検察側の求刑に異を唱えた裁判官、判決は…

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今年3月に起きた死亡ひき逃げ事件について、これを担当していた裁判官が「論告で求刑された刑が軽すぎる」と、法廷外で検察側に異例ともいえる指摘を行った案件の判決公判が9日、岡山地裁倉敷支部で開かれた。裁判官は改めてなされた求刑に基づき、当初なされた求刑と同じ懲役3年の実刑を被告に命じている。

問題の事件は今年3月24日に発生している。岡山県倉敷市内の市道で、21歳の男が運転する乗用車が交差点で自転車と出会い頭に衝突。自転車に乗っていた54歳の女性は死亡したが、男は現場からの逃走を図った。

男はその後、業務上過失致死と道路交通法違反(ひき逃げ)などの容疑で逮捕。4月には同罪で起訴されていたが、事件を反省する態度はほとんど示してこなかったという。

検察側は7月5日に岡山地裁倉敷支部で開かれた論告求刑公判において、懲役3年の実刑判決を求めた。ところが翌6日にこの公判を担当している樋上慎二裁判官が担当の検察官を裁判所に呼び、「刑が軽きに失する」として文書で釈明を求めるという異例の指摘を行った。

検察側は被告の罪状などの論告を付け加え、8月26日に再度開かれた論告求刑公判で懲役4年の実刑を求めている。

被告弁護側はこれについて猛反発。「裁判官の訴訟指揮は刑事訴訟法に反し、現状のままでは公平な裁判が期待できない」と主張し、裁判官の忌避を広島高裁岡山支部に求めていた。だが、高裁はこれを棄却。樋上裁判官が判決までを担当することになった。

9日に行われた判決公判で樋上裁判官は「被告の運転は劣悪であり、危険運転の故意行為にも準ずる」として、懲役3年の実刑を命じている。この量刑は当初の求刑と同じ期間となるが、これについては「裁判官は求刑に基づき、実際の量刑の上限を決めるが、求刑よりも短めの量刑を命じるのが通例」と主張。

今回のように「懲役3年の実刑」を命じるためには、「それ以上の求刑が必要」という判断を示すとともに、「審理が尽くされたものでなければ安易に判決を言い渡せないことは明白。ただ判決を出すのは軽率であり、担当の検察官に論告についての釈明を求めること自体は訴訟指揮に当たらず適法」と、自らの考えを肯定した。

ただし、被告弁護側は「公平な訴訟とはいえない」という態度を崩しておらず、早急に控訴する方針だ。

《石田真一》

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