【池原照雄の単眼複眼】豊田社長緊急インタビュー

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トヨタ自動車の豊田章男社長
  • トヨタ自動車の豊田章男社長
  • トヨタ自動車の豊田章男社長は9月8日、プレジャーボートの試乗会に参加した報道陣と横浜みなとみらいの特設コースでレーシングカートで対決をした。
  • 「日本のモノづくり」強化に向けた新体制発表会見(7月13日)
  • レクサスLFA(9月8日)
  • トヨタ・ヴィッツG's(9月8日)
  • トヨタPONAM-35(9月8日)
  • 豊田社長、セールスフォース・ドットコムとの提携を発表(5月23日)。
  • トヨタとフォードは、ハイブリッドシステムとテレマティクス技術の共同開発で協力することを発表(8月22日)。

トヨタ自動車の豊田章男社長はこのほど筆者とのインタビューに応じ、最高値水準が続く円高には部品産業を含む「総力戦」で臨み、日本での生産や開発機能を死守したいとの方針を示した。また、東日本大震災による減産の挽回では、同社の生産回復が日本経済への「ポジティブメッセージ」になるとして、生産量には「相当こだわっていく」との考えを強調した。

◆このままでは製造業の姿ががらっと変わる

--- 5月の決算発表時に円高によって国内生産の維持は「理屈に合わない」と指摘していましたが、さらに円高が進み最高値に張り付いています。どのような対策を講じていきますか。

豊田 あらゆることをやっていますが、やはり70数円台のレベルがここまで長期間続くと……。私が心配しているのは、こうした状態が3年、5年と続くと日本の製造業の姿ががらっと変わってしまうということです。変わったのが見え始めた時には、もう手遅れなんですよね。

いま、私どもも日本で年300万台の生産を確保して、最先端技術をここで開発していくことにしていますが、少なくともそこの部分で(海外に)出ていくことを何とか止めなければ、これは大変なことになります。手遅れにならないよう、われわれ自身やれることは何でもやろうと取り組んでいますが、これだけの円高が長期間続くと、本当に大変です。

◆保有ストックを生かし日本市場の活性化を

--- 国内300万台を死守するということは現時点では変わらないですね。

豊田 変えていません。日本は約7500万台の保有台数がありますから、せめてこれが10年に1度(代替需要として)回転していくような税制改正などを行うと、ストックが回るようになります。日本は人口が増えていく国ではありませんからフローで伸びる市場ではないですね。

しかしながら、新興諸国などになくて日本にあるのはストックですから、ここを回転させる。新車としてのサイクルは10数年ですが、新車としての保有がもう少し短くなるように、そのためにも税金とかクルマを持つことによるコストを軽減できないかと。円高は市場相手ですが、保有コストのところは政策の考え方次第になると思いますので、日本自動車工業会としても積極的に取り組んでいます。

日本という会社があった場合、資源がないわけですから、どこかの部門が外貨を稼ぎ、資源や食糧を輸入しなければなりません。そうした明日の生活の基礎をつくるためには、やはり自動車産業が必要で頼りになる産業だと思います。是非、皆様方のご支援をいただき、震災からの復興とか日本経済再生のど真ん中に、自動車産業を置いていただきたいと思っています。

--- 保有ストックを生かして日本の自動車市場を活性化させれば、国内生産の維持や雇用確保にもつながるということですね。

豊田 そうです。国内市場は円高の影響は余りありませんから。ただし、円高が長期にわたると、部品調達まで海外製が大きく増えていき、製造業の絵模様が変わってしまいます。

◆生産量の回復には相当こだわっていく

--- 部品調達では先般、韓国の部品メーカーを本社に招いて展示会を開きました。国内生産を守るためには、日本の部品産業とも痛みを分かち合うことは避けられない段階ですね。

豊田 (部品産業を含む)総力戦になります。いままではある面、カーメーカーが(世界のメーカーと)列して来ましたが、ここからは総力戦。日本のモノづくりをどうするかという段階に、もう入っています。そうした時に、お取引先にお願いするだけでなく、トヨタの開発とか、本社機能をどう変えていくか……。総力戦ということはトヨタも変わる必要があります。

