【ボルボ V60 D4 3500km試乗 前編】「エコラン意識せず」東京~鹿児島間を無給油で…井元康一郎

試乗記 輸入車
東京・芝のボルボ・カー・ジャパンを出発。3500kmの旅の始まりである。
  • 東京・芝のボルボ・カー・ジャパンを出発。3500kmの旅の始まりである。
  • 出発後しばらくしてスタートストップが作動しないことに気づいた。調べてみたら…。
  • 0.7リットル/時はアイドリング燃料消費率。スポーツモードにするとアイドル回転数が跳ね上がり、消費量も60%増くらいに。
  • バイパス走行時は燃費を伸ばすチャンス。
  • 京都北方・丹波高地で昭和の香り漂う古民家カフェを発見。
  • 国道477号線を走行中。急坂続きでタイトターンが連続する道で、燃費には厳しい。
  • 鳥取付近の山陰自動車道を走行中。やたら渋滞していると思いきや、事故発生であった。
  • 関門トンネル通過。

低燃費とハイパワーの両立を目指して開発された新型ディーゼルエンジン「D4」を搭載するモデルを一挙に5車種投入したスウェーデンのボルボ。うち、ミドルクラスのステーションワゴン『V60』を3500kmほど走らせる機会があったのでリポートする。

V60のプロフィールをおさらいしておこう。欧州Dセグメントに属するミドルクラスのステーションワゴンで、現地のマーケティング調査では一般にメルセデス・ベンツ、アウディ、BMWと同様、プレミアムセグメントに分類される。全長は4635mmと短めで、フォルクスワーゲン『パサート』のようなフルエステートではなくスタイリッシュさ重視のスポーツワゴン的な位置づけ。ちょうどBMW『3シリーズツーリング』やアウディ『A4アバント』などとかぶるキャラクターだ。

そのため、Dセグメントながら車内はパセンジャースペース、ラゲッジスペースともだだっ広いわけではない。大人4人が着座したうえで中程度の旅行トランク4個+αの荷物をきっちり収納するスペースは確保されているが、大型テントや折り畳みソファー類など、ロングバケーションのための道具をたっぷり積み込むようにはできていない。アウトドアユースというよりは、経済力に余裕があるカスタマーが別荘やホテルに遊びに行くといった、リゾートエクスプレス的な性格が強い。

試乗車はスポーツサスペンションを装備し、インテリアもスポーティなブラック基調とした「D4 R-DESIGN」というグレード。D4エンジンはボルボの新世代パワートレイン「E-DRIVE」シリーズのひとつで、排気量2リットルの直4にシーケンシャルツインターボ、最高噴射圧2500気圧のコモンレール型噴射装置「i-ART」などをセットアップしたもので、スペックは最高出力190ps、最大トルク400Nm(40.8kgm)。本国でも225psの「D5」に次ぐハイスペックディーゼルである。JC08モード燃費は20.2km/リットル。

◆東京~鹿児島、無給油走破にトライ

試乗コースは東京~鹿児島の往復と鹿児島エリアでの移動。コースは往路が滋賀・草津から山陰地方まわりで九州へ、帰路は山陽経由で東京へ向かうというもの。一般道・バイパスをメインに走行し、混雑の激しい大都市部は高速道路で迂回する一方、丹波高地を縦貫する国道477号、平家落人の里五家荘を見ながら九州山地奥部を抜ける国道445号などのワインディングロードも積極チョイスした。

ディーゼル導入に際して多くのカスタマーが関心を持っているであろう燃費と航続距離だが、おおむね良好なスコアであった。往路は静岡から愛知にまたがる長大なバイパス群、国道1号線鈴鹿峠、鞍馬天狗伝説の地である秘境道路である国道477号線、山陰道および山岳路を含む国道9号線、九州山地を走る地方道というルートを優速なペースで走行。1327.3km、熊本の菊池温泉北方を通過中に航続距離残表示が100kmを切ったのを見て給油し、燃費は18.94km/リットルであった。

