「宇宙エレベーター」実現めざし8回目の学会、環境保護の視点も

宇宙 科学
宇宙エレベーター学会、佐藤博士の講演風景
  • 宇宙エレベーター学会、佐藤博士の講演風景
  • 競技会で使用するクライマーの一例。デザインは大野会長自身による
  • 宇宙エレベーター協会の大野修一 代表理事

宇宙エレベーター協会は5月28日、宇宙エレベーターに関する研究や開発状況、活動の最新情報の交換、交流を目的とした「宇宙エレベーター学会」を日本大学法学部(東京都千代田区)で開催した。

日本では「軌道エレベーター」と呼ばれることも多い宇宙エレベーター(Space Elevator)。SF小説やマンガ、アニメ等ではおなじみのガジェットだ。「エレベーター」という名称ではあるものの、実際には長距離移動する公共交通機関として位置づけられる「乗り物」となる。現時点では空想の域を出るものではないが、永遠に夢物語のままと決まっているものでもない。科学技術や素材技術の進歩にともなって、少しずつではあるものの実現可能性は高まり続けている。

一般社団法人 宇宙エレベーター協会(JSEA)では実現を後押しするために、宇宙エレベーター学会(JpSEC)を年1回のペースで開催。はじめて開催されたのは2008年で、今年で8回目となる。今回のプログラムとスピーカーは「国連宇宙条約と米国2015年宇宙法」(法政大学法学部・甲斐素直 教授)、「大林組の研究開発状況―ケーブルダイナミクス(静岡大学との共同研究)」(大林組・石川洋二 博士)、「軌道エレベーターアースポートのデザイン2015」(日本大学理工学部海洋建築工学科・佐藤信治 博士)というもの。

このほか、クライマーに関する研究として神奈川大学工学部、川崎工科高校、日本大学理工学部から合計4つの発表がおこなわれた。「クライマー」というのは、動力を備えた「昇降機」のこと。JSEAでは協会メンバーそれぞれが開発したクライマーを用いた競技会「宇宙エレベーター競技会」も開催している。

甲斐教授の講演では宇宙空間における条約や法律の、現状の一端を紹介。石川博士は、建設時に静止軌道上からケーブルを垂らしていったときやクライマーが昇降したときの「ケーブルのふるまい」についての研究結果を発表。重力やコリオリ力のバランスによってケーブルがどのような動きを見せるか、といったことをシミュレーションしたものだ。

そして今回の発表内容でもっとも興味深かったのが、宇宙エレベーターの出発地点(アースポート)に形成される都市のデザインについて紹介する佐藤氏の講演。南太平洋の島嶼国家ツバルの環礁のひとつをまるごと基地にしてしまおうという大胆なアイデアだが、これは地球環境問題からの観点で発想したものだという。

温暖化の影響で水没と消滅の危機に瀕しているツバルという国家の存在を守る方法として、環礁の中央にエレベーターを建設し、その周囲に複層の人工地盤を形成。ここに「始発駅」としての機能をもつエリアをはじめ、エレベーターや宇宙ステーションの関係者の居住区や研究施設、工場群を配置。また農業エリアや観光エリアなどを整備することで、多様な産業を持ち経済的にも自立できる海上都市を建設しようという構想だ。

公共交通機関のデザインだけでなく、それが運行される地域のデザインも同時に考えるという理にかなったアプローチ。今後の研究や議論を発展させる、有益な提案だった。

《古庄 速人》

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