編集部 ブーレイさんは三菱でデザイン・アイデンティティを立て直しつつあります。フミアさんはブランドを意識したデザインを長く手掛けてきました。デザイン・アイデンティティあるいはブランド・アイデンティティの役割、重要性は何でしょうか。概論から参りましょう。
ブーレイ 企業によってその役割や重要性は異なります。三菱の場合、その技術力やスポーツ活動がアイデンティティなっていますが、日本のクルマ産業は第2次世界大戦以後にアメリカの影響下に成長して、いまアイデンティティを創造する時期に来ています。ブランドの本質を端的に表現すれば「認識」ですね。その企業がどう認識されるか、どう認識させるかということです。
フミア まず新しいクルマで新しいブランドを形成する場合があります。ルノーのエスパスがその例ですね。革新的なクルマで企業イメージもそうなった。いっぽう、すでに伝統が確立されている企業ではその継続が大切です。私も三菱のデザイン・コンサルタントを務めたことがあり、その際には“日本企業であること”と、重工や金融などグループ各社の活動を反映させることを主張しました。
ブーレイ 日本の消費者はブランドマニアですね。ルイビトンやグッチなどを買いたがります。でもイッセイ・ミヤケとか、欧米で成功している日本ブランドもあるんですよ。
フミア 自動車メーカーでは、アキュラやレクサスなど、日本企業だけが新ブランドの確立に成功しているのは、興味深い事実です。
ブーレイ しかもそれが商業的に成功している。
フミア そういった例があるにもかかわらず、日本の自動車メーカーのブランド・マーケティングは欧米とは異なります。70年代、ピニンファリーナに在籍時代、ホンダに「H」マークをモチーフにしたカーデザインを提案したのですが、受け入れられませんでした。三菱もスリーダイヤモンド・マークを意匠として使いたがらなかった。
つまり日本市場では個々の車種がステータスをもつんですね。「私は『セルシオ』に乗っています」と。それに対して欧米ではブランドネームがステータスです。「私は『メルセデスベンツ』に乗っています」とね。日本メーカーはロゴやマーク、すなわち企業イメージをもっと大切にすべきですよ。
ブーレイ それは、車種が多くてしかもモデルチェンジ・サイクルが短いため、ブランドがすぐに消えてしまうからだと思います。日本メーカーでもスバルは車種が少なくてモデルチェンジ・サイクルも長いので、ブランドができあがっていますよ。
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