【スズキ アルトワークス 試乗】こいつは軽のスポーツカーだ…中村孝仁

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『アルト ターボRS』がデビューした際に、その痛快さと価格の安さから、それを絶賛した。ただ、設定されたトランスミッションが5AGSだけというのにどうしても引っかかっていたのだが、それが『アルトワークス』として実を結んだ。

ある意味既定路線ともいえるだろうが、ワークスの開発がスタートしたのは何とターボRSがデビューした後だという。そしてスズキは保険をかけて、ワークスにもちゃんとAGSを設定し、マニュアルに乗れない(あるいは苦手な)ドライバーにもフォローを入れている。しかし、蓋を開けてみるとやはりというべきだろう。今のところマニュアル比率は9割に達しているそうである。

それにしても随分と頑張ってくれた。つまり、単にターボRSにマニュアルを装備しただけのクルマではないということだ。エンジン、足回り、トランスミッション、ハンドリングなど、ありとあらゆる部分に手を加え、ちゃんとワークス・ワールドを作り上げている。まずエンジン。数値的には最大トルクをターボRSの98Nmから100Nmへと僅か2Nm引き上げただけ。ところが、そのアクセルレスポンスはターボRSとはまるで違う。

次に足回り。ホイールリムを拡大し、専用チューニングのKYB製ダンパーを装備している。ステアリング操作に対し、リニア感を出しロールスピードを低減したチューニングとされているそうだ。

ハイライトのトランスミッションは、完全にワークス専用のショートストロークで1~4速をクロスレシオとした5速MTである。マニュアルの節度感を高めるために、2速はシングルコーンからダブルコーンシンクロに変更している。一方、まだ1割の少数派であるAGSの方も専用チューンが施され、よりダイレクトな加速を実現しているそうだ。

他にワークス専用装備といえば、レカロのフルバケットシートがある。ターボとRS比較すると、サイドサポートの高さが大幅に向上し、体全体が包み込まれる感触でドライビングを楽しむことが出来る。

といったようなプレゼンテーションを聞いた後でいざ試乗。トランスミッションは確かにショートストロークで、親指を少し押してやるようにすると、すとんと1速に収まり、それ以降も手首の返しだけでシフトが出来るような感覚のなかなかの優れモノである。

それ以上に驚かされたのは、そのレスポンスの鋭さである。シフトアップしながらアクセルをグッと開けると、レブカウンターは一気に、そしてほぼ瞬時にリミットに到達するという印象だ。高速の合流などでも、そのレスポンスとスピードの上がり方は、同時に試乗した『イグニス』を上回る。ギアがクロスレシオなので、ほとんど回転の落ちもなくあっという間に5速。それでもまだ加速しようとするので思わず6速を探したくなる。

試乗後に、5速は直結ですか?というこちらの問いに「そうです」と答えたエンジニア。しかし、帰宅して諸元を見ると5速のギア比は0.897と若干のオーバードライブレシオである。ンもう…、ちゃんと教えてくださいよ。でも、このオーバードライブレシオでは全然物たらず、0.7前後のギアがついていても良いと感じるほどである。

高速を降りてワインディングへ。電動のパワーステアリングも専用チューンが施されていて、ターンインは実にシャープ。そこからの踏ん張りは、やはりリム幅を4.5Jから5Jに拡大した効果もあるのだろう。グッと一瞬ロールして、その姿勢を変えない。とにかくすべての挙動が、RSより一回り鋭くダイナミックである。これほどの切れ味を見せる軽を考えると、思いつくのはホンダ『S660』だけ。こうなるとワークスは完全に軽のスポーツカーと言って過言ではない。

ただし、少し緩んで安らぎを感じて乗りたいと思っても、引き締まった足はそれを許してくれない。正直、常に緊張感をもって乗る類のモデルである。それでもレカロの座り心地は絶妙で、確かに安らぎはないが、不快でもない。惜しむらくは、フットレストが装備されていないこと。しかもアクセサリーでもそれが用意されていないというから、何たる不覚。こいつは是非用意して欲しい。もう一つはレカロの着座位置が高いこと。 視界は良好だが、この種のスポーティーなモデルの場合、もう数センチ着座位置が低いとそれらしい雰囲気を作れると思う。ターボRSより20万円強高い設定だが、その価値は十分ある。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来38年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。
《中村 孝仁》

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