被害現場は裏サイトからSNSへ…スマホが変えた情報モラル

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 3月12日に開催された日本スマートフォンセキュリティ協会主催の「スマートフォンセキュリティ シンポジウム」で、千葉大学藤川大祐教授は基調講演「子どもたちのスマートフォン利用状況と課題」を行った。

 千葉大学教育学部、同副学部長の藤川教授は、文部科学省のいじめ防止基本方針策定協議会委員、内閣府の青少年板―ネット環境の整備等に関する検討会座長代理、企業教育研究会理事長など、生徒・児童のネットとのかかわりや情報モラル教育に関する活動・研究を行っている。今回の講演は、子どもたちのコミュニケーションツールが携帯電話からスマートフォンへ急激にシフトすることでの課題と必要な情報モラルをどうやって浸透させるかというもの。

◆急激に上昇し始めた子どものスマートフォン利用率

 2000年代の携帯電話やインターネットの普及にともなう、子どもたちのさまざまな事件・トラブルを受けて、青少年インターネット環境整備法、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)のような第三者機関、キャリアやサービスプロバイダの取組みのほか、社会の合意形成が進み、「数年前まではトラブル、福祉犯被害などは減少傾向にあった。」(藤川教授)。

 しかし、2011年ごろから、小学生から高校生までの携帯電話の利用率が減り始め、代わってスマートフォンの利用率が急激に上昇しはじめた。「2013年にスマートフォンと携帯電話の利用率が逆転し、特に高校生では2012年の段階でスマートフォンが追い抜き、2015年の利用率は93.6%に達している。小学生はまだ携帯電話が多いものの2人に1人はどちらかを所有している状態(藤川教授)」だという。このことは、教育現場などにどのような影響を与えるのだろうか。

 まず、短期間で子どもたちのネット環境が変わると、ネットリテラシーに関する3年前の教材はまったく使えないという。学校裏サイトやプロフサイトはもはや過去のもので、LINEやFacebook、Instagramに対応していない教材、指導では効果は期待できない。

 もう1点、教授が指摘するのは、携帯電話、スマートフォン以外に子どもたちがインターネットに接するデバイスが増えている点だ。携帯ゲーム機、音楽プレーヤー、タブレット、そして、契約切れの古いスマートフォンを子どもに与える親も少なくない。これらの機器は、キャリアの契約がなくても自宅にWi-Fi環境があれば、簡単にインターネットにつながってしまう。

 ゲーム機などは制限がかかっているものもあるが、Wi-Fi経由の接続の場合、キャリアのフィルタリング機能やセキュリティ機能と関係なく繋がってしまう。しかも「幼児のスマホ利用も増えており、0歳児の10%がスマホに接しているという統計もある。」(藤川教授)そうだ。

◆スマートフォン利用が増えることによる3つの問題

 続けて藤川教授は、このような現状が子どもたちに与える影響や問題が3つあるとする。

1、利用時間と成績における「ある相関」

 そのひとつは、利用時間の増加だ。インターネット利用時間そのものは横ばいなのだが、1日2時間以上スマートフォンを使う層が学年が上がるにつれ増えている。ここでも高校生の数字が際立つといい、スマートフォン利用者の66.8%が該当する。5時間以上という利用も高校生で12.5%、中学生で7.1%となっている。小中学生のネット利用時間と全国学力・学習状況調査(2015年)の正答率のクロス集計では、長時間利用の子どもほど正答率が下がるという相関関係が認められる(藤川教授)という。

 もっとも、因果関係の証明はされていないので、ネット利用が増えると成績が下がるとは限らず、ネット利用を減らせば成績が上がるというものでもない。もともと成績が悪い子どもが、勉強しないでネットを利用しているだけかもしれないからだ。事実、放課後の生活時間調査(ベネッセ教育総合研究所)では、子どもたちの睡眠時間、勉強時間は減っておらず、テレビなどの視聴時間が減っているという結果もある。つまり、勉強せずネットばかりしているというわけではなく、睡眠時間や成績に影響がでるようなネットの長時間利用には注意が必要ということだ。

2、ネットいじめの変容…被害現場は裏サイトからSNSへ

 次に藤川教授が指摘する問題は、ネットいじめの増加だ。2007年(平成19年)ごろがピークだった学校裏サイト、プロフサイトのいじめ問題は年々減少してきたのだが、スマートフォンの利用が急激に増えた2012年から2013年にかけては再び認知件数が増加してしまった。これを福祉犯被害者の統計(警察庁)で見てみると原因が見えてくる。いわゆる出会い系サイトの被害はかなり減ってきているのだが、そのほかのコミュニティサイトやID交換掲示板での被害が増えている。

 さらに内訳をみると、LINEのID交換掲示板による被害が2013年に急激に増え始めた。しかし、LINEの運営側によって年齢認証されていない利用者のID交換が禁止されたため、この被害は2015年に急激に減っている。代わりに増えているのはチャットアプリやFacebook、TwitterなどのSNSによる被害だ。スマートフォンはネットいじめの様態を変えている。

3、フィルタリング利用率の低下

 最後に、藤川教授はフィルタリング利用率の低下の問題を指摘する。携帯電話は通信キャリアが自社ネットワークに対してアプリやサービスの検閲を行ったり、フィルタリングサービスを提供していたりと、利用率は比較的高いが、スマートフォンでは45.2%(2015年)と半数に満たない。「フィルタリングは子どもたちを危険なサイトや犯罪者など、リスクから遠ざけるという点で効果が期待できる施策にもかかわらず、スマートフォンでの利用率が下がってきている」(藤川教授)のは問題だろう。

 加えて「スマートフォンの場合、フィルタリングを設定していてもキャリアが提供するネットワーク型のフィルタリングでは、Wi-Fi環境で機能せず、アプリが行う通信も抜け穴となってしまう。スマートフォンでネットワーク型、Wi-Fi対応、アプリ制限までフルのフィルタリングを行っている利用者は20%程度ではないか」と藤川教授は試算しており、現状を危惧する。

◆対策は設計時の保護機能と問題解決型のルール

 対策としては、スマートフォン向けに統合的にフィルタリングの設定ができる仕組みやサービスの整備が必要だが、これには通信キャリアや端末メーカーが、設計段階から子どもを守る機能を組み込む「青少年保護・バイ・デザイン」の考え方が重要だという。

 また、ネットいじめはSNSの友達グループの中で発生するため、フィルタリング機能、運営側のID管理やプライバシー設定では、本質的な対策はできない部分である。青少年保護・バイ・デザインという考え方に加えて、情報モラル教育との2本立ての対策ができなければならない。藤川教授は、放送局、ゲーム運営会社、インターネット関連企業らと産学連携の形で啓発コンテンツや教材を開発している。

 テキストベースのガイドラインや教材も有効だが、ネットリテラシーについては子どもの中でも個人差が大きいので、映像・動画コンテンツによるものがより効果的だという。ドラマ仕立て、RPG風なゲーム形式などを監修し、指導案つきのコンテンツも制作・提供しているそうだ。ドラマやゲームとするのは、決め事やルールを一方的に教えるのではなく、生徒・児童に考えさせるための工夫でもある。さらに、情報モラルだけでなく一般的な社会常識やマナーといった要素も組み込みやすいともいう。

 歩きスマホや食事中のスマホなど、文字で「危険」「マナー違反」とするより、映像で危険な場面、態度の悪い人などを見せる方が伝わるということだ。そして、藤川教授はこれらの教材を見せたあと、子どもたちに議論させ提起させた問題について、問題解決型のルールを作らせる方法が効果的だとして基調講演を締めくくった。
《中尾真二》

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