【ホンダ ジェイド 500km試乗】ホンダ反転攻勢への戦力となるか…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ ジェイド
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ホンダが今年2月に発売した低車高ミニバン『ジェイド』で東海~甲州を500kmほどツーリングする機会があったのでリポートする。

ジェイドの成り立ちをおさらいしておこう。ボディサイズは3ナンバーながら全高1530mmと、ミニバンとしては低く抑えられている。シートレイアウトは3列で、2列目が肘かけ付きのキャプテンシート2座、3列目がベンチシート2座の6人乗り。ただし3列目はあくまでエマージェンシーユース程度のスペースで、実質4シーターである。クルマの基本骨格は「ユーロシビック」だが、1.5t超という重量級ボディを俊敏に走らせるべく、リアサスペンションまわりに先代『オデッセイ』のコンポーネンツを使用している。パワートレインはデビュー当初は1.5リットル直噴エンジン+1モーターのハイブリッドのみだったが、5月には1.5リットル直噴ターボ+CVTが加わった。

試乗車は先進安全装備「ホンダセンシング」など充実した装備を持つ最上級グレードの「HYBRID X」。本革シートやカーナビなどのオプション装備を持っているため、車両価格は300万円を軽くオーバー。ちょっとした高級車である。試乗ルートは東京・葛飾を出発し、箱根を越えて静岡の富士市から山中湖へ。帰路は山梨側に下り、そこから国道411号に入って柳沢峠、丹波山、奥多摩を経由し、出発点に戻るというもの。

◆短距離では傑出の走行感、しかし長距離は…

ドライブスタート後、まずは首都高速を走行。首都高速1号羽田線、神奈川1号横羽線は1960年代に開通してからすでに50年以上が経過する老朽線。舗装は補修後、ひび割れだらけなうえにサーフェスもザラザラ。床板の継ぎ目の段差も大きく、乗り心地のチェックにはうってつけのコンディションである。

そのような環境下でのジェイドの走行感は悪くなかった。短距離試乗時に感じたハーシュネス(ザラザラ、ゴツゴツ感)カットの巧みさはなかなかのもので、路面が荒れている路線を走って乗り心地チェックをしようという意図を途中までうっかり忘れてしまうくらい滑らか。Cセグメントのミニバン、ステーションワゴンの中では傑出したレベルにあった。ホイールに新しいサイレンサー技術が使用されている効果か、ロードノイズレベルもかなり低いものだった。

これで大きな段差の乗り越えやアンジュレーション(路面の波長の長いうねり)の吸収性も良ければなかなかの高速型ステーションワゴンになったのであろうが、東名高速、小田原厚木道路を走った印象ではライバルに対する新鋭モデルとしてのアドバンテージはみられなかった。ボディがいったん持ち上がってから落ちるときにふわっと受け止めるのではなく、ドスンと一気に落ちて止まるため、それが揺すられ感の強さにつながってしまっている。

ジェイドのショックアブゾーバーは小さい振幅に対しては柔らかく、大きな揺動に対しては固く反応するタイプのものがおごられているが、その大きな動きに対する縮み側のセッティングが固を固くしすぎたためにそういう動きになるのではないかと推測される。マイナーチェンジ前のクロスオーバーSUV『ヴェゼル』のような度の過ぎた突っ張り感ではなく、あくまで快適性を損なわない範囲での話だが、作り込めばもっと良くすることもできそうなので、今後の改良に期待したい。

箱根越えは高速道路ではなく、箱根新道を含む国道1号線を経由して行った。この区間は100度以上のきつい回りこみが多数存在するワインディングロードだが、そこでのジェイドの身のこなしはあまりいいものに感じられなかった。サスペンションのロール剛性自体は高く、重心も普通のステーションワゴン並みに低いことから、コーナリングのパフォーマンスはそこそこいいのではないかと予想していたのだが、いざ山岳路を走ってみると終始よれたような動きがついてまわり、クルマを走らせることが爽快に感じられるという次元からは程遠かった。

