ドゥカティ『ムルティストラーダ1200エンデューロ』を2日間かけて、全行程550kmの道のりで乗り込んだ。市街地、高速道路、ワインディング、オフロードなど、あらゆるシチュエーションで、それも雨が降ったりドライになったりしたなか走ることができた。
もっとも印象に残っているのが、ダートでの走破性の高さ。ベースとなっている「ムルティストラーダ1200/S」では、足まわりを前後17インチとしているが、このエンデューロではフロントホイールを19インチ化し、リアタイヤのサイズも細めている。さらにサスペンションのストローク量を30mm伸ばし200mmとしたほか、205mmだった最低地上高を236mmにと上げた。
スキッドプレートでエンジンをガードし、片持ちだったスイングアームは両持ちに変更。1200/Sでは右2本出しだったマフラーは、専用のハイマウントシングルサイレンサーに変更され、プラス77mmとなる478mmの渡河水深としている。
湿ったぬかるみやサンド質のフカフカな難セクションは、おそるおそる入っていくとフロントタイヤが余計に取られることがわかり、ある程度の勢いを付けて走り抜けてしまうことを心がけると、車体がより安定した。
タイヤはピレリ「スコーピオントレール2」を標準で履くが、クローズドのオフロードコースに入る前には、ドゥカティジャパンが用意してくれたメカニックの手によって、よりオフロードに強い「スコーピオンラリー」にチェンジ。高剛性ブロックがハイパワーにもしっかり耐え、滑り出しの限界はスコーピオンラリーの方が言うまでもなく高く、特にフロントへの安心感は絶大だった。
4種類のライディングモードではエンジンパワーのマッピングだけでなく、前後サスペンションやコーナリングABS、トラクションコントロールやウィリーコントロールのセッティングも変更される。モードを「エンデューロ」にすると、8段階あるトラクションコントロールの介入が「2」と低く設定され、若干のタイヤの空転を許容しつつも程良く路面に食いつき、コーナーではスリップを気にせず右手のスロットルグリップをガンガン開けていけた。ABSはリアのみがキャンセルされ、セミアクティブサスペンションはソフトな設定となって、追従性により優れる。
この電子制御はとてもありがたい。着実に、しかもハイスピードでオフロードをグイグイ進むことができ、これを使わない手はない。より確かに、より速く、ダートを駆け抜けることができるから、舗装路が終わったその先、未知なるエリアへ躊躇することなく入っていけるのだ。
そして一定ペースを保ちつつ、長い時間ダートを走り続けても疲れにくいというアドベンチャーモデルに求められるオフロード性能をもっているが、決して退屈ではなく絶えずエキサイティングに楽しめるのもドゥカティらしさ。
エンジンが元気でピックアップが鋭いから、コーナーの立ち上がりやフロントを谷間に落としてバランスを失いかけたときなど、ここでパワーが欲しいというところでガツンと図太いトルクを発揮してくれる。
電子制御で扱いやすさがあるものの、1200テスタストレッタDVTエンジンはやはり獰猛で情熱的。オンロードバイクで培ってきた同社のキャラクターがダートでも影を潜めておらず、頼りになるサスペンションを持ったことからオフロードも積極的に攻めていこうという気にさせてくれた。
ライディングポジションも、ダートでのスタンディング姿勢に合わせられていたから嬉しい。アップライトになったハンドルは、ライザーにスペーサーを追加し曲げを見直したことにより、1200Sに比べて50mmほどグリップ位置を上げている。
転倒時のことも考え、タンク両サイドにはアルミ製の専用カバーが備わった。ダメージをここで引き受け、エクステリアパーツ交換時の負担を減らそうという狙いが感じられる。これは賢いし、見た目にもいい。緊急時にはフラットダートもゆっくりなら走れる、ムルティストラーダ1200エンデューロはそんなヤワなバイクではない。こういう細部からも、オフロード走行をしっかり見据えていることがよくわかる。
スイングアームが両持ちとなってホイールベースが伸びたことで、オフロードでの扱いやすさを向上した。ホイールベースが短いと、車体の挙動をよりダイレクトに食らって操作しづらい。コーナーでテールが流れるようなハードな走りをしても安定していて、クローズドコースではその巨体を忘れて夢中になって走り込んでいる自分がいた。
車名の末尾にある「エンデューロ」の名は伊達ではなく、オフロードでもまたドゥカティの真骨頂と言えるスポーティな走りを追求してきているのだった。
■5つ星評価(オフロード編)
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★
戦闘力:★★★
足着き:★★
オススメ度:★★★★★
青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。国内外のバイクカルチャーに精通しており、取材経験はアメリカやヨーロッパはもちろん、アフリカや東南アジアにまで及ぶ。自らのMXレース活動や豊富な海外ツーリングで得たノウハウをもとに、独自の視点でオートバイを解説。現在、多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。