【マツダ アクセラ 3200km試乗 後編】“萌え要素”があれば、まだまだ面白くなる…井元康一郎

試乗記 国産車
マツダ アクセラスポーツ XD 2.2リットルターボディーゼル。鳥取砂丘にて。
  • マツダ アクセラスポーツ XD 2.2リットルターボディーゼル。鳥取砂丘にて。
  • 鳥取砂丘にて。左右2本出しマフラーが高性能を主張する。
  • 鳥取砂丘にて。ホイールアーチとタイヤのクリアランスはプレミアムセグメントモデルなみに狭い。
  • ヘッドアップティスプレイ。逆光の中でも視認性は悪くなかった。
  • インテリアも細部にわたって意図がはっきりとしたデザインが与えられていた。
  • ダッシュボード含め、凝った造形。ただしオーディオコントロールやメーターパネルなどのデザインは素っ気ない。
  • 鳥取大砂丘の食堂にて若松葉カニ丼を食す。美味であった。
  • 昭和を感じさせるドライブイン、鳥取砂丘会館。

マツダの世界戦略の一翼を担うCセグメント乗用車『アクセラスポーツ』ターボディーゼル+6速MTで東京~鹿児島間を一般道を主体に3200kmあまりツーリングしてみた。前編ではシャシーのドライブフィールを主体にお届けした。後編ではエンジン、カーコミュニケーション&オーディオ、ツーリング感などについてリポートしたい。

◆アクセラディーゼルのポジとネガ

試乗車の2.2リットルターボディーゼルは、マツダがSKYACTIVテクノロジーと名づけた新世代環境技術群の一翼を担うもので、PM(粒子状物質)除去装置であるディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)のみを装備し、大気汚染物質のひとつであるNOx(窒素酸化物)については浄化装置なしに燃焼改善だけで排出ガス規制をクリアしているという。

折しもロングツーリング後の3月上旬、国土交通省がディーゼル車の路上テストの結果を発表した。マツダ車では今回の試乗車とほぼ同型のエンジンが乗る『CX-5』とより小型な1.5リットルターボディーゼルを積む『デミオ』がテストにかけられたのだが、結果はトヨタ自動車、三菱自動車、日産自動車のディーゼル車に影も踏ませないほどに優れた数値をマークした。

4月にはメルセデス・ベンツとBMWのテスト結果も発表された。BMWは渋滞にハマった区間で規制値を超えたものの、高速道路では規制値の半分以下という驚異的なスコアで、トータルでマツダと互角。一方のメルセデス・ベンツの成績は振るわず、トヨタ、三菱自、日産と大差なかった。この結果からみて、マツダのディーゼルはBMWと並び、排出ガスについて後ろめたさを感じることなく乗れる、目下のトップランナーと言っていいだろう。

ロングツーリングにおけるパフォーマンスも悪くなかった。もともと1430kgのボディに最高出力175ps、最大トルク420Nm(42.8kgm)というスペックは必要十分をはるかに超えるもので、動力性能に不満が生じるようなシーンは皆無だった。エンジンの回転限界は5500rpmだが、ハーフスロットル、3000rpmあたりでシフトアップするというくらいの運転パターンでも一般道、高速道路を問わず、周囲の交通を悠々とリードできるだけの素晴らしいダッシュ力を持っていた。

フレキシビリティも十分。1000rpm台少々くらいの超低回転域では排出ガス制御のためかトルクが薄いきらいがあるが、それでも排気量に余裕があることが奏功してか、相当に下手なアクセルワークをしないかぎりエンジンストールしそうになることもなかった。

ネガティブな部分もある。それは官能性、すなわち顧客に気持ちよいと思わせるような味付けの領域に集中していていた。エンジンスロットルの踏み込み量と発生トルクの相関性がリニアでなく、低回転域でトルクがドバっと出すぎるぶん、高回転の伸びきり、切れ味が悪いように感じられた。スペック的には最新のディーゼルなのだが、味付けは昔のディーゼルのようなのだ。良品廉価の大衆車メーカーを目指すというのであればこれでも構わないのだが、マツダはグローバルで2%の顧客に熱烈に支持されるブランドづくりを志しているという。そうであるのなら、ドライバーにスロットル操作を通じて高揚感を覚えさせるようなチューニングのあり方を模索すべきだろう。

