宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、X線天文衛星「すざく」の科学的成果をまとめた。
X線天文衛星は、宇宙の高温プラズマの高精細な分光観測と、高感度・広帯域の測光・分光観測によりブラックホール周辺の物質運動、銀河団の形成・進化の問題に新しい光を当てるため開発に着手した。
2001年に旧宇宙研が第23号科学衛星(ASTRO‐EII)の開発に着手し、2005年7月10日、M-Vロケット6号機で打上げに成功、「すざく」と命名した。日本で5番目のX線天文衛星で、日米国際協力により製作が進められた。観測天体は、全世界中から募った観測提案の中から審査によって選ばれ国際天文台として機能してきた。
「すざく」は、目標寿命の2年を大幅に超える10年にわたって観測を続けた。国際天文台として世界中の研究者に観測の門戸を開き、2014年12月末までに、査読付き論文762件、学位論文227件を発表するなど、多くの成果創出に貢献した。
広い波長域にわたって世界最高レベルの感度を達成するなど、高い観測能力を実証し、銀河団の合体などによる宇宙の構造形成、ブラックホール直近領域の探査(エネルギー解放や時空構造の解明)などについて成果を挙げてきた。
具体的には、ペルセウス座銀河団をX線で観測し、外から落ち込んでくるガスが塊をなして銀河団に落下し、理論予測の通りの位置で銀河団ガスとの衝突が起きていること、高温ガスに占める鉄の割合が銀河団の外縁部までどこでも一定であることを発見した。
可視光で見ると一見普通の渦巻き銀河に見えるESO005-G004、ESO 297-G018をX線で観測し、その中心に、極めて厚い塵やガスに埋もれたまったく新しいタイプの活動銀河核、ブラックホールが存在することを発見した。
「はくちょう座X-1」のブラックホールに伴星からガスが落ち込む際、そのガスが最後の100分の1秒程度の間に10億度以上にまで急激に加熱され、高エネルギーX線を出すことを突き止めた。
一方、衛星搭載バッテリの劣化が進み、観測継続のためにバッテリの使用方法を工夫しながら科学観測を続けていたが、今年6月1日、衛星の動作状況を知らせる通信が間欠的にしか確立できない状態が確認され、科学観測運用を中断した。
通信不良は電力不足に起因すると推測されたことから、再立ち上げ運用として、衛星状況の把握に努めるとともに、復旧運用を模索した。衛星状態の把握を目指して運用を継続してきたが、2系統あるバッテリの片方の容量が失われたと推測できる事象が観測されるなど、衛星状態の回復が見込めない状況が明らかになったため、8月26日に観測運用終了すると公表した。
現在は、運用終了に向けて作業中。JAXAのスペースデブリ発生防止標準に基づき、搭載の推進系燃料は排出済み。また、バッテリ切り離し運用も完了した。電波の使用停止の観点から、今後、送信電波を停波する予定。
衛星の大気圏再突入は2020年代前半となる見込み。