリッド、そのメカニズム…井元康一郎

エコカー ハイブリッド
ホンダ、DCTと1モーターを組み合わせた小型車向けハイブリッドシステムを開発
  • ホンダ、DCTと1モーターを組み合わせた小型車向けハイブリッドシステムを開発
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  • 試作車の試乗会で用意された車両。中央の黒いフィットがSPORT HYBRID Intelligent Dual Clutch Drive搭載車

ホンダがマスメディアに公開した、コンパクトカー向けの次世代ハイブリッドパワートレインは、現行『フィットハイブリッド』などに使われているシステム「IMA」と同じく、1基のモーターをエンジンと変速機の間に置いて駆動をアシストしたり減速エネルギー回生をおこなったりするパラレルハイブリッド方式。が、その中身はエンジン、モーター、変速機、バッテリーなどすべてにわたり現行のIMAとは異なるもので、エネルギー効率30%アップをうたっている。

CVTよりも軽いi-DCD

システム構成は次のとおり。主機は一般のエンジンより熱効率の高いミラーサイクル方式の1.5リットル直4、モーターは出力20kW(約27馬力)以上の薄型平行巻き1基、変速機はCVTではなく7速乾式デュアルクラッチトランスミッション「i-DCD( intelligent-Dual Clutch Drive)」、バッテリーはGSユアサとの合弁会社ブルーエナジー製のリチウムイオン電池。

7速i-DCDは1-3-5-7速の奇数段、2-4-6速の偶数段の2系統の変速ギアを交互に使い、ギアチェンジにかかる時間をごく短くするというもので、原理的にはフォルクスワーゲンなどが広く採用している従来のデュアルクラッチトランスミッションと同じだ。異なるのは重量で、開発チームのエンジニアによれば、「同クラスのCVTと比べてもやや軽く仕上がっている」とのことだ。

モーターはそのi-DCDの奇数段に装着され、駆動力アシストやブレーキ時に減速エネルギー回生を行う。ちなみにトランスミッションからの出力側は奇数段、偶数段の両方が常時接続されているので、ハイブリッド機能は全段で機能することになる。もともとドイツの大手自動車部品メーカーのシェフラーが提唱していたアイデアで、トランスミッション自体はホンダの自主開発だが、デュアルクラッチなどにはシェフラーの部品が使われているという。

◆エネルギーロス低減が実感できる

さて、現行フィットのIMAと次世代ハイブリッドパワートレインは具体的にどう異なるのか。最大の違いは、DCTのクラッチ側にモーターを装着する方式に変更されたことで、エンジンとモーターが自在に切断、接続できるようになったことだろう。

これまでのIMAはモーターがエンジンに直付けされていたため、モーターパワーのみで走行する時はエンジンの空転にトルクを食われ、減速エネルギー回生のさいもエンジンブレーキによってエネルギーロスが発生するなど、もったいないこと甚だしかった。次世代機はエンジンを完全に停止させたままモーターのみで走行することが可能で、減速エネルギー回生時もモーターの発電による抗力を目一杯使えるようになる。現行IMAと比べて相当の燃費向上が期待できそうである。

◆「燃費以外の魅力をどれだけ上げられるかに腐心した」IMA

09年に福井威夫前社長が「次世代エコカーの本命はハイブリッド」と宣言して以降、ハイブリッド攻勢を仕掛けてきたホンダ。今年、ハイブリッドカー生産累計100万台を達成したものの、常に苦しい戦いを強いられてきた。09年にハイブリッド専用車『インサイト』をデビューさせたとき、開発に携わったシニアエンジニアは、「IMAを使う限り、燃費性能では『2代目プリウス』にも勝てないことは最初からわかっていた。そこで価格の安さ、運転の楽しさなど燃費以外のクルマの魅力をどれだけ上げられるかに腐心した」と語っていた。

果たしてその後、ホンダのハイブリッドカーは、ハイブリッドカーとしての性能の低さとトヨタの物量作戦によって苦戦することとなった。ハイブリッドカーの主戦場のひとつであるアメリカでは10月、『シビックハイブリッド』『CR-Z』『インサイト』『アキュラILX』の4車種合計でわずか1000台あまりしか売れなかった。

この数字はトヨタのハイブリッド車販売の20分の1でしかないばかりか、ハイブリッドカーではホンダよりさらに後発の現代自動車の『ソナタハイブリッド』1車種よりも少ないのである。ハイブリッドカーの地位が低い他の市場の状況は推して知るべしであろう。それでもホンダのハイブリッドカーがまだ壊滅せずにすんだのは、市場規模が年々縮小している日本市場でそれなりに販売台数を稼げたおかげだった。

◆ホンダの新ハイブリッドシステム導入は世界の勢力図をどう変えるか

このところ、すっかり立場をなくしてしまったホンダのハイブリッドだが、今までの挑戦が無駄だったというわけではない。本田技術研究所の研究員のひとりは07年の年央社長会見で低価格ハイブリッドカー(インサイト)が開発中であることがアナウンスされた当時、内情を次のように語っていた。

「ハイブリッド技術に力を入れなかったのは明らかに判断ミス。IMAは正直、トヨタに比べて周回遅れですが、これからクルマに電動化技術がどんどん入ってくることを考えると、遅れていようが何だろうがハイブリッドの本格量産を手がけるべきなんです。燃費改善効果は少なからずあるわけですから、お客様にとってメリットのある商品に仕立てることはできる。一方でクルマの仕立てや生産技術、サプライヤーさんとの技術交流など、かけがえのない経験ができる」

トヨタの前に一敗地にまみれながらもハイブリッドカーの量産を推進したことは、様々な面でホンダの財産になった。ライバルメーカーで電動化技術の研究開発を行なっているエンジニアの一人は言う。

「ハイブリッドの基幹特許といえばトヨタさんが有名ですが、モーター制御や製造法、出力制御装置のパッケージ、次世代パワー半導体など、ホンダさんの特許も意外にあるんです。また、安く作る工夫もすごい。実際に量産してきたメーカーの強みは決して小さくない」

ホンダのハイブリッドの象徴でもあり、足かせでもあったIMAは来年以降、ようやく次世代に切り替わる。「性能がIMAよりいいのは当たり前。コストもIMAと同等か、より低くしていく」と、開発者のひとりは息巻く。が、ハイブリッドカー開発に余念が無いのはホンダだけではない。日産自動車、三菱自動車、そして欧米勢も次々に優秀な市販モデルを投入してきている。世界のエコカー市場のなかでホンダの存在感がどう変化するのか、大いに見ものである。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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