【ホンダ S660 試乗】商品性は スーパー7、ネガ要素も「是」とできる人に…中村孝仁

試乗記 国産車
ホンダ S660 α
  • ホンダ S660 α
  • ホンダ S660 α
  • ホンダ S660 α
  • ホンダ S660 α
  • ホンダ S660 α
  • ホンダ S660 α
  • ホンダ S660 α
  • ホンダ S660 α

今注文すると、年内納車は難しいというほど人気のホンダ『S660』。人気の秘密を探るべく、恐らくは一番人気グレードであろう上級モデル「α」のマニュアルモデルを借り出してみた。

メディアの間でもこのクルマは大人気らしく、だいぶ以前に申し込んだが、ようやく試乗と相成った。しかも僅か1泊2日である。そこで、その人気の秘密を探るべく、とことん乗り倒してみた。と言っても実質1日強だから、乗れる距離など限られていて、走った総距離は250kmほど。それでもありとあらゆる部分を触りながら乗ってみた。少々長文だがお付き合いいただきたい。

◆ハンドリングはシャープかつニュートラル

事前からこのクルマのハンドリングに関しては相当に評判が良い。今回は東北自動車道と第3京浜(関東地区以外の人にはわからないかもしれないが)という2本の高速道路と、一般道で色々と試してみた。まずステアフィール、ハンドリングだが、相当にシャープである。僅かな転舵に対しても敏感に反応する。軽とはいえ一応ミッドシップスポーツなわけで、俊敏な走りは見事に実現されていると思えた。

サーキットではないのでそんな大胆な走りを敢行したわけではないが、試した範囲内では非常にニュートラルなハンドリングであった。ただし、ラテラルシェイク、あるいはスカットルシェイク、つまりオープンカー特有の、剛性不足から来るAピラーならびにステアリングポストの揺れは顕著にある。

東京青山にあるホンダ本社から乗り出してすぐに、ノーズを首都高速から東北自動車道に向ける。因みにパッセンジャーシートも“オキュパイド”。正直大柄な男性が隣に乗っていると、かなりの窮屈感に支配されるし、シフト操作にも支障が出る。

試乗日は天気晴朗なれど、かなりの風。当然ソフトトップを外してオープンで高速に乗り出したのだが、その風の影響だったのか、ものの80km/hも出すと頭の上のばたつき感と音のボリュームは相当なもの。僅かな距離の隣り同士の会話も、かなりの大声を張り上げないとできないほどであった。風はリアのロールバーに当たって室内に巻き込む。何らかの形のウィンドディフレクターがあればいいなと感じた。

◆ベントは開けなきゃダメ

しかし翌日、考えてみれば何のためにリアに小さな開閉式ウィンドーがついているのかと思い、再び高速道路でテスト。まずは80km/hで閉めていたリアウィンドウを開くと、あ~ら不思議、頭の上でばたついていた風とノイズは一気に半減すると感じるほどスムーズなフローに変わる。やはりベントは開けなきゃダメなのだ。ただし、リアベント(ウィンドー)の効果は精々100km/hを少し超えた付近まで。まあ、一応制限速度までは効果があることを確認した。

ベントの効果は他にもあった。一つは一般道を流れに乗って走る時、エンジンサウンドをより明確に聞くことが出来ること(楽しめるかどうかはその人次第)。そして、ワインディングで不必要な加減速をしてアクセルのオンオフをすると、ブローオフバルブのシュパッという音が明快に聞き取れて、ターボカーの一つの愉しみを存分に味わうことが出来る。エンジンサウンド自体は既存のホンダ軽自動車に使われているのと同じ3気筒エンジンだから、サウンドを愉しむというほどのものではない。でも、シフトしながら感じたことは、直近でエンジンサウンドを愉しめるのは如何にもスポーツカー的でこれも醍醐味の一つだということだった。

もう一つはここを開けることによって、エンジンの熱気が室内に逆流してくること。朝、気温20度でスタートした試乗だったが、高速で乱流をまともに首筋にくらっていると、首の回りがどうしても寒くなる。それが、一般道に降りて閉じていたリアベントを開いた瞬間に、ふわ~っと暖気が入り込み、実に心地よかった。夏場だと果たして逆効果になるかもしれないが、一番楽しめるこの時期には有り難い効果をもたらしてくれる。因みに両サイドのウィンドーを開くと、リアベントを開けていればエアブローはスムーズで後ろから巻き込むような流れはないが、それでも頬から耳元へは相当に強くあたる。

