今どき、アウディ『S1』ほど上質かつ品のいいMT車はないのではないか。アウディの中で最もコンパクトなモデルである『A1』をベースに2リットルターボ(231ps/370Nm)エンジンを搭載し、6MTのみの設定に。またアウディの4WDシステム「クワトロ」を組み合わせ、コンパクトクラスでは最もスポーティかつパフォーマンスに優れるモデルに仕上がっている。2リットルターボエンジンは、アクセルを踏み込んだときのペダルの重さから伝わる、潜在的なトルクの大きさと、決して野蛮でないフィーリングに“余裕”が感じられ、頼もしさや楽しさが想像できることがまた楽しかったりする。MTのギヤ選択も思い通りのトルクや速さを得るのに好都合なのだが、ターボエンジンながら自然な加速感が得られ、扱いやすい。S1の6MTは、街中ではスムースな走りが可能だ。試乗前は、よほどハードなモデルだと何となく想像していたのだが、実際にはカッチリとしているものの乗り心地もいい。上質さに頷ける点は、クラッチペダル、アクセルペダルの重厚感ある踏力(操作感)=ペダルの重さが同じフィーリングで扱えること。クラッチを緩めつつアクセルペダルを踏み込んでいくときの統一感がもたらす、扱いやすさと気持ちよさに思わず「MTサイコー!」と叫びたくなったほどだ。ブレーキペダルも同様の操作感を持っており、さらに言えばシフトレバー、ステアリングの操舵フィール(ドライブセレクトでダイナミックモードにすればなおのこと)、すべての操作系の重さが統一感を持ち、重厚でこれほど造り込みにこだわりを感じられるモデルは他にはちょっと思い出せない。ゆえにこれほど上質な6MTスポーツモデルはないと言える。何だかアウディのクオリティの本質を、S1で再認識させてもらったような気分だ。品のよさは、エアロパーツを纏ってはいるものの、これ見よがしでないデザインに好感を抱けることから。存在感の強弱は好みによってボディカラーのチョイスでつければいいのではないか。街中を流すように走るなら、早めにシフトアップをしていけば穏やかに、速やかに走る。キュンキュンと走らせたいなら、溢れるトルクやパワーを活かし、想像以上の安定感とともにタフなドライビング&コーナリングも楽しめる。クルマがアクセルを踏ませたくなるアグレッシブなモデルなら、まあまあ沢山あるが、S1はドライバーの気分に応えてくれる、自己主張型ではなくコミュニケーション型なのだ。ゆえにこんなMT車は今どきないのではないかと。ネガティブな要素があるとするなら、曖昧に存在するフットレストが人によって気になるかもしれない。個人的にそれ以外はケチのつけようがない。もし運よく近くのディーラーに試乗車があるなら、とりあえず乗っておくだけの価値は十分にあると思う。■5つ星評価パッケージング: ★★★★★インテリア/居住性:★★★パワーソース:★★★★★フットワーク:★★★★★オススメ度:★★★★★飯田裕子|自動車ジャーナリスト協会会員現在の仕事を本格的に始めるきっかけは、OL時代に弟(レーサー:飯田章)と一緒に始めたレース。その後、女性にもわかりやすいCar & Lifeの紹介ができるジャーナリストを目指す。独自の視点は『人とクルマと生活』。ドライビングインストラクターとしての経験も10年以上。現在は雑誌、ラジオ、TV、シンポジウムのパネリストやトークショーなど、活動の場は多岐にわたる。
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