大矢アキオの『ヴェローチェ!』…フィアットの仮想敵は デュアリス

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 ブラーヴォ後継はゴルフ競合を避ける

フィアットが小型車『ブラーヴォ』の後継車を、現在のファミリーカーからクロスオーバー車に転換する可能性が高まった。関係筋の話として、複数の欧州自動車メディアがこのほど伝えた。

現行ブラーヴォは、Cセグメントの5ドアハッチバック車。後継車は2013年に発表予定で、欧州で販売好調の日産『キャシュカイ』(日本名『デュアリス』)をターゲットにしたモデルになる見込みだ。

これが事実だとすると、フィアット・ブランドが30年以上にわたって挑んできたフォルクスワーゲン(VW)『ゴルフ』のライバル車開発に終止符を打つことになる。

フィアットにおけるVWゴルフを意識した最初のモデルは、1978年の『リトモ』だった。その後継車である1988年『ティーポ』では、メーカー自らVWゴルフを目標にしたことを名言。「ゴルフGTI」に相当するスポーツバージョンも用意したうえ、2年後にはVW『ジェッタ』に相当する3ボックス版『テンプラ』も追加した。

しかし1995年の初代ブラーヴォと『ブラーヴァ』は、フィアットの経営不振によるイメージ低下に引きずられるかたちで国内外の販売が伸び悩んだ。

さらに、それら2モデルと交代するかたちで2001年に誕生した『スティーロ』も無国籍なデザインが不評を招き、初期品質の不安定も追い討ちをかけた。そのためイタリア本国でも月間登録台数はVWゴルフの約3分の1にとどまる月が続き、新たなライバルであるフォード『フォーカス』にも水をあけられる結果となった。

それを挽回すべく07年に発表した現行ブラーヴォは、マルキオンネCEOの体制下でエンジニアリングをオーストリアのマグナ・シュタイア社にアウトソーシングするなど開発コスト削減を図り、「利益が出る車づくり」を目指した。

ただし、このブラーヴォも発売当初こそ本国で月間5000台の登録を記録してVWゴルフを抜いたものの次第に台数が低下。11年1月の登録台数ではゴルフの半分以下の2245台に留まっている。欧州全体の10年販売をみるとさらに深刻で、前年比マイナス36%の約4万4800台となり、VWゴルフ(約50万台)の足元にも及ばなかった。

筆者がイタリアの街で観察していても、ブラーヴォでよく目にするのは「カンパニーカー」といわれる民間企業幹部に貸与するリースカーや個人用レンタカー、もしくはパトロールカーなど官公庁用だ。ファミリーユースは少ない。

思えば、初代VWゴルフ(1974年発表)をデザインしたジョルジェット・ジウジアーロが初めてVWの開発センターに招ばれた際、そこにはフィアット『128』(69年発表)が研究用に分解してあったという。

今日に続く前輪駆動大衆車の先駆けとして、巨人VWの目標にまでなっていたフィアットが、最終的には彼らに勝てなかったことに深い感慨を禁じ得ない。

大矢アキオの欧州通信『ヴェローチェ!』
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。
《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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