胎児も母親とは別人格---交通事故裁判で日本初

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居眠り運転が原因で対向車との衝突事故を起こし、このクルマに乗っていた当時妊娠7カ月の女性を負傷させたとして、業務上過失傷害罪に問われた27歳の男に対する判決公判が2日、鹿児島地裁で行われた。

裁判所は事故当時は胎児だった女児の傷害についても認め、男に対して禁固2年(執行猶予4年)の有罪判決を言い渡した。交通事故を起因とする裁判で、胎児にも人格権があるとみなし、業務上過失傷害罪を適用した判決はこれが日本では初めてとなる。

判決によると、問題の事故は2002年1月に鹿児島県姶良(あいら)町内で発生している。乗用車を居眠り運転した男が対向してきた軽自動車に衝突し、当時妊娠7カ月だった女性に重傷を負わせた。

女性は事故によって常位胎盤早期剥離などの症状を負っており、胎児の生命に危険が生じたことを理由に緊急の帝王切開手術を決行。事故から6時間後に女児を出産した。しかし、この女児は水頭症となり、現在でも後遺障害が残っているという。

日本の刑法では誕生前の胎児には人格権はなく、人ではないとみなされている。ただし、1988年に行われた水俣病に関連する訴訟では出生後死亡した人(発病時は胎児)への業務上過失致死罪の成立を認める判決も言い渡されており、最高裁も「出生後に程度が悪化した場合には成立の余地がある」という条件付きでこれを容認している。

鹿児島地検ではこの判例を参考に検討を重ねてきたが、被害者の女性が事故直後に女児を出産しており、それ自体が事故を起因とする緊急的な措置だったこと。出産後に判明した女児の水頭症は事故を原因とした可能性が高いことから「事故時に女児の人格権は存在していた」として、女性に負傷を負わせた責任だけではなく、胎児だった女児にも傷害を負わせた責任を追及していた。

2日の判決で鹿児島地裁の大原英雄裁判官は「母親に対する罪との加重処罰にあたる」と主張していた弁護側の主張を退け、女児に人格権が存在していたことを容認した上で「事故当時は胎児だった女児の負った傷害は、事故によって母体が傷害を受けたことに起因することは明らか」として、母親だけではなく子供へ傷害を与えたことも認め、執行猶予付きの有罪判決を言い渡している。

人格権がどの段階で発生するのかということについては法曹関係者によって意見が違っており、今回の判決についても賛否が分かれることは間違いない。

ちなみに海外では「妊娠段階で人格権を認めるべき」という考え方が採用されたことも過去にあった。しかし、胎児に人格権を認めた場合、妊娠中絶行為が殺人罪に当たるという解釈も可能となるため、後に大きな論争も巻き起こり、現時点でも明確な判断は出されていない。

《石田真一》

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