原因はいろいろと考えられるのだが、いちばん影響が大きいと思われたのはシート。ジェイドのシートは2列目のキャプテンシートだけでなく運転席&助手席もデザイン的には豊かなクッション厚を持ち、なかなか良いものに見えるのだが、実際に座ってみると縦横のGによる身体のブレをシート面の摩擦やクッションの変形で抑制する機能がかなり低く、とくに上半身はルーズ。そのためコーナリング時に体の軸が終始揺れることになる。これではクルマの動きを察知しにくいのも道理で、ドライビングプレジャーどころの騒ぎではない。

長時間走行時の披露蓄積も大きめだ。ホンダ車はイメージとは裏腹に、ロングドライブ耐性の高いモデルが少なくない。たとえば軽自動車の『N-ONE』は東京~鹿児島の往復ドライブでも途中で運転が嫌になるようなことは一度もなかったし、先代『フィット』の足もスタビリティ重視のとても良いものだった。最近のモデルでは、やはり東京~鹿児島往復を試した『グレイス』の足が出色の出来だった。が、ジェイドはそんなホンダのモデル群の中で、ロングドライブ耐性は最低レベル。もちろんどんなクルマでも我慢しさえすればいくらでも走れるのだが、乗り味が楽しく快適で、運転に前向きな気持ちが維持される、クオリティオブライフならぬクオリティオブドライブが保たれるのは、小休止を挟みながらのワンドライブでせいぜい半径200kmといったところか。

◆パワートレインのフィーリングに好感

一方、印象が良かったのは1.5リットル直噴4気筒と7速DCT+モーターを組み合わせたパワートレインのフィーリングである。度重なるリコールを経てなお不自然な動きが時折顔を見せはするが、フィット3でデビューした新鋭の1.5リットル直噴の抜群に良いパワーフィールを有段変速機で味わえるのは魅力だ。

ジェイドは車両重量が1.5tを超える重量級。フィットベースでパワートレインはジェイドと同じというヴェゼルのFWDモデルに対して200kg以上重いのだが、国道411号柳沢峠へ向かうルートなど、かなりの急勾配を登ってもアンダーパワーという印象はなく、俊敏なフィーリングだった。高速道路ではスロットルを踏み込んだときにキックダウンのレスポンスが鈍いといった欠点も少なからずあったが、山岳路ではむしろ意思どおりに変速してくれるという印象が強かった。ただ、ヴェゼルやグレイスの上級グレードと異なりパドルシフトが装備されないので、スポーティなSモードはいささか宝の持ち腐れの感ありだった。

燃費は基本的に良好。ドライブを開始してから山中湖を経由し、柳沢峠を越えて青梅に着くまでの300kmあまりの区間では、燃費は基本的に無視、峠では時折パワードライブを楽しむといったパターンで運転した結果、平均燃費計の数値は17.8km/リットルだった。

青梅から東京・葛飾までの約100kmの区間で燃費を意識した運転を試みてみたところ、燃費計表示は19.8km/リットルまで回復した。ちなみにその間、2回ほど区間燃費を計ってみたが、前半は31.3km/リットル、後半は28.8km/リットルだった。夜間とはいえしょっちゅう信号に引っかかる市街地走行オンリーで、かつ車両重量1.5t超と決して軽くないクルマであることを考えると、十分に良好な数値と言える。最終的には503kmを走り、燃費計表示は19.6km/リットル。満タン法による計測とのズレは3%ほどの過大表示だったが、燃費計の信頼度はまあまあだ。

試乗車には「ホンダセンシング」なる、新型の先進安全システムが装着されていた。区間によってその出来を試してみたが、残念ながらこのカテゴリーでのトップランナーである富士重工業の「アイサイト ver3」やボルボの「インテリセーフ10」と比べると、性能差は歴然としていた。

