【ダイハツ トール 試乗】背高ノッポのクルマ作りはさすが…中村孝仁

試乗記 国産車
ダイハツ トール
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日本のファミリー層は本当に背の高いクルマが好きらしい。そしてそれに応える自動車メーカーも、この背の高いクルマの作り方を知り尽くしているようで、新しい『トール』も実にうまくまとめている。

それはともかくとして、カタカナでその名前を見た時、そのものズハリ、背が高い“Tall”なのかと思ったら、綴りは“Thor”であった。名前の由来は聞かなかったが、単純に英語解釈すると、北欧神話に出てくる神様のこと。だから背が高いとは別な意味なのだが、取りあえず、背は高い。全高は1735mmだ。

このクルマのベースになっているのはダイハツ『ブーン』である。ブーンは正直、毒にも薬にもならないクルマだった。運動性能もこれといった特徴はないし、走りに楽しさなどかけらもなかった。それだけにエンジン本体の騒音、振動などが却って目立ってしまうものだった。そのブーンからシャシーとエンジンを移植して、背の高いボディに載せ換えたのがこのトールである。

ところがいざ乗ってみると、ブーンで感じたエンジンの振動やノイジーな点は完全に抑え込まれている。それに背が高い分、安定性を増すために重心を下げる目的で下を重くしたであろう効果が出ているのか、乗り味は予想外にどっしりとしたものであった。

というわけで、比較して恐縮だが、ブーンに比べると全然静かだし、落ち着いた走りを見せる。ブーンの910kgに対してトールは1070kg(ほぼ同格の車種比較)と、160kgも重いうえ、エンジンは1KR-FEという全く同じもの。性能だってパワー/トルクは全く同じだ。トランスミッションのギア比も同じなのだが、ファイナルがだいぶ違う。このファイナルレシオの違いで、トールはそこそこ活気ある出足を見せてくれる。

それでも性能的には可もなく不可もなくで、特別褒められたものではない。この手のクルマのユーザーは運転を楽しもうなんて考えないだろうから、コーナリングの安定感などもそれほど求めないと思うのだが、実は意外に安定したコーナリング性能を見せてくれたりして、一体どういうクルマなのか、少々迷うところがあった。

使い勝手はすこぶる良い。およそこんなものがあれば便利だなぁとか、ここにモノをおけるスペースがあればいいなぁといった欲求に対してはほぼ文句なく答えてくれていた。唯一、せっかくならこんなもの欲しいと思ったのは、社内全体を見渡せる広角のルームミラーだ。家族のクルマを標榜するなら、ドライバーになるであろうお父さんだって、顔を見ながら会話したいだろうし、車内の様子は逐次チェックしたいと思うのだが、残念ながら後方視界に合わせたルームミラーはその役をなさない。ヨーロッパのMPVではワイドなミラーが通常のルームミラーの上についていたりするが、そうしたものが欲しいと思った次第である。

NAの69psに対し、ターボモデルは98ps、140Nmの性能を持ち、こちらのエンジンはベースは同じだろうが、新開発したもの。そしてNAモデルとはCVTのギア比もファイナルレシオも異なっている。特に今回は高速を走るチャンスがなかったため、一般道を走る限りではNAモデルに不満はなかったが、ターボの方はその加速力からして、高速でも案外すいすいと走れるという印象を得た。しかも、少し値段が高い分、エンジンだけでなく、例えばステアリングも革巻きになるなど、少しだけグレードアップされている。

それにしても試乗したNA車の価格は168万4800円。ほぼ軽並みといってよい価格帯で、トールワゴン系の『ムーヴ』とほぼ一緒だという。勿論利幅はトールの方が良いそうで、ダイハツとしてはトールをいっぱい売りたいだろうが、そうなると今度はムーヴを食ってしまう危険性もあって、悩ましいところなのだそうだ。安いだけにダッシュボードからドアトリムに至るまですべてハードプラスチックで覆われている。叩けば、カッカッだったり、ポコポコだったりという音を立てる。もっと上質感を求めるのは無理があるだろうが、少しがったりしたことも確かだ。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来38年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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