もう一点、明確な弱点として挙げられるのはエンジンノイズ、とりわけディーゼル特有のカラカラというノッキング音が過大であること。加速時や高負荷時は気にならないのだが、ツーリングにおいて最も滞在度の高い1000rpm台でカラカラという音が耳に突くのはいただけない。マツダはBセグメントのクロスオーバーSUV『CX-3』で、1.5リットルディーゼルにノッキング音を低減する新技術「ナチュラルサウンドスムーザー」をデビューさせた。そのモデルに試乗した時、それがなくとも十分に静かな1.5リットルより2.2リットルにこそ装備してほしいと思ったのだが、その印象どおりであった。それをやらないのであれば、エンジンルームとキャビンの隔壁に設けられる遮音材にもっとスペックの高いものを使ったり、窓ガラスを遮音タイプにしたりといった工夫をしたほうがいいように思われた。振動はライバルよりむしろ少なく、基本設計は悪くないと推測されるので、この取りこぼしはもったいない。

◆22~23km/リットルがポテンシャルか

次に燃費。燃費計測区間は3177.2kmで総給油量は157.7リットル。トータルでの燃費は20.15km/リットルであった。片道1000km超を一般道主体でドライブする場合、エコランを意識してチンタラ走っていると目的地にいつまでたっても到達しないため、交通の流れが速い夜間においてはその流れにきっちり乗るなど、自ずとメリハリのある走りになる。その結果としては悪くない数値と言える。ちなみに冷間始動のチョイ乗りに終始した鹿児島での走行を除いたロングツーリングのみの燃費は20.71km/リットル。

このエンジンでの効率的な走り方だが、昔のディーゼルのように早め早めにシフトアップしてアイドリング+αの回転域で走るのではなく、1000rpm半ばから2000rpm半ばの範囲をキープし、エンジンブレーキがかからないよう、しかし無駄なトルクが出ないようにスロットクワークを駆使して走ったほうが断然燃費が良さそうだった。出ガスに含まれるPM2.5などの粒子状物質をトラップするDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)PMを処理するインターバルは平均して350km前後。処理中は燃費が落ちるのだが、極低回転を使うよりある程度回してやったほうが処理の間隔は長くなる傾向があったので、その意味でも低回転を多用しすぎないほうが良いように思われた。

ツーリングのトータル燃費はリッター20km少々に終わったが、これは面倒臭がりな筆者が車両特性をおおむね把握していながら、シフトチェンジをサボる運転に終始したためで、ポテンシャルはもっと高い。帰路に湘南の茅ヶ崎で給油後、マツダ横浜研究所のある神奈川・子安までエアコンONのまま少し真面目にエコランにトライしてみたところ、平均車速10km/h台という大混雑状態であったにもかかわらず、平均燃費計の数値は22.3km/リットルであった。DPF再生による低落を織り込んで1割補正したとしても、チョイ乗りでなければ渋滞含みの市街地走行で20km/リットル前後か。長距離の場合、効率にもっと気を配れば22~23km/リットルくらいはすぐに達成できそうだった。

◆航続性能への過信は禁物

燃費性能は良好だが、航続距離は平凡だ。アクセラの公称タンク容量は51リットルで、リッター20kmペースで走った場合、ロングツーリングの航続距離は計算上は1000kmを少し超えるくらいになるはずなのだが、実際はそれより短かった。今回のドライブの往路は山陰を経由。その途中、島根県の浜田と益田の間で、人生2度めの燃料切れを経験した。タンク容量51リットルに給油パイプにあるであろう数リットルを足せば、リッター20kmとして十分山口県まで到達できると踏んでいたのだが、出雲、大田、浜田を越えて950.3km、三隈付近でエンジントルクが失われ、そのまま走行不能に。

山陰道では夜間になると、営業しているガソリンスタンドの数が極端に少なくなる。燃料切れ地点の三隈というところに住む親切な住民の方が浜田のガソリンスタンドまで連れて行ってくださり、軽油を10リットル購入。ガソリンスタンドの店員さんいわく、「この時間はほとんど開いてませんからねえ。私が知る限り宍道、浜田、益田に1軒ずつ」。そんなに少ないのかと喫驚した次第だった。

筆者も燃料切れを手をこまぬいて見ていたわけではない。島根の松江付近で燃料警告灯が点灯した時点で燃料補給は意識していたのだが、もう少し行けるかなと思って宍道のガソリンスタンドをスルーした後、どこもガソリンスタンドが開いていない。バイパスを走行したのが仇となって、浜田の市街地にあるスタンドもスルーすることになってしまったのだった。

