【マセラティ ギブリ 試乗】粋でお洒落で伊達、な「普通」のクルマ…中村孝仁

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マセラティ ギブリ S Q4
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生まれて初めてマセラティというクルマに乗ったのは、確か1974年のことだと記憶する。その当時、マセラティは非常に特別なクルマだった。

どう特別かというと、当時のマセラティはいわゆるスーパーカーメーカーで、基本的には2シーターもしくは2+2のモデルしか作らないメーカーだった。しかもその性能はフェラーリ、ランボルギーニに匹敵し、生まれて初めて乗った『ギブリ』(当時モノ)も、美しいジウジアーロデザインのクーペボディを纏う2+2で、当時としてはずば抜けたパフォーマンスを持ったモデルだったから、ギブリに乗るということはフェラーリやランボルギーニに乗ることと同義語だった。しかも今のフェラーリやランボルギーニと違って、当時は極めて数が少なく、それゆえに特別だったのである。

翻って今、2015年のマセラティの販売台数は日本だけで1500台弱。勿論フェラーリやランボルギーニの倍以上を販売するある意味人気ブランドに成長し、そのラインナップもかつてのスーパーカー一辺倒から、実用的なセダンを中心とするラインナップに変化したのが販売を押し上げた大きな理由だと思える。因みに70年代当時、マセラティの年間生産台数は1500台に届いていない。ギブリの名も、初代のスーパーカーから、2代目はスポーティーな2ドアモデルに。そして現行の3代目はミッドサイズセダンに生まれ変わり、そのデザイン、メカニズムなどは往時をしのばせるものの、70年代に味わった特別感は薄れていた。

今回試乗した『ギブリS Q4』について軽く説明しよう。エンジンは3リットルツインターボV6。マセラティによってデザインされ、フェラーリによってアッセンブリ―されるもので、パワーは410psを誇る。トランスミッションは8速AT。車名末尾のQ4が示すように試乗車は4WDである。勿論オンデマンドAWDで、フロントへのトルク伝達は最大で50%とされており、あくまでFRが基本であることを伺わせるものだ。

このクルマ、ミッドサイズラグジュアリーセダンとして生を受け、まあ仮想敵として考えられるのはメルセデス『Eクラス』やBMW『5シリーズ』などとなるわけだが、価格的にはそれらの最上位モデルに相当するから、まだまだ特別感はある。特にそれを感じるのがインテリアのスポーティーな佇まい。肉厚の本革シートに身を委ねると、やはりマセラティが持っている往時の特別感を味わえる。もう一つはV6エンジンが奏でるサウンドで、このクラスのラグジャリーカーなら静粛性を求めるだろうが、ギブリの場合は積極的にメカニカルサウンドを聞かせることに重点を置いた作りがなされていると言っても過言ではない。

エクステリアのデザインは元ピニンファリーナのロレンツォ・ラマチョッティと言われることもあるが、実際は現行アルファロメオ/マセラティのデザインチーフ、マルコ・テンコーネのデザインだというのが一般的。テンコーネも元々ピニンファリーナで働いていたデザイナーで、一端ランチアに移籍後、今の地位にあり、アルファロメオ『4C』や最新の『ジュリア』も彼のデザインと言われる。

というわけでエクステリアは十分に官能的で魅力的である。で、そのエクステリアを眺めつつ、前述した肉厚な本革シートに座っていざ出発。心地よいV6のビートは常に耳に届くが、雰囲気的に静寂よりもこのサウンドを聞きながらのドライブの方が楽しい。そう、4ドアセダンでゴルフバックも積めるようなマセラティだが、ドライブが楽しくなるクルマである。

とはいえ、現代流の電子制御で支配されたクルマではなく、足回りもごく一般的な金属バネによるもの。しっかりとした足ではあるものの、ラグジュアリーカーに求められるフラット感はなく、スポーツサスペンションを履いたラグジュアリーカー的である。まあ表現するならとてもコンベンショナルなモデルともいえる。それを「普通」と表現しても良いと思う。誰でも気楽に乗れて、ごく普通に走れるし、その気になればV6サウンドを一段高い音で奏でながら峠道でも楽しめそうな気配を漂わせるクルマなのである。

FRのギブリに試乗したことがないので、断定はできないが、日本スペックで見る限り車重はFRもAWDも同一。しかしQ4はFRに対しおよそ60kgほど重いことになっている。また、通常走行はFRで走ることになっているから、完全にフロントアクスルを切り離さない限りフリクションもあり、雪道などの走行を想定しないドライバーは、FRのギブリSの方がドライブは楽しいかもしれない。いずれにせよ、伊達、とか粋とかという言葉のとてもよく似合うクルマである。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来38年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。
《中村 孝仁》

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