Response. ホンダ車、低燃費の秘密に迫る！

1954年東京都生まれ　モータージャーナリスト＆レーシングドライバー日本カーオブザイヤー選考委員 1972年にラリーデビュー以来、プロフェッショナルなレースドライバーとして国内外の耐久レースで活躍するいっぽう、自動車ジャーナリストとして活動を行っている。ドライビングを科学的に分析する能力はクルマの正確な評価にも生かされ、シャープな評論は支持者が多い

清水-　低燃費の要求は、F1も市販車もいっしょですね。それにクルマだけじゃなくて、飛行機や船など、すべての乗り物の共通の課題なのではないでしょうか。ボクのNSXも高速だと10km/�は超えるぐらいですし、ホンダの場合、エンジンだけじゃなく、すべてにおいて効率主義といっていいと思います。その点について、エンジニアの立場から意見を聞かせてもらえますか？

鈴木-　個人的にも燃費というのはクルマにおける技術の結集だと思っています。実際のところ、パワーを単純に出すよりもむずかしい。資源も無限ではないですし、ホンダの技術者は「より進化させたい」とか、「社会に貢献したい」といった『想い』をもって仕事をしています。技術的にもエンジンだけではなく、車体と融合したときに、フィットみたいな燃費のいいクルマができるといっていいですね。

清水-　燃費のよさというのは、確かにエンジンだけじゃなくて、トランスミッションや空力、タイヤなどの総合力ですよね。昔でいうと、CVCCを開発してアメリカでマスキー法を初めてクリアしたのはホンダですが、そういう精神というのは今でも継承されていますか？

鈴木-　もちろん今でも息づいていますよ。そもそも初めて海外出張に行ったのが当時のカリフォルニアで、飛行機から見るとスモッグで街がかすんで見えるんですね。あの実体験というのは、今でもベースになっています。

清水-　マスキー法を受けて、日本でも昭和53年規制が始まった。風当たりが強いなか、モータースポーツを全開でやっていた頃なんですけど、その当時は、燃費を改善するとかって意識していましたか？

鈴木-　個人的にもスポーツカーに乗っていたんで(笑)。あまり気にしていなかったですね。

清水-　そういう昔話は置いておいて、そもそも走行性能と低燃費って両立しないものですか？

鈴木-　そうとはいえないです。

清水-　F1はリッター300psを出しながら、燃費を考えなくてはいけない。パワーというのは必須ですよね。これは市販車でも同じですし、ホンダの場合はとくにスポーティな味付けを求められる方が多い。しかも燃費はいいほうがいい……、と。

鈴木-　パワーを出すには空気をいっぱい入れなくてはならないのですが、そういう意味では低燃費にもつながります。ただし理論空燃費の14.7だと無駄が多くて、燃料を薄くしてやる必要がある。つまりリーンバーン(希薄燃焼)ですよね。このような方法を使うことによって、出力を向上させ、さらにエミッションを犠牲にすることなく、燃費をよくすることができます。

清水-　直噴はどうですか？

鈴木-　ノッキングが起こりにくいので、効率を落とさずに燃費はアップします。たとえば、できるだけ小さい排気量から大きなトルクを出すという考え方にマッチしていると思いますね。

清水-　また空気を吸うという点では一番問題になっているのがポンピングロスだと思うのですが、これは可変タイミングで解消していますよね。

鈴木-　はい。2005年9月に発売開始したシビックでは、インテークバルブが閉じるのを遅らせることで、解消しています。それに低速ではそれほど空気は要らないので、逃がしてやる効果もあります。

(株)本田技術研究所　四輪開発センター執行役員 1982年に(株)本田技術研究所入社。エンジン領域を一貫して担当し、インスパイア/ビガー、シビックなどを担当。エンジンPL(プロジェクトリーダー)/LPL(ラージプロジェクトリーダー)などを経て、現在執行役員

清水-　10年前よりもエンジンというのは制御が緻密になっている。その代表的なのがホンダが世界に先駆けて開発・実用化した
VTECといっていい。

鈴木-　結局、加速/クルージング/アイドリングで求められる理想の状況というのは違ってくるわけです。それに的確に合わせるためにはバルブまわりの技術は重要です。

清水-　あと、ホンダはCVTにもこだわっていますよね。

鈴木-　これは地域と排気量に影響されると思っています。アメリカだと一般のATですし、ヨーロッパは小排気量でMT。日本は
CVTが有効ですしね。ただし、ハイブリッドですと、ホンダの挟み込み式は、CVTとのマッチングはとてもいい。とくにトルコンなしで、ダイレクトに制御できるのはメリットは大きいです。

清水-　そういえば、あまりみんな知らないし、いわないのがホンダのATって平行軸式で他社とはまったく違いますよね。

鈴木-　平行軸式はギアの噛み合い抵抗がとても少ないので、燃費にも有利です。それにロックアップ領域での伝達効率をよりMTに近づけることができます。

清水-　それはいい。ボクのNSXもATだったんだけど、だからよかったのか……。この意識させないっていうのは大切ですよね。普通に走りを楽しんで、燃費がいい。ホンダらしいというか、理想的な形だ。

清水-　持論として、カメみたいにゆっくり走って燃費がいいというのは自慢にならない。スピードを出して、チャンと走ってこそ、自動車の存在意義がある。そのうえで燃費をよくしていくことを考えなくてはいけない。日本人とはとかく省エネというと我慢に走ってしまうのはちょっと違うと思っています。

鈴木-　まったくその通りですね。研究所でも、安全/環境/品質というテーマを掲げつつ、乗って楽しいというのは大前提としてありますから。やっぱり、何度もいうように省エネ技術や環境技術って、それを意識させるようではダメなんですよ。我慢を強いたりしては、意味がないですし、ユーザーからもすぐに反応が返ってきてしまいますからね。