8年ぶりに東京モーターショー2015に復活出展したフィアット初のBセグメントコンパクトクロスオーバーSUVが『500X』だ。『500』、つまり「チンクエチェント」を名乗っていても、ボディサイズは全長4250×全幅1795×全高1610(FF)mm、ホイールベース2570mmと、500の同 3545×1625×1515mm、2300mmと比べはるかに大きい。そう、プラットフォームなど基本部分を同じイタリア・メルフィのSATA(先進 自動車技術会社)で生産される、FCAグループのジープ『レネゲード』と共用しているのだ。日本仕様の500XはFFで1.4リットルターボのツインエアー、140ps、6AT (DCT=デュアルクラッチミッション)のポップスター、先進安全装備を充実させたポップスタープラス、および4WDで1.4リットルターボ、170ps、9AT!!を組み合わせるクロスプラスが用意される。それにしても、ベースグレードのポップスターで286万2000円からの戦略的価格は、人とは違うオシャレでコンパクトなクロスオーバーSUVを探していた人に刺さりまくる設定のように思える。スタイリングはまさに500を大きくしたクラシカルなイメージで、顔つきも500、チンクエチェントそのもの。新世代のチンクエチェントからのステップアップを望んでいた人にもうってつけだろう。しかし内装の仕立て、質感はドイツ車的…というと誤解を招くかもしれないが、イタリア車の粋とのかっちりした仕上げを両立。イタリア車ファンならずとも好感が持て、納得できる世界がそこにある。収納の豊富さも実用面での魅力と言っていい。さて、ここではポップスターとエンジンやミッションは同じでも、タイヤサイズがポップスターの215/55R17から225/45R18にサイズアップされたポップスタープラスに試乗した。レザー張りでパワー&シートヒーター機能を持つ(前両席)運転席の着座感はとても素晴らしい(シートデザインも!)。表皮は張りがあり、ゆったりサイズで硬めのかけ心地だが、ホールド感は文句なし。SUVの機能として大切な全方位の視界もルーミーだ。ちなみに身長172cmのドライバーの基準でその背後の後席に着座すると、頭上に11cm、ひざ回りに11cmのスペースがあり、前席よりシートが高くセットされ前方見通し性もいいから、実際のスペース以上に爽快(そうかい)な気分でドライブを楽しめるはずだ。シフター手前にあるドライブモードスイッチをノーマルモードにセットして走り出せば、比較的黒子に徹するエンジンはごくスムーズかつ静かに回りだす。1.4リットルの排気量でもターボを備えるから実にトルキー。走りやすい。ただし、DCTは出足の一瞬、ギクシャクするが、気になるのはほぼそのシーンのみである。18インチタイヤを履く乗り心地は硬めながら、段差越えなどのシーンを除けばまずまずフラット。ステアリングのセンター付近がビシリと引き締まっているため直進感は文句なく、SUVらしい全高、重心の持ち主ながら、カーブでのロールは最小限。操縦性はクロスオーバーSUVとしてはなかなかスポーティで、 ステアリング操作に対してノーズが素直に向きを変え、タイヤのグリップ感の高さも信頼にたるものだった。日常域で黒子に徹(てっ)しているエンジンは、しかし高回転まで回してやると、気持ちのいい快音を控えめながら聴かせてくれるあたりはさすが、イタリア車の走り好きの気持ちを分かっているチューニングである(それでもノイジーさとは無縁だ が)。動力性能は1380kgのボディーに対して140psでも十二分という印象だ。ミッションがマニュアルベースの6ATということもあり、スムーズでダイレクト感ある加速フィールが心地良い。ドライブモードスイッチをスポーツにセットすればエンジンレスポンスが高まり、一段と痛快な加速を味わせてくれるのだが、 山道を積極的に飛ばすようなシーンではともかく、日常域では飛び出し感のないノーマルモードのほうが扱いやすいと感じたのも本当だ。インダッシュナビに慣れた人が気になるはずなのは、いかにも後付けされた、インパネのステアリング右上にセットされていた小さなナビゲーション(オプション)だが、今どきはスマホやタブレットに賢いナビゲーションアプリを入れ、使える時代だから 、この際、とやかく言うのは野暮(やぼ)かもしれない…。■5つ星評価パッケージング:★★★★インテリア/居住性:★★★★パワーソース:★★★★フットワーク:★★★★オススメ度:★★★★青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー自動車専門誌の編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、一般誌、ウェブサイト等に寄稿。自作測定器による1車30項目以上におよぶパッケージデータは膨大。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍、ウェブサイト、ペットとドライブ関連のテレビ番組、イベントも手がけ、犬との自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーの活動も行なっている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。