【インタビュー】コネクテッドカーのための人工知能とは?… ニュアンス、車載事業部マーケーティング・マネージャーに聞いた

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ニュアンス コミュニケーションズ ジャパン オートモーティブビジネスユニット プリンシパル マーケティングマネージャー 村上久幸氏
  • ニュアンス コミュニケーションズ ジャパン オートモーティブビジネスユニット プリンシパル マーケティングマネージャー 村上久幸氏
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  • コネクテッドカーが提供する新しいドライバー体験
  • コネクテッド・カー体験 ≠ スマートフォン体験
  • Automotive Assistant を支える技術
  • ニュアンス社(サニーベール)
  • ラボの様子
  • ニュアンス コミュニケーションズ ジャパン オートモーティブビジネスユニット プリンシパル マーケティングマネージャー 村上久幸氏

コネクテッドカーとは、「つながる車」と表現されるように、自動車をモバイル通信によってクラウドと接続することで、自動車の持つ機能と価値を増幅し、新しいステージへ導く技術として紹介されている。

メディアなどで紹介される文脈では、つながる=車とクラウドがつながる、という点にフォーカスされることが多い。しかし、自動車の運転、そして自動車の機能拡張という意味では、人と車のつながり方、マンマシンインターフェースの重要性を忘れてはならない。ユーザーエクスペリエンス(UX)と表現しても良いが、コネクテッドカーによってもたらされる体験が、PCやスマートフォンと同じならば、車内にスマホを持ち込むのとさして変わらず、真のコネクテッドカーとは言えない。

BMW、メルセデスベンツ、GM、フォードなどの欧米自動車メーカーは、コネクテッドカーとドライバーとのユーザーインターフェース(UI)に自然言語理解(Natural Language Understanding:NLU)機能を持つ音声インターフェースを積極的に採用している。それはなぜか? NLUの現状と課題、展望は?

この疑問に答えてくれたのは、ニュアンス・コミュニケーションズ・ジャパン、オートモーティブ・ビジネスユニット、プリンシパル・マーケティング・マネージャーの村上久幸氏だ。

◆コネクテッドカーに自然言語理解? その必要性とは

----:コネクテッドカーにとってなぜ音声認識やNLUが重要なのでしょうか。

村上久幸氏(以下敬称略):現在のドライバーにとって、車載インフォテインメント(IVI)と、これを通じて提供されるコネクテッドカー・サービスは重要な機能のひとつになっています。走る・曲がる・止まるといった車の基本性能だけではなく、IVIが提供する、さまざまなドライバー体験が、市場での製品競争力を左右する時代と言っても過言ではありません。このことは、J.D.パワーが毎年発表する新車の初期品質調査や満足度調査において、IVI機能の評価がその車種全体の評価に与える影響が大きくなっていることからも裏付けられています。

しかし、このような機能は、全て運転中に利用されることも考えなければなりません。コネクテッドカー・サービスの利用が、ドライバーの認知的負荷を増やしては意味がありません。そのため、ボタン操作や視線の移動などがなくても様々な操作が可能な、音声インターフェースの活用が重要になります。

ただし、従来型の音声認識では、事前に決められた形式に従った話し方をする必要があります。そのため、ドライバーが何かの操作したいと思ったとき、それは音声で指示できるのか、あるいはどんな言葉で指示すればよいのか、などと考えてしまう場面があります。これでは、手足の操作は軽減してくれていても、認知的負荷はむしろ増えてしまっているかもしれません。そこで、これからのIVIでは、まるで人間同士の会話のように、決められた形式以外の言い方も正しく認識するために自然言語理解の機能を持つ音声インターフェースが重要になってきます。

----:「認知的負荷を減らす」という点についてもう少し詳しく教えてください。

村上:運転中に、音声でレストランの予約をする状況を例に考えてみましょう。「今夜、それほど高くなくて、VISAカードが使える、サンノゼ付近のイタリアンレストランを探して」というような指示、あるいはもっと簡単に「今夜、カードが使えるレストラン。イタリアン。遠くないところで」のような指示もあるでしょう。このような、ごく自然な話し方での指示を正しく認識し、文脈を考慮した正しい解釈を行い、適切な処理を実行してくれる音声インターフィースならドライバーは思いついたことを素直にしゃべるだけでよいので、運転に集中することができます。

自然な発話を文字に変換することは、現在の音声認識とNLUで十分に対応が可能です。しかし、ドライバーのリクエストを実際に実行するためには、変換された文字に含まれるさまざまな識別要素を解釈しなければなりません。例えば、音声では明確に指示されていませんが、最終目的はレストランを探すことではなく、予約を入れることです。また、「イタリアン」とはイタリア語のことではない、と判断する必要があります。またVISAカードがクレジットカードであり支払い方法の指定であることを認識しなければなりません。車での移動ならば駐車場の確保も考える必要があるでしょう。ワンフレーズの簡単な指示でも、それを正しく解釈するには膨大な知識、情報が必要なのです。

