【ホンダ ジェイドRS 800km試乗 前編】人馬一体を感じさせる足回り、ハイブリッドとの違い顕著に…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ ジェイドRS
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ホンダの3列シートミニバン『ジェイド』に追加されたガソリンターボモデル「RS」で800kmあまりツーリングする機会があったのでリポートする。

ジェイドはホンダが中国をはじめとするアジア市場を主眼に開発した2列および3列シートのミニバン。当初はハイブリッドモデルだけだったが、昨年6月に1.5リットル直噴ターボのRSが追加された。ハイブリッドとは足回りのチューニングが異なるほか、旋回時に内輪にブレーキをかけてヨーを発生させる「アジャイル(すばしっこい)ハンドリングアシスト」なるスポーツタイプのVSA(車両安定支援システム)が装備されるなど、走り重視のセッティングがなされている。試乗車は本革シート、インターナビ、先進安全システム「ホンダセンシング」などのオプションが装備されており、トータルの車両価格は約315万円と、国産Cセグメントとしてはなかなかのお値段である。

◆ハイブリッド版と同じ構成のシャシーとは信じ難い出来のよさ

試乗ルートは東京・葛飾を出発し、渡良瀬遊水地、群馬の赤城山、千葉の犬吠埼と関東一円を巡って葛飾に戻り、その後成田空港との間を往復するというもので、そのうち高速道路は100kmほど。全区間1名乗車、エアコンAUTOという条件で走行した。

まず、試乗を終えた際の率直な印象から。先行発売されたハイブリッド版が何とも冴えない乗り味であったのとは対照的に、ジェイドRSはクルマを走らせるという行為を爽快なものに感じさせる、素晴らしい仕上がりの足回りを持つクルマだった。

車両重量1.5t超と、Cセグメントの前輪駆動モデルとしてはオーバーウエイト気味。215/50R17サイズのダンロップ「SP SPORT 270」タイヤもそう優れた性能を持っているわけではないので、限界性能の絶対値がものすごく高いというわけではない。性能値がより優れているモデルはいくらでもあるだろう。が、ジェイドRSの良さの真髄は旋回Gがどのくらい出るかといった数値ではなく、走りのテイストの部分にある。

ジェイドRSの足回りがとりわけ光ったのは群馬・赤城山周辺に広がる山岳路。カーブ手前で軽くブレーキをかけながらステアリングを切り込むと、前外側のサスペンションがきわめてスムーズかつ自然に沈み込み、クルマが安定した対角線ロール姿勢となる。さらにコーナリング中にステアリングの切り足し、切り戻し操作を行うと、その操作量にきっちり比例するようにロール角が変わるのが体感として伝わってくる。ロードホールド感も非常に良く、四輪をしっかりと路面に貼り付かせているような走行フィールだった。

クルマの動きを正確に感じられるという味作りは、クルマづくりにおけるドライビングプレジャー向上の第一歩で、ツーリングカーにとっては絶対性能よりも大事なファクターだ。スキーで言えば、ダウンヒルやスラロームなどタイムを争う競技が絶対性能のようなものであるのに対し、ちょっぴり急な斜面をパラレルターンやウェーデルンでリズミカルに荷重移動し、雄大な景色を眺めながら滑って爽快感を味わうのがプレジャーにあたる。

ジェイドRSの持ち味はまさに後者のもので、扁平タイヤがスキール音を立てるような速度域で走らなくても、クルマの動きを体感しながら走ることが楽しいと思わせる味付け。ぼてっとしたスタイリングからは想像できないくらいに良い走り味を持つBセグメントセダン『グレイス』の最上級グレードと軌を一にする動きだが、Cセグメントプラットフォームを使い、リアに高容量のダブルウィッシュボーン式サスペンションを持つぶん、精度感はこちらのほうが高い。お世辞にも良い味とは言えず、ロングドライブに飽きる傾向があったハイブリッド版と同じ構成のシャシーであることがにわかに信じ難いく思えたほどである。これくらいやってこそ“人馬一体”を名乗れるというもので、ライバルメーカーも見習ってほしいものだと感じられた。

