マツダ『デミオ13-SKYACTIV』のCd値は0.29である。これがどれだけ凄いことかお分かりだろうか。Cd値だけを見れば、もっと良い数字のクルマは量産車にもたくさんある。しかし、これらはすべてCセグメント以上のクルマなのだ。
1台のクルマの前面空気抵抗を前面投影面積で割ったものがCd値であるから、大きなクルマも小さなクルマもイコールコンディションだと思われるかもしれない。しかし実際には、小さなボディにクルマとして必要な要素を盛り込んでいる分、コンパクトなクルマの方が空力的な設計は厳しいのである。ボディパネル1枚1枚が大きければ、各部のつながりはよりスムースにできる。空気の流れを御しやすいのだ。
アンダーフロアを樹脂製のパネルで覆いフラットボトム化を図り、タイヤの前にはディフレクター(ストレーキ)と呼ぶ整流板、リヤゲートにはスポイラーも装備。ここまでやってCd値0.29。これは200万円以上するドイツのクルマではなく、100万円台前半の国産コンパクト、Cセグメントでの話だ。
しかし10・15モード燃費では空気抵抗軽減の効果はそれほど大きくはないはず。60km/h以上の速度域では効果が大きいことを考えると、高速巡航時の燃費性能には大きな効果がありそうだが、そこが狙いなのだろうか。
デミオ開発担当主査の水野成夫氏に訊いたところ、意外な答えが帰ってきた。「空力は燃費のためじゃなく、“伸び感”の向上を狙ったんです」。
高速道路を利用して、インターチェンジから本線に合流する時のことをイメージしてほしい。加速車線でアクセルを踏んで加速していくと、最初は強い加速感が感じられるが徐々に弱まり、実際の車速の上昇も鈍ってくる。これは速度が上昇するほどに空気抵抗が増していくのも大きな原因なのである。
「パワーのあるクルマなら強引に加速していくこともできますが、燃費性能も重視したコンパクトカーでは難しい。でも加速の伸び感は、クルマを運転している中で非常に気持ちのいい感覚なんですね。それを実現すべく空力を追求したんです」
例えるならそれはスポーツカーのような爽快な走行感か。マツダの言う伸び感とは、静かさや意のままに走る操縦性と共に「クルマの上質感」を感じさせる重要な要素なのだ。