6速のシフトフィールは最高である。ショートストロークで意のままにスパっスパッと決まる。それにヒール&トゥーが非常にやりやすいペダルレイアウトで、おかげで無用なシフト操作をついやってしまいたくなるほど。α仕様のシフトグリップは小さめの本革巻きで、レバー自体も非常に短いものだ。クラッチは軽自動車と考えれば比較的踏み応えのあるタイプだと思う。それとアクセルレスポンスがすこぶる良く、靴の重さがかかったぐらいで、回転はすぐさま上がる。1泊二日で十分に慣れなかったせいか、半クラッチを使う時についつい回転を上げ過ぎてしまった。因みに坂道発進はいわゆるヒルスタートアシストがついているから何ら心配は無用だ。

メーターはデジタルのスピードメーターの周囲をタコメーターが走る。その左右にバーグラフのメーターが付くが、左は燃料計。右はモードスイッチによって切り替え可能で、ターボブースト系と燃費計に切り替えることが出来た。ブースト計を表示する時は、スピードメーターの周囲が赤くなる。視認性は悪くない。また、ラジオのコントロールやこのモード切り替えなどはすべてステアリングスイッチで行える。

◆楽しく走るには3000rpm以上が必須

エンジンは既存のホンダ軽自動車同様、直列3気筒ターボの「S07A型」と呼ばれるもの。ただし、ターボは新設計だということで、それがレスポンスの良さにつながっているのだと思う。それに性格もこれまで試したどのホンダ製ターボエンジンとも異なる。端的に言って、というかズバリ言って、トルクバンドは狭い。痛快に走ろうと思ったら3000rpm以上をキープすることは必須だ。

そもそもカタログで、トルクカーブをかつてのビートと比べていることにも問題があると思うが、基本的にはドライブを楽しむ設定で、勿論1500rpm程度でも日常的には十分走れるのだが、そこから加速しようとしてもアクセルを踏んだだけではまずダメで、2速ぐらい落としてやる必要がある。2000rpm以上になるととりあえず加速は始まるが、全然物足りないレベル。このあたりの加速感はむしろ『N-BOXスラッシュ』あたりの方が良いのではないかと感じるほどだ。

ルーフの取り外しは実に簡単で、女性でもそれほど力を必要とせずにできると思う。外したルーフはフロントのしかるべき格納場所に仕舞えるのだが、そこが実はこのクルマに存在する唯一の物入れ。だから荷物があるときは、ルーフをつけて、そこを空にして荷物を入れる。ただし、生ものはダメ。相当に暖かくなってしまうから。

乗降性はズバリよくない。低い、狭いだから致し方ないが、小柄なドライバーがシートを自分のポジションに合わせたまま乗り降りしようとすると、かなり難儀する。それに汚い靴で乗り込もうとすると、どうしてもシートを汚してしまうので、降りる際にシートは一番後ろまでスライドさせておくことを薦める。

オーディオは残念ながら楽しむというレベルのものではない。オープンの場合、停車時に合わせたボリュームで聞けるのは精々50km/hまで。そこから上はほとんど聞き取れない。勿論、クローズにすればこの限りではないだろうが、それでもサウンドはむしろメカニカルサウンドを愉しんでもらった方が良いと思う。

さて、このS660、はっきり言ってその商品性はほとんどケーターハム『スーパー7』と変わりないように思えた。つまり、純粋に走ることを目的としていて、正直機能性は乏しい。ものを入れるスペースの無さがそれを物語っているし、走っていて乗り心地やノイズレベルのことを考えると決して快適とは言い難い。それに、オープンで高速を走るととにかく疲れる。まあ、心地よい疲労感でもあるのだが…。したがってそうしたネガな要素をすべて是とできるユーザーがこのクルマに向いている。

クルマを買う際にキーポイントとなるのは主として3つ。一つは自分の感性に合ったスタイリングを持っているか。二つ目はライフスタイルを鑑みて、そのクルマが機能的かどうか。そして三つ目は、自分のドライビングスキルの中でそのクルマを楽しくドライブできるかどうということではないかと思う。僕にとってスタイルは文句なくかっこよかったし、3番目の楽しくドライブできるか否かという点でも、まさに堪能できた。しかし、僕にとって機能的かと言われると、それは残念ながらNo。果たして皆さんにはどう映るだろうか。

■5つ星評価
パッケージング ★★★
インテリア居住性 ★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集