場所の推定も重要です。「サンノゼ付近」といった指示であれば、推定しやすいかもしれませんが、「公園の隣にある○○」「○○と○○の間の○○」といったあいまいな表現にも対応する必要があります。

このような、ドライバーの複雑な要求を満たすために、ニュアンス・コミュニケーションズでは、これまで培ってきた音声認識やNLU技術に加えて、ドライバーの指示を正しく解釈し実行するための人工知能(AI)を融合させた、「オートモーティブ・アシスタント」の研究を進めています。

----:なるほど。しかし、例のような指示だと、逆にかなり大雑把な解釈になりドライバーが思っていたような予約にならないということはないですか。例えば、予約人数は明確に指示していませんよね。

村上:はい。指示を解釈する過程で曖昧なところなど、追加情報が必要になります。秘書が上司の指示の詳細を確認するように、検索や指示の実行のために適切な質問を返してユーザーから情報を聞き出す対話機能も、弊社のAI技術開発における重要な研究テーマです。レストラン予約の例でいえば、人数、時間、場所やメニューの希望詳細、追加のリクエストなどといった情報をドライバーとの対話で確認することができます。

◆カギはAIの活用、開発は150人体制

----:指示の実行に必要な情報が得られたとして、次の実際の予約処理はどのように実現されるのですか。

村上:この過程でも、AI技術の活用がカギとなります。先ほどの例でいえば音声認識の結果として得られた「イタリアン」という文字が何を意味するのか?これがイタリア料理であると判断しなければ、ドライバーの要求を実行することができません。そういった意味解釈を行うために、ネット上の様々なソースから日々収集されたナレッジを収集・管理しているデータベースを独自開発しています。

意味解釈ができたら、次は実際に予約を行うために、外部のサービスにアクセスする必要があります。先ほどの例では、ひとつの外部サービスでは要求を満たすことができません。米国の場合であればレストラン予約の「OpenTable」、地理情報の「here」、口コミ情報の「yelp」といった、様々な外部サービスに対して、的確にアクセスし情報を収集する技術にも、AIを活用しています。

----:音声認識やNLUの研究体制はどうなっていますか。

村上:弊社は、創業時から音声認識、音声合成に関する技術開発を行っており、例えばPC向け音声認識ソフト「ドラゴンスピーチ」は、この分野では最も長い歴史を誇る製品です。コールセンターの自動応答システムでは、10年以上前からNLUが活用されています。医療記録用の音声認識システムやサービスを提供するヘルスケア部門も、北米と西欧で長い歴史とトップクラスのシェアを誇る事業のひとつです。このように、様々な分野において音声技術を提供してきた弊社では、NLUも創業の早い段階から必然的に研究対象となっています。NLUの基盤となる音声認識については、米国、カナダ、ドイツ、中国、ベルギーなど各地の研究開発部門において共同開発されています。

弊社の事業ドメインの中で、近年事業を拡大しているのが自動車向けの技術やシステムを開発するオートモーティブ事業です。AIとNLUの研究開発については、米カリフォルニア州サニーベール、マサチューセッツ州ケンブリッジとバーリントンを中心に、グローバルで約150名の研究者が在籍しています。2013年には、サニーベールに「AI・自然言語処理ラボラトリー」を設立し、中長期の開発ロードマップに基づいて次世代型AIの研究に注力しています。また、ここでは、近隣のスタンフォード大学など学術関係者との連携も強化しています。

◆コネクテッドカーの自然言語認識、今後の展開は

----:ニュアンス社のNLUやAI技術はどのように市場に展開されていくのでしょうか。

村上:NLUは欧米自動車メーカーを中心に、各社の独自仕様のIVIに組み込まれた形で既に市場導入が進みつつあります。弊社が今年のCESで発表した、ドライバーのためのバーチャルアシスタント「Dragon Drive Automotive Assistant」(CES 2016 イノベーション・アワードを受賞)でも、メールの作成、インテリジェントな目的地検索、パーソナライズされた各種のレコメンド機能などの実現にNLUを採用しています。今後は、これまでに説明したAI技術をDragon Drive Automotive Assistantに採用して様々な機能を追加していく計画です。これをベースに、自動車メーカーやカーナビメーカーごとにカスタマイズしてOEM提供し、最終的には自動車に統合された製品やサービスとして市場展開されます。すでに、複数の自動車メーカーの依頼よるプロトタイプの開発も始まっています。

----:最後に、日本語対応について教えてください。やはり日本語対応は難しいのでしょうか。

村上:技術開発としては、特に日本語が他言語に比べて開発が難しい、ということはありません。国内外のカーナビメーカーやティア1サプライヤーに、すでに日本語の音声技術を提供している実績があります。今後は言語や地域ごとのニーズの違いを考慮した、コネクテッドカーのユースケースの分析と、これに対応するAI技術やナレッジベースの強化が重要と考えています。

《中尾真二》

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