【ホンダ S660 プロトタイプ 試乗】「S」を名乗るにふさわしい走行性能…丸山誠

試乗記 国産車
ホンダ S660 プロトタイプ
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袖ヶ浦フォレスト・レースウェイのピットロードを軽く加速し、1コーナーでステアリングを切ると、『S660』のノーズはスッとインを刺した。

レーシングスピードの領域に達しない速域でもステアリングの確かな手応えと、忠実に反応する動きは、まさにホンダの「S」を名乗るだけのモデルであることがすぐにわかった。

そこから加速するとターボエンジンはレスポンスよく過給して3000rpmからグッとパワーが盛り上がる感じだ。トルクは2000rpm、パワーは5000rpmでほぼ最大値近くになり、レッドゾーンの7700rpmまでスムーズに回ってくれる。じつに元気がよく、気持ちのいいエンジンフィールだ。

コーナーの頂点を過ぎてアクセルを踏み込むとしっかりしたトラクションがリアの駆動輪にかかり、軽自動車とは思えないリアの踏ん張り感を持続しながらスピードを乗せていく。ボディ剛性は相当高いようだ。2コーナーの先にはダブルレーンチェンジを模したパイロンスラロームが設けられていたが、軽いブレーキングだけでスイスイとパイロンをクリアできてしまう。スポーツカーらしいドライバーとクルマとの一体感が味わえる。

ノーズの動きが本当に軽く、ミッドシップらしい切れのある動きを見せる。4コーナーはブレーキングしながら回り込むコーナーだが、S660はブレーキペダルを踏むとボディ全体を路面に押しつけるように安定して減速し、ヨーが残る状態で小径ステアリング(ホンダ最小直径350mm)をスパッと切り込んでも、リアは安定したままノーズがインを向いてくれる。ステアリングを意図的に余計に切り込むと、さらに回り込むような挙動を見せる。これは軽自動車初採用の「アジャイルハンドリングアシスト」の効果だろう。ステアリングを切り増すとコーナーに対して内側のブレーキをちょっとつまんで、積極的に曲がる力を発生させるメカニズムだ。作動感を意識させず、ドライビングのテンポも乱すことがないシステムで上手にアンダーステアを軽減している。

8コーナーは速度が乗ったままコーナーにアプローチするが、ここではさすがのS660でもリアがズリズリと滑りだしてイン側のトラクションが不足気味になる。ただしVSAを切って豪快にアプローチしてもスピン状態におちいることはなく、穏やかな挙動を見せる。低重心でロールが抑え込まれているためじつに扱いやすいスポーツモデルで、エンジンパワーを使いきって走れるライトウェイトならではの爽快感がある。この雰囲気ならもっと小さなサーキットでも十分にスポーツ走行を楽しめるはずだ。ミッドシップらしいノーズの軽い動きを実現しながらリアスタビリティを十分に確保しているため、安心してドライビングを楽しめるわけだ。

気になるのはリアに履く195/45R16サイズのタイヤだ。S660専用サイズで専用にチューニングされた「アドバン ネオバ(ADVAN NEOVA)AD08R」を採用しているのだが、グリップ感が結構高い。安定性という点では申し分ないが、1サイズ細い185あたりでリアをもう少し滑りやすくすると、もっと楽しい動きを表現できるかもしれない。

いずれにしろ専用サイズだから安価にタイヤを入手することはできそうもない。ズリズリと滑らせて走ってしまうとすぐに擦り減ってしまうため、それなりの出費が必要になるはずだ。サーキットでのハンドリングのセットアップは十分にスポーティだが、市販モデルでストリート走行やワインディングロードを実際に走ってからタイヤサイズは再確認したいポイントだ。

ヒール&トゥがやりやすく、6速MTのシフト操作が素早くできるのがS660いいところでもあり、スポーツモデルらしい点でもある。シフトは適度に軽く、操作感がいい。CVTのパドルシフトもスポーティな感覚だが、ステアリングと共回しになるため大舵角時にシフトを操作しにくいのが難点。走りを楽しみたいのならやはり6速MTがオススメだ。

オープンのままサーキット走行をしたが、サイドウィンドウを上げておけば風の巻き込みは適度に抑えられている。ミッドシップらしい特徴的なリアウィンドウは、中心部分のガラスだけ昇降できるが、開けると風の流れが変わると同時にエンジン音がはっきりと耳に届いていい感じだ。アクセルを戻すとターボのブローオフバルブが作動する「プシュ」という音の演出もおもしろい。周りにはブローオフバルブの作動音は響かず、乗員だけに聞かせる、という開発者の配慮もいい。

小型高効率ターボによってパワーを絞り出しているが、パワーユニット系のエンジニアによるとターボの冷却には苦労したという。ロールバーの右(運転席側)サイドには大きなエアインテークが設けられていて、そこからパイプで走行風を導いてターボを積極的に冷却しているが、サーキット走行など高負荷時が連続するときにはそれでも冷却が追いつかないらしい。そのためフロアトンネル後方にエアスクープを追加して床下からエンジンルームに冷却風を入れているようにしている。エンジンフードのスリットは伊達ではなく、フロア下から入れた風でエンジンルームを冷やし、その熱気を抜くために必要不可欠だという。スリットから見えるエンジンカバーの「HONDA」のロゴも計算されたものだ。

ちなみにルーフは予想どおり着脱式のキャンバストップタイプ。サーフサイドのバーを中心に両側からスノコのように巻き取り、フロントのボックスに収納する。標準はブラックのキャンバス地だが「モデューロ」ではレッドを選ぶことができるようだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性: ★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度 :★★★★

丸山誠|AJAJ会員
モータージャーナリスト。自動車専門誌編集部に在籍後、モータージャーナリストとして活動。自動車専門誌や一般誌などで試乗インプレッションや新車解説を執筆。燃料電池車など環境関連の取材活動も行っている。また、キャンピングカーやキャンピングトレーラーの試乗、解説も行っている。

《丸山 誠》

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