利点の3点目は、インストールが容易であること。これは非常に大きな利点であり、まさしく“目からうろこ”的な発想だった。カーナビが普及し、さらには異形インパネを採用するクルマも増え、1DINのオーディオ専用機を導入しにくくなりつつあった中で、「Mirror Media MM-1」はルームミラーに被せるようにして装着すればOKなのだ。
そして4点目は、純正オーディオとの共存も可能なこと。実はこれは利点としてかなり大きい。通常のカーオーディオは、純正デッキとの換装が前提だ。ところが純正デッキは単にオーディオユニットとして存在しているのではない場合が結構ある。高級車になるほどその傾向は強く、純正デッキを外してしまうことはもろもろの機能を失うことを意味する(そもそも外せない場合も多々)。しかし「Mirror Media MM-1」は、純正デッキをそのままにしておくことを前提としていた。むしろ純正デッキの音源も取り込んで、純正オーディオと後付けオーディオを並列で生かすことが可能。この発想は相当に新しかった。
だが「Mirror Media MM-1」は先を行き過ぎていた…。だからこそ、一部から懐疑的に見られたのである。特に前述した4点目の利点を理解できない人が少なくなかった。さらには、CDを一旦パソコンに取り込まなくてはならないことも疑問視された。今となっては、これが疑問視されることはほとんどないのだが…。また、価格も決して手軽とは言えないものであったので(税抜価格;20万円)、それも含めてなんとなく受け入れ難い、と捉えられていたように思う(同等の価格を有するハイエンドカーオーディオCDプレーヤーは存在していたのだが…)。
しかし、価格の高さには理由があった。音質性能がすこぶる高かったのだ。非回転メカである利点を活かし、それ以外の部分も当然徹底的に磨き込まれていた。「Mirror Media MM-1」が目指していたのは、「正確に原音を再生する」ことである。それを追い求めた結果が“リニア PCM プレーヤー”という形であり、これをいかに合理的に実現させるか研究され、その回答が“ミラー+メディア”だったのだ。奇抜であることが前提ではなく、ただ性能を追求したに過ぎない。
そしてそれを評価できる人たちも少ないわけではなかった。「Mirror Media MM-1」の利点を正しく理解でき、なおかつ音を良さを素直に認められる人たちは、率先してこれを導入した。
支持者の増加が加速したのは、登場から半年が経過した頃だ。2006年の1月に、早々に転機が訪れた。アメリカで開催された“International CES 2006”において、「Mirror Media MM-1」は『Innovation Award』(Vehicle Audio Electronics category)を受賞したのだ。世界に認められたことで、懐疑的な視線は次第に駆逐されていくこととなる。
その後も愛用者を増やしていった「Mirror Media MM-1」は、登場から約8年が経過した2013年の2月には、初のフルモデルチェンジも果たした。コンセプトは完全に継承された上で、デバイスから筐体に至る90%以上(点数比)の構成部品が刷新され、一層の高純度な音質とさらなる機能性の向上が実現され、「STATE MM-1D」として生まれ変わった。
「STATE MM-1D」は、2015年の今も特別な存在であり続けている。これでしか味わえない音質性能と使い心地を有し、カーオーディオフリークの多くから憧れの目で見られている。特に、純正オーディオを残したままハイエンドカーオーディオを導入しようと思った時には、有力な候補の1つとなる。今後はさらに、純正オーディオの取り外しが難しくなる傾向が強まりそうだ。「STATE MM-1D」の存在意義は、ますます高くなっていくことだろう。10年前に提示されたコンセプトが、今でも先進的なままなのである。この事実はとても興味深い。「Mirror Media MM-1」そして「STATE MM-1D」が“逸品”であることに、疑いを向ける余地はない。