すでに生産を終了したレクサスのフラッグシップスーパースポーツ『LFA』。カーボンファイバー製のモノコックやF1マシンを思わせる独立スロットルを与えたV10など、こだわりまくりのメカニズム、テクノロジーの塊のようなマシンだが、今回の「人とくるまのテクノロジー展」で、さらに「今だから明かせる話」を聞くことができた。
三五のブースでは大型トラック用の排気ガス後処理浄化システムなどを展示する一方で、LFAのEXマニホールドとリアマフラーを展示し、さらにノートPCを使ってLFA以外にも世界中のスーパースポーツの排気音を聞き比べることができるようにしていた。
この三五こそ、LFAのマフラーを生産しただけでなく、排気音のチューニングも請負った企業だったのだ。筆者は排気音作りはヤマハ発動機が行っていたと思っていたのだが、それは主に室内音のチューニングだったらしい。三五はトヨタグループの車両用の排気系部品やプレス製品などを請負う企業で、これまでもトヨタ車やダイハツ車のマフラーを数多く設計、生産してきた実績がある。
「ただそれまでは、音量を抑えるよう指示があっても、音質に関してはあまり要求されることはありませんでした。このLFAについては音作りから依頼されたので、開発は段違いに大変でした」。と語るのは排気系製品設計部の鳥本氏である。
排気系の開発を任された鳥本氏はまず、当時販売されていたスーパースポーツカーの排気音を集め、それらを分析したそうだ。
「棚橋主査から言われていたのは、当時同じV10を採用していたF1マシンに近いイメージのサウンドでした。しかしF1のエンジンはLFAと比べても、ほぼ倍の回転数で回っていますし、あれほどの高音では長時間のドライビングには不向きです。なので試行錯誤を繰り返して、心地良い高音を響かせる音に仕上げました」。
サウンドを作り込むのはリアサイレンサー内部の構造によってだが、サイレンサーは何とチタン合金、それも一般的な6-4チタンではなく、神戸製鋼による高温時の強度に優れたチタン合金を採用しているそうだ。
「リアサイレンサーの手前に排気ガスの流れをコントロールするバタフライバルブを設けているのですが、ここは二重構造になっていて、バルブを閉じた時には外側のパイプを通るようになっています。これにより左右バンクを独立した構造のまま、バルブによる切り替えを実現しました」。
ステンレス製の等長エグゾーストマニホールドは、良く見ればフランジ部分は板材からの削り出しだ。「軽量化に対する要求もありますし、少量生産なので削り出して製作しました」。
「天使の咆哮」と呼ばれたLFAの排気音は、徹底した数値解析と各排気系部品の形状、構造によって生み出されていた。最終的に音質は棚橋主査の判断で決定したそうだ。V10とはいえ、バンク角72度で等間隔爆発というシリンダーレイアウトは基本的に滑らかな高周波サウンドを響かせるが、世界の名だたるスーパースポーツとマフラー出口のサウンドを聴き比べても、群を抜いて澄んだ高音を奏でることが確認できた。
軽量化と排気効率、そして音作りと、相反する要素をまとめ上げるのは苦労の連続だったに違いない。しかし、それだけに現在は同社の貴重なノウハウとなったそうである。