ハイブリッド版に比べてあまりに走り味が良いので、もしかして電子制御で性能を盛っているのではないかと考え、アジャイルハンドリングアシスト制御つきVSAをOFFにして走ってみた。が、試してみるとOFFのほうがさらにナチュラルな動きで、むしろアジャイルハンドリングアシストの制御アルゴリズムのほうにさらなる熟成の余地があると感じられた。

◆ロングツーリングへの気分も前向きにさせる

ワインディングロード以外でのパフォーマンスも優れていた。高速道路や郊外道路での直進感は非常に良く、ロングツーリングに対する気分を前向きなものにさせる仕上がり。最近のクルマは燃費を意識するあまり、前輪のトーイン、キャンパー角、キャスタートレールなどのジオメトリ項目を、操縦安定性より走行抵抗を減らす方向性でセッティングするのがトレンドとなっている。それは走行抵抗を減らすのには役立つのだが、ともすると微妙なワンダリング(進路のチョロチョロ感)を誘発してしまう。そういうクルマが多いなかでジェイドRSは、味付けにもリソースをきっちりきっちり割り振っていることが顕著に感じられた。

乗り心地は固めだが悪くない。ブッシュ、バネ、アッパーマウントラバーなど足回りの各部の調和がきっちり取られているとみえて、フリクション感の少ない、ダンピングの効いた気持ちのよいフィールだった。欲を言えば低中速域でのハーシュネス(突き上げ、ざらつき感)カットのレベルがもう少し上がれば高級感が俄然増すのにとも思ったのだが、ハイブリッド版はブッシュやアッパーマウントラバーの剛性を下げて当たりの柔らかさを出そうとしすぎてかえって味が悪くなってしまったきらいがあったので、そうなるくらいならこれでいいかと思い直した。

シャシーの味付けがしっかりしたことは、ロングツーリングに伴う疲労の軽減にもかなり大きな好影響をもたらしていた。ジェイドのシートは座面の張力が弱く、上半身のホールドも甘いなど、グランドツアラーとしては明らかに物足りない設計。見栄えはともかく機能的には格下の『フィット』のほうがいいと感じられたくらいだ。

ハイブリッド版をドライブしたときにはそのシートの出来が終始気になったのだが、ジェイドRSはシャシーチューニングが変わり、加減速やコーナリング中に体が踏ん張る方向がハイブリッドと微妙に異なるためか、良いとまでは言えないがこれはダメだと思うほど悪くも感じられなかった。クルマの動きを良くすることは、単に運転を面白くするばかりでなく、クルマ全体をより上質に感じさせる効果もあるということが、あらためて実感された。

◆洗練の必要を感じさせる1.5リットルエンジン

次に動力性能と燃費。150ps/203Nm(20.7kgm)を発生する1.5リットル直噴ダウンサイジングターボエンジンは、山岳路や高速道路を含めてジェイドRSを十分軽やかに走らせるだけの能力を持っていた。ジェイドRSは車両重量が公称値で1520kgと、見た目とは裏腹に重量級で、パワーウェイトレシオも10kg/psを超えてしまう。このスペックからは鈍重な印象を受けるが、ターボ過給によって低中速域でもトルクがフラットに立ち上がるので、低・中回転域では2リットル級スポーツエンジン搭載車のような感覚で運転できる。ただ、クルマのキャラクターを考えれば、このエンジンの開発でホンダが想定していた204psとまでは言わずとも、180ps・240Nmくらいの性能があればもっと説得力があったのにとも思った。

ネガ部分として気になったのは騒音・振動。これはターボに限らず直噴1.5リットル「L15B」に共通する弱点だ。スロットルオフで燃料カットされているときは静かなのだが、燃料が供給されているときは終始“ギーッ”とオケラが鳴いているような音が、かすかだが意外に耳障りなノイズとして常に聞こえてくる。ジェイドRSのそれは、ハイブリッド、非ハイブリッドを問わず同形式の直噴エンジン搭載車の中で一番大きかった。また、アイドリングストップ機構が作動しているときには気にならないが、電力不足や冷間始動などで停車時にアイドリングしているときは、ステアリングに結構な微振動が発生する。このあたりはもっと洗練させてほしい。