この調子であれば、山岳路が少なく、距離も1400km台ですむ瀬戸内経由なら鹿児島~東京間の無給油走破もじゅうぶん行けるだろうと目算を立てた。が、あいにく鹿児島を出発した8月16日夜は九州全域に大雨洪水警報が発令され、至るところで道路が川のようになっている中を走らねばならず、福岡の二日市に到達した時点で燃費はボロボロ。2日目も山口の岩国市街で1時間以上渋滞に捕まったりとさまざまなアゲインストに見舞われたため、無給油走破は半ば放棄していた。

ところが、愛知の三河安城に達した時点でフルスケール8メモリの燃料計表示が残り3メモリを何とか維持していたため、エコランをすれば無給油で東京まで走れるかと思い直してそこから300kmあまりを省エネ気味に走行。多摩川を越えて東京に入り、環状8号線沿いの給油所に滑り込んだときにはトリップメーター1438.8kmで満タン法燃費は燃費は19.75km/リットル。さすがに余裕たっぷりというわけではなかったが、東京~鹿児島無給油走破を何とかやりおおせることができた。

◆vs アコードハイブリッド、vs 3シリーズディーゼル

東京~鹿児島を一般道主体で走るような時は、燃費を気にしたエコランは基本的にやらない。帰路で唯一エコランを意識した、愛知~東京間の区間燃費グラフを見る限り、バイパスのような信号の少ない道路の流れをリードしたりせず大人しく走っていれば燃費をいくらでも伸ばせそうだったが、ディスタンス1500kmといった長距離走行の場合、ちんたら走っていたらいつまでも目的地に着かない。登坂車線ありの勾配区間では速度の遅い大型車両はできるだけパスし、その他の場所でも速い流れにきっちり乗って走る。

これは今回のV60 R-DESIGNに限らず、ロングドライブをする時の筆者の定番走行パターンなのだが、過去に東京~鹿児島を無給油で走り切れたもう1台のクルマ、『アコードハイブリッド』と比較すると、同じようなポリシーで運転しているにもかかわらず、アコードが平均車速47km/hであったのに対してV60 R-DESIGNは54km/hと、15%近く上回った。思い当たる要因はただ一点。ガソリンハイブリッドとディーゼルを比べた場合、ガソリンハイブリッドが無意識のうちにモーター走行などパワートレインの総合エネルギー効率に気持ちが引っ張られがちになるのに対し、ディーゼルのほうはなぜか効率はあまり気にならず、気前良く俊敏に走る気にさせられたからだ。

アコードの東京~鹿児島間の燃費は実測で25.6km/リットル。エネルギー消費の観察から推測するに、V60とペースを合わせて走った場合の燃費は22km/リットル前後あたりか。さすがにV60が燃費で勝つのは難しそうだ。一方、トヨタのDセグメントハイブリッド『SAI』および『カムリ』との比較では市街地、とくに渋滞の激しいところではSAI、カムリがV60を大幅に上回り、それ以外のシーンではV60が全面的に上回っているように思われた。今回のドライブをシミュレートすると、SAIは16km/リットル、カムリが17km/リットル前後と推測されるが、市街地主体のドライブでは逆転するだろう。ディーゼルはスロットル開度による熱効率の変化がガソリンに比べて小さいため、渋滞時での燃費低下も穏やかなのだが、基本的にはツーリング向きのキャラだと言える。

ディーゼル同士の比較で言えば、プレミアムDセグメントのライバルであるBMW『320d M Sport』とほぼ互角の燃費であった。全開加速時を含む絶対的なパワー感はボルボのほうが相当優っているように思われる一方、ATとエンジンの協調制御の上手さがもたらすスポーティ感ではBMWに少なからず差をつけられているという印象だった。

