■BMWらしさはセダンから
---:100周年を記念するコンセプトカーをデザインするにあたり、なぜオーソドックスなセダンというボディタイプを選択したのでしょうか。
永島譲二氏(以下敬称略):BMW100年の歴史を振り返ると様々なクルマが存在します。そこでまず、BMWを代表するクルマはどういうタイプかを部内でアンケートを取りました。その結果、ひとつは『3.0CSi』からの流れを汲むクーペの『6シリーズ』でした。もうひとつは『2002』で、ほぼ半々の意見に分かれました。実は丁度ヴィラデステコンクールデレガンスに出展した『3.0CSLオマージュ』を制作していた時期で、3.0を選ぶとクーペが重なってしまいます。そこで、一方のBMWを代表するのは小型から中型のセダンだと判断し、4ドアセダンという枠組みを決めました。

永島:突飛な、ぷっとんだアイデアを皆に求めました。これは、未来的なショーカーを作る際には、最初の段階ではものすごくワイルドなアイデアを求めるのと同じで、そうすると色々なアイデアが出てくるのです。今回のフェンダーが伸び縮みするようなアイデアもその一例です。それ以外にも10以上のアイデアがありました。


永島:常にインテリアデザインは、エクステリアより遅れてスタートします。なぜなら大体の枠組みがないとデザインが始められないからです。
VISION NEXT 100のエクステリアの大きな特徴であるフェンダーが伸び縮する部分を“アライブジオメトリー”と呼んでおり、これは生きている仕組みというような意味です。このアイデアを室内にも使いたいと考えました。


---:このVISION NEXT 100ですが、ここから将来のBMWを暗示しているようなモチーフはあるのでしょうか。
永島:直接的にはあるとはいい難いです。次世代というと2年以内というイメージですが、もうそのあたりにデビューするクルマのデザインはかなり進んでいるかもう終わっていますので、このVISION NEXT 100のデザインを反映させるのは難しいのです。
また、VISION NEXT 100では自動運転可能なイメージでデザインされていますが、将来的には確実に実現されるこの技術も、現在では法的整備等、考えていかなければいけないことは多くあります。そういうことを踏まえ、アイデアのどれか使われるかというと、キドニーグリルくらいとしかいえません。

永島:具体的に将来こうなるというデザイン提案ではなく、もっとスピリチュアル的に継承されるものがあります。例えば、グリルなどの伝統の部分は継承されるでしょう。一方で、全社的な意思として過去に固執せず、常に未来を見ています。
プレミアムブランドであろうとすると、確かにひとつには伝統に頼るという手もあり、そういうメーカーがあってもいいと思いますが、BMWの場合はむしろその逆です。我々は“プレミアム”と“ラグジュアリー”という言葉を分けて使っており、あえてラグジュアリーとはいいません。その理由は、ラグジュアリーというのは無駄であることが贅沢であるということと少しつながるからです。BMWの場合にはそうではなく、機能性が高いことが高級であると考えています。そういうスピリットを表現したかったのです。つまり、VISION NEXT 100は非常に効率が高いクルマであり、スペースに無駄もないクルマなのです。

---:それでは最後に、BMWらしさとは何でしょうか。
永島:我々はプリシジョン&ポエトリー(Precision & Poetly)というデザインフィロソフィを持っています。これは、金属調で締まった形でありながら、ドライではなく、ある程度情感が入る形です。この情感を言葉にするのは難しいのですが、例えば音楽を聴いてなぜこれが悲しいのかといわれても具体的に説明しにくいでしょう。それと同じでフィーリングなのです。プリシジョンは正確なかっちりした感じでありながら、ドライな箱ではない。そして人の情感が表現されている。これは、BMWというクルマの乗り味とも共通しており、VISION NEXT 100にも同じものを感じてもらえるでしょう。