【VW ポロ GTI 6MT 試乗】日本のカスタマーが求めるものは何か…井元康一郎

試乗記 輸入車
VW ポロ GTI 6MTモデル
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フォルクスワーゲングループジャパン(VGJ)が6月に日本市場投入を発表したコンパクトスポーツハッチ『ポロGTI』6速MT。最近デリバリーが開始されたこのモデルで公道を100kmほどドライブする機会があったので、ファーストインプレッションをお届けする。

ポロGTIの6速MTモデルは7速DCTモデルと同じく1.8リットル直噴ターボを搭載している。最高出力は192psで変わらないが、発生回転数はDCTが5400-6200rpmであるのに対して6MTは4300-6200rpmに拡大。最大トルクはDCTの250Nm/1250-5300rpmに対して320Nm/1450-4200rpmと、レンジが狭まったかわりにピーク値は大幅に高められている。

実際に走らせてみた印象としては、パワートレインの洗練度は欧州ホットハッチの中でもトップランナー級であった。ルノー、プジョーなどのライバルに比べてひとまわり大きな排気量のエンジンを積んでいるということもあるが、市街地を低回転域でドライブするときも柔軟性は抜群。トルク不足を感じることはまずないうえ、1000rpm台前半でのスナッチ(がくがくとした動き)やノイズ、バイブレーションなどのネガティブ要素もきわめて少ない。

高速道路の流入路での全開加速や追い越し時のパワー感も十分で、かつ中・高回転域でのエンジンの回転感も非常に良かった。ダウンサイジングターボエンジンといえば、パワー、トルクの絶対値は優れているが、回転上昇にともなうトルクの積み増され感が薄く、盛り上がりに欠けるというケースが多い。が、フォルクスワーゲンは直噴ターボの仕掛け人として、自然吸気のスポーツモデル用エンジンのごとくレッドラインに向けて昇り詰めるようなパワーフィールをデザインすることに成功していた。6速MTのタッチも良好だ。どのギア段においても引っかかり感は皆無で、かつクリック感も明瞭。

このパワートレインの洗練性とは対照的に、いただけなかったのはシャシーセッティングである。クルマに乗り込んで市街路を走り出した当初は、路面の荒れなどを柔らかく吸収する、快適性の高いサスペンションであるように感じられたのだが、首都高から東関道、館山道へと向かう高速クルーズでその好印象は崩れた。道路の補修跡や高架道路の床板の継ぎ目ではゴツッ、ゴツッではなくバタン、バタンという感じの低質な騒音・振動を伴うハーシュネス(突き上げ感)に見舞われ、快適性はプジョー『208GTi』やルノー『ルーテシアR.S.』などのライバルモデルに対して少なからずビハインドを負っているという感があった。

高速における巡航感も、チョロチョロと落ち着かないわけではないが凡庸。昨今の欧州Bセグメントの劇的な進化ぶりを考えれば、ハイグリップタイヤを履くスポーツモデルであっても、ステアリングを握る手に反力がかかるかかからないかくらいのホールドで自分の走りたいラインをスーッとトレースするようなしっとりとしたクルーズを期待するところだ。

が、ポロGTIは直進、緩やかなコーナーともそのレベルには達しておらず、フォルクスワーゲンらしい“もっちり”とした動きが出るのはレーンチェンジのときくらいのものであった。ワインディングなどタフなコースは走っておらず、そこではまた違った顔を持っている可能性もあるが、フォルクスワーゲンの看板を背負っているモデルなのだから、普段使いでのドライブフィールをもっと作りこんでほしいところだ。

ポロGTI 6MTは、パワートレインの洗練性、およびブレーキのタッチは非常に優れているものの、シャシーセッティングが足を引っ張り、欧州スポーツハッチとしてはあまり魅力的でないものになってしまっているように感じられた。旧型までのポロGTIのキャラクターといえば、荒れて砂利が浮いているような道でも路面に粘りつくような抜群の操縦安定性を持ち、かつどんなコンディションでも乗り心地が良く、どこまでも走っていく気になるミニマムなグランドツーリングカーというものだった。が、現行に試乗してみたかぎり、そのお株はルーテシアR.S.シャシースポールや208GTiに奪われてしまっている。

原稿執筆時点ではVGJに確認できていないが、このセッティングはおそらくグローバル共通のものではあるまい。フルカ、ヌーフェネン、ステルビオなどの名峠をはじめ、この種のホットモデルが合法的にその性能を発揮できるルートが山のようにある欧州のマーケットで現状の足のものを発売しようものなら、それこそフォルクスワーゲンフリークのカスタマーから大バッシングを食らうだろう。

VGJは先頃発売されたDセグメントセダン『パサート』でもシャシーセッティングを日本専用のものにした。ポロGTI 6MTについても速度域の低い日本では高度なシャシーセッティングより乗り心地を優先させたほうがいいと考えてこのような仕様を要求したとすれば、それはフォルクスワーゲンの特色を薄めてしまうことにつながりかねない。

もともとポロGTIは、パワーの制約からタイムは大したことはなくとも、ニュルブルクリンク北コースを全開走行できるだけのキャパシティを持っていると評価されているモデルで、欧州ホットハッチに興味を抱く日本のカスタマーは、そういうテイストを求めているはず。変にマジョリティにすり寄らず、フォルクスワーゲン本社の信じるテイストにあわせたほうが良い結果を得られると思うのだが。

パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★
オススメ度:★★

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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