ドライブ開始直後、国道6号線でいきなり50km/h制限の標識を70km/hと誤認識。現時点ではインパネに表示するだけなので実害はないとしても、システムの成熟度がいまだ不足していることが伺えた。路肩の白線と側壁のピッチが狭い首都高速1号線では、車線逸脱の警告を出すタイミングがあまりにギリギリで、実際に危険な状況になったときには対処が間に合わないのではないかと感じられた。仕様自体も全車速ではなく、30km/h付近でシステムがキャンセルされてしまうなど、ライバルに比べて見劣りする。この種の運転支援システムはホンダが世界に先駆けて03年に発売したという歴史を思うと、その後の開発の停滞は社内で何があったのかといぶかられるほどで、全力で技術力ギャップの解消に取り組むべきだろう。

◆最大の問題点は「市場適合性」

が、ジェイドの最大の問題はクルマそのものより、300万円超の大枚をはたいて大衆車クラスのステーションワゴンを求めるカスタマーがそんなにたくさんいるのかという市場適合性にある。

ジェイドの開発関係者は、3列目はほとんど使わないがたまに欲しくなるという顧客がいると主張するが、それはいくら何でも詭弁としか言いようがない。後席に時々人を乗せるというセダンユーザーに、ならば2by2のクーペでいいでしょうと言うようなものだ。もちろん言うのは自由だが、顧客のニーズに合致していなければ無視されるだけである。

ジェイドは発売翌月の2月に辛うじて販売ランキング27位に入っただけで、3月以降は30位からこぼれたまま。カスタマーの答えはすでにこれ以上ないほど無残な形で出ている。5月に1.5リットルダウンサイジングターボモデルが追加されたが、商品コンセプトが変わったわけではないので、劇的に販売が上向くことはないだろう。

ホンダが今なすことは、ジェイドの商品力を何とかすることではなく(出した以上、それもやるべきだが)、中国向けに開発され、日本市場への適合性がきわめて薄いジェイドをなぜ日本で売るという判断をしてしまったのかという経緯をごまかしなく自己批判し、今後の経営判断に生かしていくことだ。

ホンダの峯川尚専務執行役員は、ジェイドを含むホンダの新型車が空振り続きである原因について、品質問題のために出すタイミングを逸したと分析していたが、逸していたのはタイミングではなく、カスタマーのニーズだ。

まもなく社長を退任する伊東孝紳氏が自分の社長業の花道として実現にこだわった世界販売600万台構想を実現させるためには日本市場でも100万台以上を売らねばならず、数合わせのために出した感が強い。が、絵に描いた餅を実現させるために中途半端な戦力を逐次投入して消耗するというのは、日本史を振り返っても絶対に取ってはならない戦略なのだ。八郷隆弘新社長がガタガタになったホンダの経営戦略を立て直せるかどうか。その成否が問われる商品群が出てくるまでには、3~4年を待たねばならない。トップが策を誤ることは、かくも重大な結果を招くのである。

ロングドライブインプレッションの常として各所について厳しく見たが、Cセグメントでもリムジンのような2列目シートが欲しい、エマージェンシーでもいいから3列目シートのある低車高ミニバンが欲しいといったカスタマーにとっては、直接のライバルとなりそうなトヨタ『ウィッシュ』、同『プリウスα』、マツダ『プレマシー』/日産『ラフェスタ ハイウェイスター』などがいずれも旧態化しているぶん、技術的に新しいジェイドを選ぶ意味はあろう。

ほとんど実用にならない3列目シートを使わず、4シーターの中近距離ステーションワゴンとして使う場合も、十分選択肢に入ってくる。が、そこは強敵がひしめく激戦区で、価格およびクラス的にスバル『レヴォーグ』、ルノー『メガーヌエステートGTライン』、フォルクスワーゲン『ゴルフヴァリアント』などが直接競合する。ジェイドは文句なしにゆったりしている2座の2列目、ハイブリッドパワートレインを持つことなどの優位性がある半面、“フィット顔”に代表される安普請なデザインが災いして、それらのモデルより格下に見られかねないというビハインドがある。

ホンダが本格的な反転攻勢に打って出るまでは、このジェイドも重要な戦力だ。難しい商品を悪い意味で諦めの良いホンダが今後どう売っていくのか興味深い。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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