BMWの2リットルターボディーゼル+ZF製8速ATは、自動変速、パドルシフトによる変速のいずれにおいても、変速時にエンジンの回転と要求トルクを素早く次のギア段に合わせるよう精密にチューンされており、加速、減速の両方向でトルク変動をほとんど感じさせない名品。ちょっとオーバーに言えば、ル・マン24時間耐久レースを走るディーゼルマシン、アウディ『R18 e-tron』のような雰囲気だ。ボルボの8速ATを作ったアイシンAWのエンジニアによれば、機構限界までにはまだまだ余裕があるそうなので、今後の感性領域の熟成に期待したい。

目下、国産勢唯一のDセグメントディーゼルモデルであるマツダ『アテンザ』の2.2リットルターボディーゼル+6速ATについては長距離ドライブをこなしていないのだが、1時間ほどのドライブを数回こなしたときの印象に照らし合わせると、まず市街地走行での騒音・振動ではアテンザが優勢、パワーフィールは互角、燃費ではAT同士だとV60が上回るのではないかと思われた。

◆長距離で光る、燃料コストの安さ

さて、鹿児島から東京まで無給油走破を果たすことができたV60 D4 R-DESIGNだが、長距離をディーゼルで走ってみてあらためて驚いたのは、燃料コストの安さだった。給油を行った環状八号線上野毛の給油所は軽油価格が現金フリーで93円/リットルとことさら安かったこともあって、支払い額はたったの6775円、1kmあたりの走行コストは実に4.71円であった。

急速充電器の利用料を500円/回とした場合、EVでも真夏や真冬などコンディションが不利な時はロングドライブの走行コストで勝てなくなるほどで、オンロードでの実走行コストが現状で1kmあたり12円くらいかかる燃料電池車では到底太刀打ちできない数値である。ちなみに平均車速は遅かったが燃費は良かったアコードの走行コストも同じ給油所のガソリン価格で計算すると5円/km程度。EVはユーザビリティについて、燃料電池車はエネルギー効率について、今後相当のイノベーションを巻き起こさなければ、いつまでたっても普及はおぼつかないと感じられた。

ボルボのD4ディーゼルはこのようにパフォーマンス面では申し分ないレベルにあったが、実は難点もある。それはスタートストップ(アイドリングストップシステム)の仕様だ。ドライブしたのは最高気温38度になんなんとする猛暑の時期であったが、走り始めてしばらく経っても一向にスタートストップが作動する気配がない。

設定が悪いのかと、インフォメーションディスプレイでセットアップ項目を探したところ、「外気温は、システム作動範囲外です」という表示が。気温30度以下が作動要件とのことで、これでは高温になる日本の夏ではシステムの恩恵を受けることはほぼ絶望的である。何という北欧生まれ!!と思ってしまった。

別にボルボは北欧や中欧だけで売られるわけではなく、アメリカのデスバレーを走っても大丈夫なようにできているのだから、日本車なみに40度とは言わずとも、35度くらいまではスタートストップが機能するようソフトウェアを変えてほしいと思った次第。ちなみに東京から鹿児島への往路においては夜になっても深夜になるまで気温が30度を下回らず、ほとんどエンジン停止しなかった。ちゃんと機能していれば、燃費はさらに伸びたであろう。またスタートストップが機能しなかったことで気がついたのだが、停止時のステアリングの微振動やアイドルノイズはマツダ、BMWに対してやや劣る。

もう1点、これはエンジン本体ではないのだが、平均燃費や航続残の表示が結構いい加減であったのも気になったポイントだ。平均燃費のほうはおおむね9%過大表示ということで比較的安定していたので、最初からそう思っていればいいのだが、航続残は本当にアテにしていいのかどうか判断に苦しむシーンが何度もあった。もちろんそちらも気になったら給油すればいいだけの話ではあるが、車両インフォメーションの精度はオーナーがクルマに抱く信頼感に影響するので、演算アルゴリズムをすみやかにアップデートすべきだろう。

以上、ボルボD4エンジンのパフォーマンスについてリポートした。後編ではディーゼルボルボのロングツーリング感についてお届けしたい。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集