CVTは変速比を7段階に固定可能なマニュアルモード付きで、ステアリングにはパドルシフトが備わる。もちろんトルコン直結型ATやDCTのような切れ味の良い変速フィールはない。が、山岳路など変速比が一定であってほしいようなシーンでは有効性は高く、エンジンの応答性が良好なので、あってよかったと思える装備だった。ハイブリッドはせっかくDCTを搭載しておきながらパドルシフトもマニュアルモード付きシフトレバーも装備していないので、積極的なドライビングを楽しみたいならジェイドRS一択と言っていいだろう。ただ、どんなに頑張ってもCVTはCVT。ハイブリッドからモーターを取り除いた6速DCTや6速MTなどと組み合わせてくれればもっと“らしさ”が出そうなのに、とも思った。

平均燃費は20.7km/リットル

燃費はドライビングスタイルやルートによってかなりの差が出る。最初はECONモードオフで379.3kmを走った。東京の葛飾を出発し、渡良瀬遊水地で熱気球レースの取材をした後、美智子妃殿下ゆかりの正田家が築いた日清製粉の故地、館林の製粉ミュージアムを見物。さらに桐生から薗原ダム経由で沼田へ、その先の吹割の滝を見てから引き返して赤城山の大沼へ駆け上がるという長い山岳路区間を経て、ラーメンと砂利採掘で有名な佐野へと下りるルートで、配分はおおむね市街地2割、地方道3割、高速2割、山岳路3割。

平地を普通に運転していても、ごく微妙なスロットル開度の変化に応じてピュイーン、ピュイーンというターボの高周波音が綿密に、見方を変えれば過敏に過給制御しているのが伝わってくる。交通環境の良い平坦な地方道でも平均燃費計の数値は18km/リットルというJC08モード燃費に対して伸びが悪く、高ブースト領域を多用する山岳路ではみるみるうちに落ちた。

とくに燃費を落としたのは沼田から赤城山大沼に至る区間、最高標高1400m超まで急勾配を一気に駆け上がるきついルートであることは確かなのだが、下りは稼いだ位置エネルギーを使えるので使用燃料ほぼゼロで走り切ることができ、そこで燃費はある程度取り返せる。上りで落ちた燃費を下りでどれくらいリカバーできたかを見てみたのだが、位置エネルギーを稼ぐこと自体に多大な燃料を消費せざるを得ない重量級ボディであることを勘案しても、あまり成績がいいとは言えなかった。佐野での給油量は29.4リットルで、平均燃費は12.9km/リットル。

これでも昔の2リットル級の燃費を思えば悪いとまでは言えないのだが、昨今、燃費のいいクルマに慣れっこになってしまったためか、お財布への打撃はかなり大きく感じられた。そこで次に、佐野から千葉の犬吠埼を経由し、葛飾に戻る262.4kmの区間はECONモードをONにし、速い流れに乗りながらも燃料を無駄遣いするようなブーストがなるべくかからないようスロットルワークに気をつけて運転してみた。

ホンダ車はモデルによってECONモードの効果に差があるが、ジェイドRSのダウンサイジングターボの場合、ブーストコントロールが穏やかになるためか、ECONモードONによる燃料節約効果はきわめて大きかった。1回の完全冷間始動と数回のセミ冷間始動をはさみ、市街地と郊外路のみを走った結果、給油量は12.65リットルで、平均燃費は20.7km/リットル。スピードを落とせばさらにスコアを伸ばせたであろう。エコランの頑張り甲斐はそれなりにあるクルマだ。

続いて葛飾~成田間往復の145.9kmを走行。今度はECONモードONのまま、市街地を主体にエコランをあまり気にせず走ってみた。結果は給油量9.64リットル、平均燃費は15.1km/リットルだった。同じエンジンを積むミニバン『ステップワゴン』を短距離ドライブしたときは、旧型の2リットルに比べて燃費が目に見えて向上したようには思えなかったが、重量が200kg近く軽いとブーストが低くてすむぶん、ダウンサイジング効果が得られやすいようだった。もっとも、それは新ターボエンジンが全域ストイキ(理論空燃比)を達成できていない可能性が高いことの裏返しでもある。このままではフォルクスワーゲンやフォードとのダウンサイジングエンジン競争で後れを取ってしまいかねないので、高負荷域での熱効率改善は急務だろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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