それにしてもこんなに早く燃料がなくなるとは…燃料切れ時の平均燃費計の数値は21.3km/リットルであった。よほど乖離がひどいのかと思ったが、走行可能になってから浜田に戻って満タンにしてみたところ、走行距離963.5km、給油量は合計で46.1リットル、実燃費は20.9km。そこで今度はタンクのエア抜けが悪くて満タンにならなかったことを疑ったが、鹿児島到着後も燃費計との乖離率は同じ程度だった。帰路、鹿児島から山陽方面を経由して957.7km走行後、大阪東部で給油したが、そのさいも航続距離残表示は10kmで給油量は44.8リットル。

これらの結果から、実際に使えるタンク容量は45リットル程度と考えてよさそうだった。往路の東京~浜田間ともども、燃料警告灯が点灯してからはエコランを心がけたが、それでも点灯してから走れるのは地方道を大人しく巡航してせいぜい130km程度。ウォーニングが欧州車のように2段階警告にはなっていないので、スタンド過疎地帯を走る場合、航続性能への過信は禁物である。

音響は充実、マツダコネクトはまだ改善の余地アリ
今回のドライブでは、往路に大津で泊を取った後、早起きできたら京都の天橋立方面にでも行ってみようかと思ったのだが、がっつり寝坊してしまったので、諦めて鳥取砂丘に行った。冬の鳥取砂丘は観光客もまばらで寂寥感が漂うが、それは日本海側らしい詩情と背中合わせだ。当日はよく晴れていたため、鳥取砂丘内のしおだまりに映る美しい冬空の色を楽しむことができた。冬とはいえ冬至から2か月近くが経ったタイミングであったため、2014年末にホンダ『グレイス』で通りがかったときに比べると光は格段に明るかった。

鳥取砂丘には、モロに昭和を感じさせるおみやげ屋さん兼食堂「鳥取砂丘会館(別名・鳥取大砂丘)」がある。砂丘ウォーキングのための長靴を無料で貸してくれるという素晴らしいお店だ。その鳥取大砂丘で、松葉ガニ丼を食べてみた。ちょうど時季的にカニの内容が若松葉になるというので一にも二にもなく選んでみたのだが、冷凍でなく生ボイルということで、臭みゼロで甘味豊かという、実にナイスな料理であった。

話を車に戻す。シリーズのトップグレードに位置づけられるアクセラXDは、300万円を超えるなかなか立派なお値段であるぶん、装備も充実している。非常に印象が良かったのは、標準で備えられるBOSEサウンドシステムのパフォーマンス。9スピーカーという構成自体は今どき、別に珍しいものではないが、パワー感、音質は標準装備系のオーディオとしては非常に優れていた。同じマツダの標準系BOSEサウンドシステムとの比較でも、7スピーカーのデミオ、CX-3に比べて格段に優れている。

とくにすごいのはパワーで、同じメインアンプ出力の競合モデルと比べても、フルボリュームでの音圧やピーク入力への耐性は特筆すべきレベルにあった。音のディテールの再現能力も高く、ジャズ、ポップス、ロック、ニューエイジなどジャンルを選ばず楽しめる。最初は音質にやや潤いが欠けているように思ったが、ダイナミックレンジに優れ、残響がよく表現されるため、クラシックも悪くなかった。

車内装備のなかで使い勝手があまり良くなかったのはカーナビだった。ダッシュボード上にマツダコネクトというカーコミュニケーションシステムが装備されており、これに別売りの専用SDカードを挿すと低価格でカーナビになるという仕組みで、それ自体は実にユーザーフレンドリーである。カーナビの自車位置表示が頻々とずれるなど、以前はかなり評判が悪かったらしいが、少なくとも筆者がロングドライブしたさいは、そういう不具合はおおむね解消されていた。

では何が悪かったのかというと、それは操作の煩雑さとルートガイダンスである。操作はセンターコンソール上のダイヤルスイッチで行うのだが、メニューの階層構造はあまり良くなく、信号待ちの間にチョイチョイと目的地設定をしたりルートを修正したりといった素早い操作には向いていなかった。