--- 震災からの生産の回復状況ですが、期間工さんの採用難や、一部の部品が不足するといった支障は出ていませんか。

豊田 いまのところは大丈夫です。期間従業員さんの採用なども計画どおり進んでいます。今年度の当初計画(グローバル生産)に対しては一時マイナス200万台くらいの影響も想定されたのですが、お陰さまで16万台くらいまでに下がってきています。やはり、いまトヨタに求められているのは復興に向けて頑張れよということですから、年度後半にものすごく頑張るような計画を立てています。

生産台数が上がったということは非常に分かりやすく、世の中にも一番のポジティブメッセージになると思います。ですから相当、量にはこだわっていきます。現場も一時は、造りたくても造れないという辛い気持を味わってきましたので、休日稼働とかで頑張ってくれています。造れる喜びというのを、われわれも従業員も一緒に感じています。

◆労組トップと全工場を回った

--- 震災直後に被災地を訪問した際、生産や販売の現場に1日も早く「日常を取り戻したい」とおっしゃっていましたが、ようやく戻ってきたということでしょうか。

豊田 そうです。ただ、こういう時はやはり安全第一で行きたいと思いますので、昔のように現場では声掛けとか、激励とかをものすごくやっています。私も労組のトップと一緒に各工場をまわり、9月初めまでに終わったところです。それも、2人で突然「行こうか」といって訪問してきました。現場は慌てるのですが、喜んでくれ、頑張ろうという気になってくれています。

やはり、木、金曜日休みへの休日シフトは大変です。共働きの家庭もありますし、世の中が通常のパターンで動いていますから、休みが少なくなったという人もいます。また、地域のイベントへの参加者や出し物が少なくなったなどと、ご迷惑をかけたりもしていますが、従業員は一生懸命やってくれています。それが結果としてあるレベルの数字が出るようになって、みんなに達成感を味わってもらいたいなと思っています。

◆フォードとは自動車産業の未来への握手

--- フォードモーターとハイブリッドおよびテレマティクスでの提携に基本合意しました。内山田竹志副社長によるとアラン・ムラーリCEOと豊田社長が偶然、空港で会ったのが発端とのことですが、あれは内山田さんのジョークですか。

豊田 いや、ジョークではないんですけどね(笑)。ムラーリCEOは、もともとボーイングに居らっしゃった方ですし、ボーイングにはアメリカでトヨタ生産方式を一緒にやるグループにずっと入っていただいていましたので、そういう接点はありました。

--- 先端分野での新たな日米産業協力という意味合いもありますし、トヨタにとっても多くの成果が期待できそうです。

豊田 いい成果を石にかじりついてでも造り出していくということです。両社で競争はしますけど、自動車産業の未来に向けての握手だと思っていただきたい。アメリカのピックアップトラックというのは日本の軽自動車のように国民の足になっています。今回、アメリカの新たな燃費規制計画も出ましたが、そこに向けてハイブリッドの新たな第一歩が始まったなと思っています。

フォードさんはピックアップトラックを得意とされているので、われわれが学ぶところもたくさんあります。ハイブリッド技術についてはお互いの技術を出し合って、未来への造りをしようというわけですから、ちょっとこれまでのハイブリッドの提携とは異なってくると思っています。

◆「いいクルマ」造れるなら貪欲に提携

--- 社長就任以来、テスラモーターズやマイクロソフト、セールスフォース・ドットコムなど従来の大手自動車企業では想定できないような提携を活発にしてきました。狙いはどこにあるのでしょう。また、今後もこうした提携戦略は進めますか。

豊田 「いいクルマ」をつくるということ。その軸を通して見ていただければ、狙いが納得いただけると思います。われわれコンベンショナルな自動車メーカーと、シリコンバレー中心のIT産業が一緒にいいクルマを造るとどうなるかということですね。

それから、走る、曲がる、止まるという基本性能と同等くらいに、「つながる」というテレマティクス技術のバリューが出てくる。トヨタはそう考えています。その意味でいいクルマを造ることのできる相手とは、貪欲に(提携して)いきたいと思っています。

《池原照雄》

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