【池原照雄の単眼複眼】スズキ、浪費した時間はまだ取り戻せる

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◆当初から思惑の違い

スズキと独VW(フォルクスワーゲン)の提携は、パートナーに託す双方の思惑の違いが時間とともに表面化し、修復できない亀裂となった。スズキは環境技術開発のための「時間を買う」狙いが「時間を浪費」する結果となった。もっとも、同社の環境技術開発が大きく出遅れているわけでもなく、今後、他社からの技術導入という選択肢も加えれば浪費した時間は十分取り戻せる。

2009年12月9日に東京で両社トップによる提携発表が行われた際、何とも言えないひっかかりのようなものを感じた。交渉が余りにもスピーディーだったのだ。発表会見で鈴木修会長兼社長が明らかにしたところによると、協議が始まったのが同年9月下旬であり、その後のトップ会談により、2か月余りでの合意となった。

◆急ぎ過ぎた「再婚」

VWによるスズキへの約19.9%の出資に関する交渉も「(自主独立を経営哲学とする)私の考え方を申し上げて(マルティン・ヴィンターコーン会長に)了承いただいた。1時間もかけていない」(鈴木会長)と話していた。提携解消について鈴木会長は「人間が結婚して離婚するのと同じ」と喩えたが、同じ論でいくと「再婚を急ぎ過ぎた」ともいえる。

つまり、スズキは27年間に及んだ米GM(ゼネラルモーターズ)との資本提携を08年11月に解消して独り身となっていた。そこに、VWからラブコールが寄せられ、交際期間もそこそこにパートナーに選んでしまった感が否めない。

両社が提携によって求める成果は、出発時点から微妙に食い違っていた。スズキが環境技術の導入や共同開発に重きを置く一方、VWは1000万台の販売実現による世界最大手への道を加速させたいというものだ。実際、提携発表会見でヴィンターコーン会長は「18年に世界トップを目指しているが、スズキの協力でもっと早くなると確信している」と語っていた。

◆HVはライセンス導入の現実路線も

出資比率を20%未満に止め、「自主独立」を堅持したいという鈴木会長の方針に表面上の理解は示しても、やがては出資を増やして傘下ブランドに加えたいという深謀遠慮があったのではないか。一方でスズキ側には、出資はしても独立を脅かすことのなかったGMとの良好な提携関係が、新たなパートナーとも構築できるという楽観的な観測があったように見える。

提携解消により、スズキは自前での環境技術開発に注力する方針だが、幸いVWとの協業は進まないとの判断を早期に下し、「今年初めからは自主開発を加速させてきた」(鈴木会長)という。次世代環境車については、かつてGMの協力を得て燃料電池車などを試作した実績がある。

HV(ハイブリッド車)も、ごく少数だが軽自動車での市販実績のほか、『スイフト』をベースに開発したシリーズ式の「レンジエクステンダー」が実用化段階にある。HVは先行メーカーによる特許の壁が大きいものの、ライセンスの導入といった現実路線もある。それは経営の独立性を棄損させるものではないのだから。

《池原照雄》

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