自動運転のカギとなるHDマップ、23年にも一般道に拡大へ…ダイナミックマップ基盤

新たなスローガンを掲げて意気込みを語った稲畑廣行社長(右)と吉村修一副社長
  • 新たなスローガンを掲げて意気込みを語った稲畑廣行社長(右)と吉村修一副社長
  • 一般道の主要幹線道まで対象を拡大することで、2024年には13万kmにまで広げることを目指す
  • 一般道では対象とする地物が数多く存在し、そのリンク情報はHDマップのキモとなる部分
  • 東京都内の環状8号線を点群撮影したもの。駐車車両が測量の障害となることも数多かったという
  • 首都高速・池尻大橋JCTの点群データ。路面の情報から周辺尾形状まで見事に取得できている
  • 地図の高精度化によって“先読み”が可能となり、安全かつ快適な車両制御が可能となる
  • 一般道のでHDマップのイメージ。車線リンクがデータの根幹となる
  • 次世代HDマップの今後の整備計画

高精度3次元地図データを開発するダイナミックマップ基盤は4月7日、2023年度からデータ提供を一般道にまで拡大すると発表した。これまではデータ提供を高速道路など中心としていたが、今後は国道など主要幹線道路にまで広げ、一般道での自動運転実用化につなげていく。

2024年にはHDマップを一般道の主要幹線を含む13万kmで展開予定

ダイナミックマップ基盤が提供している高精度3次元地図データ(HDマップ)は、2020年度で国内の高速道路や自動車専用道路の3万1777km(上下線の合計)をカバーしている。今回の発表では、それを23年度には主要国道を加えた約8万kmに、24年度には主要地方道を含めた約13万kmにまでカバー範囲を広げる計画とした。

これまでHDマップは、2019年に日産『スカイライン』が採用した「プロパイロット2.0」で初めて実用化され、21年3月にはホンダ『レジェンド』が世界で初めて自動運転レベル3を実現する「ホンダセンシング・エリート」で使われている。

ダイナミックマップ基盤は23年頃にはHDマップを搭載した高度な先進運転支援システムを搭載したクルマが本格的に普及し始めると予測。それまでに自動運転技術の土台とも言える地図データを整備することで自動運転の普及を後押ししていきたい考えだ。

そもそも自動走行は「認知」「判断」「操作」の3つの要素によって成立する。道路上にある様々な情報を高精度にデータ化したHDマップは、このうち「認知」と「判断」の分野で活用され、そこで得た情報があって初めて車両制御「操作」は可能となる。つまり、自動運転を実現するためにはこの高精度化は欠かせず、そのために開発されたのがHDマップなのだ。

HDマップによって「人が読む地図ではなく、クルマが読む地図」へ

そうした中でダイナミックマップ基盤が提供するHDマップは、点群データの一つひとつに3Dの座標情報から書き起こした地図である。その精度は極めて高く、自車位置を車線ごとに判別できる“cm級”の高精度化を実現。そのデータには車線や区画線、信号や標識の位置などのあらゆる道路空間情報を含まれる。信号と停止線のリンクも一つずつ正確に反映され、自動走行中の信号機対応も実現するのだ。

ダイナミックマップ基盤ではこの高精度化について「人が読む地図ではなく、クルマが読む地図」と表現する。これまで車載される地図データはカーナビに使われていたが、今後はそうした分野はスマホを活用する状況も想定され、HDマップはクルマの制御系で使われる地図データに切り替わっていくという意味を込めた。

そして、これらの正確な情報を反映させることで実現できるのが、ルート上の“先読み”だ。道路状況の変化はもちろん、雨や雪といった悪天候下でカメラやセンサーの測位に問題が生じても自動運転を補うことも可能となる。さらに車線や路面表示のかすれなどでカメラやセンサーで認知できない場合でも自動運転車のサポートが継続でき、これらはまさにHDマップだからこそ可能となるものなのだ。

一方、ダイナミックマップ基盤としては、HDマップのコスト削減にも努めていくことも明らかにした。小型車や軽自動車といった多くの車種で先進運転支援システムが採用されれば、HDマップの低コスト化は当然要求されるはずだからだ。

HDマップの普及に欠かせない低コスト化とフォーマット統一

そのためにダイナミックマップ基盤が活用するのが北米のグループ会社「アッシャー」の技術だ。アッシャーは2017年から北米でHDマップをGMの車両に搭載し、すでにコスト削減に向けたビジネスモデルを展開済み。今後はアッシャーとのデータフォーマットを統一し、HDマップの低コスト化を進めていくことにしている。

ただ、一般道へのデータエリアの拡大は、コスト削減に逆行しているのではないかとの疑問も湧く。それについて吉村修一副社長は、「HDマップとは言え、他のパーツのような材料費はかからない。(データさえ作れば)搭載車が増えれば増えるほどコストは下がっていく」と説明。

さらにデータ収集を行う測定車(MMS)のコストについても「測定車が高価であることは確かだが、制作コストの中でそれほど大きいものではない。むしろ点群データを変換するコストの方が高い」(吉村副社長)とする。つまり、ここにアッシャーの技術を投入することで制作コストの削減に結びつけていくというわけだ。

また、データフォーマットの統一について吉村副社長はアジアや欧州への展開も視野に入れていると話す。欧州にはTomTomやHEREがHDマップで先行しているが、実はそのスタートが早かったこともあり、収集したデータはダイナミックマップ基盤が整備しているものよりも精度で見劣りがするという。その精度の高さで売り込めば十分に勝算はあると見込んでいるようだ。

ダイナミックマップ基盤は、このHDマップの構築を目的として、2016年に国の支援を受けた“オールジャパン”体制の会社として誕生した。主体は測量会社のアイサンテクノロジーやパスコ、計測機器を手掛ける三菱電機、地図会社であるインクリメントP、ゼンリン、マップマスターで、ここに国内自動車メーカー10社が出資して成り立っている。自動運転を世界に先駆けて普及させられるかは、まさにこのHDマップの成否にかかっていると言っていいだろう。

《会田肇》

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