陸・海・空にパーソナルモビリティーを送る。これが本田宗一郎の夢だったという。そしてすでに陸上と海上ではそれを実現し、今回初めて空に送り出した宗一郎の夢、ホンダジェットが羽田空港に初飛来した。
4月23日、午後2時20分過ぎ、羽田C滑走路に降り立ったホンダジェットは、赤と白に塗り分けられた機体を輝かせながら、第2ターミナル展望台で待っていた我々の前を通り過ぎ、そのまま全日空のハンガーに向かった。
ホンダジェットはそのアイデアの立ち上げから29年の時を経て、ようやく実現した本田宗一郎の夢であった。ユニークな機体はエンジンを主翼の上に搭載する独特な形状を持つ。性能的にもホンダらしくクラス最高水準の巡航速度、燃費、客室荷室の広さを実現しているという。
29年前にホンダジェットのスケッチを描いて、それをここまで育て上げた藤野道格(ふじのみちまさ)氏は、この機体の独創的な形状を生み出し、航空宇宙工学における学門的知見の発展に貢献したとして、米国の学術団体「SAEインターナショナル」が主催する「ケリー・ジョンソン賞」を受賞した。 日本人として初めての快挙である。
さらにICAS(インターナショナル・カウンシル・オブ・ザ・エアロノーティカル・サイエンシス)という 航空科学/工学の発展を促す国際的な団体から、「航空工学革新賞」を受賞するなど、国際的な評価も非常に高い。その藤野道格氏、2006年からホンダエアクラフトカンパニーの取締役社長も務め、今回の羽田での披露イベントでもホンダジェットの解説を苦労話を交えて語ってくれた。
機体は炭素繊維強化プラスチックの複合材で、シームレスで美しい表面を持っている。その先端部分の形状は、何とフェラガモのハイヒールの形状を応用できないかと考えた末のデザインだという。
機体寸法は全長×翼幅×全高が12.99×12.12×4.54mというもので、広い羽田空港の中では極めてコンパクトに感じられた。それでも定員は乗員も含めて最大7名とコンパクトで、通常だと乗員2名、乗客4名を、真対気速度778km/hで2185kmの彼方まで運ぶことが出来る。特に最大巡航高度は1万3106mと高く、これは従来の小型ビジネスジェットでは到達できなかった高度だそうだ。
ホンダらしいのは、エンジンと機体を同時に自社で生産したこと。遥か50年前にF1参入の際も、結果的に車体とエンジンを作り上げて、純日本マシンとして参戦したのとまるで同じだ。しかもユニークで他にはないというアイデア満載のところも同じ。まさにホンダスピリットが息づいている。
既に100機以上の受注を受けているそうで、果たしてこれが大きな数字なのかどうかさっぱりわからないのだが、少なくとも本田宗一郎にとっては夢の膨らむ数字であることは間違いないと思う。