ルートガイダンスも良くない。バイパス走行時、側道に入れという指示が出たので「ほう、どういう道を走らせるつもりなのかな?」と指示に従うと、何とその先の流入路からまたバイパスに乗れと指示されるといったことが一再にとどまらなかった。経路検索にも難がある。たとえば鳥取~島根にかけて断続的に整備されている山陰自動車道は、フランスの高速道路のように有料区間と無料区間が存在し、後者はバイパスのように利用できる。ところが一般道優先で検索をすると、その無料区間も高速道路ということで回避してしまい、細い旧道を案内するのだ。地図情報判別のアルゴリズムが交通実態に合っておらず、さらなる改善が求められるところだ。

◆惚れ込ませるような強烈な魅力が欲しい

3200kmという、平均的な月間走行距離に照らし合わせれば3か月強に相当する距離を走ってみた総評としては、アクセラXDは経済性では十分に良い燃費性能と燃料単価の安さの合わせ技で特Aクラス、疲労の少なさも特Aクラスの点をつけられる。シャシー性能も十分に高い。デザインは少々力が入りすぎてビジーなきらいがあるものの、無理に室内スペースを広げようとせず、ホイールベースのどのあたりにドライバーを座らせるべきかを熟考したパッケージングや低重心設計から生まれた先進国向けモデルらしい引き締まったプロポーションは、日本車としては稀有なものだ。また、リアコンビネーションランプなどのライティングデザインも、日本車屈指のレベルであるように感じられた。

そのアクセラに足りないのは「この部分が素晴らしすぎるからもう手放せない!」と顧客を惚れ込ませるような強烈な魅力ポイントに欠けることだ。デザインもハードウェアもとても良く出来ているのだが、すべての魅力が“ほどほど”で、優等生的なのだ。たとえばデザインが格好いいという領域を超越して、一目見て恋に落ちてしまうような誘惑的なものだったら、高速道路をまっすぐ走るだけで感動してしまうような走行感を持っていたら、あるいは平和な道より山岳路を選びたくなってしまうような俊敏性と乗り心地が神秘的にも両立していたなら、かりにダメな部分があってもあまり気にならないものだ。

筆者はこれまで色々なクルマでロングドライブをしてみたが、その経験に照らし合わせると、加点主義で評価したくなるクルマと減点主義で評価したくなるクルマにはっきり分かれる。もちろん評価面で有利なのは加点主義のほうだが、そう思わせるクルマは例外なく「あっ、これ好きだわ!!」「面白い!!」と感じさせるような、強烈なアピールポイントを持ち合わせていた。

マツダ自身、過去にそういうクルマを多数、世に問うてきた。平成初期に作った『ユーノスロードスター』は今でも、雨漏りせず動きさえすれば中古車として高い価値を維持している。クルマの出来自体は今となってはあらゆるところが古いのだが、初代モデルを愛するオーナーはネガティブファクターを指摘されたところで、気にもならないだろう。そのクルマに惚れ込んでいるからである。

同じ頃に売られていた『ファミリア』の4WDターボも、排気量が小さいことから速さでは強力なライバルたちに力負けしていながらも、氷上ラリーでは強い、スタイリングが良いなどの理由で、独特の人気を誇っていた。ロータリーエンジンを搭載する『RX-7』は言わずもがなである。大衆車、スポーツカーを問わず、独善的なクルマづくりを支持する熱烈なマツダファンの数は、今よりむしろ多いくらいだったのだ。

アクセラからも顧客が「誰が何と言おうとこのクルマはいいんだ」と言い張りたくなるような昔年のマツダのクルマづくりに回帰しようとしている様は見て取れるが、まだまだ“萌え要素”に欠けている。それをさらっと盛り込めるようになれば、マツダ車はまだまだ面白くなるだろう。

最後に一点、今回の試乗車のエンジンは2.2リットルターボディーゼルであったが、クルマの重量に対してオーバースペック気味で、トルクが余る傾向が顕著だった。これはこれでスポーツグレードとして残すとして、CX-3などに搭載される1.5リットルターボディーゼルを搭載してもいいのではないかとも思われた。アクセラがデビューした当初、開発陣は「ディーゼルについては小排気量で低燃費、低価格という売り方はしたくない」と言っていた。が、高速道路、一般道とも日本より格段に速度レンジが高い欧州でも1.5リットルターボディーゼルをラインナップしているのだ。日本でもそれを売れば、過剰なパワーは必要ないがディーゼルに乗ってみたいという顧客を集められると思うのだが。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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