ハッブル宇宙望遠鏡の研究者に男女格差…女性の主任研究員の観測提案採択率に影響

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ハッブル宇宙望遠鏡
  • ハッブル宇宙望遠鏡
  • 1993年、ハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッションで作業中のNASA キャサリン・ソーントン宇宙飛行士

1990年に打ち上げられた『ハッブル宇宙望遠鏡(HST)』を運用する米宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)の調査によれば、HSTで観測を行う研究提案の採択には、主任研究員の性別による格差が存在するという。

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)は、1990年にNASA、ESA 欧州宇宙機関が共同して打ち上げ、24年にわたり高度559kmの地球低軌道で宇宙の観測を続けてきた。宇宙の膨張を実証したアメリカの天文学者エドウィン・ハッブルにちなんで名づけられ、ダークマターやブラックホールといった存在に裏付けを与える観測を行った。また、太陽系以外の恒星にも惑星(系外惑星)が存在することを明らかにするなど大きな成果を上げている。スペースシャトル搭乗の宇宙飛行士による数度の修理を経て、現在も活動しており、後継機としてジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2018年に打ち上げられる予定だ。

HSTの観測による研究では、「サイクル」と呼ばれるおよそ1年の観測期間を分割して利用する。観測時間は、世界の科学者から公募で集められた研究提案を宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)の観測割り当て委員会(TAC)が審議して決定する。倍率は非常に高く、1サイクルあたりの提案の4分の3以上がふるい落とされるという。日本からの提案では、2013年にイプシロンロケット初号機で打ち上げられた惑星分光望遠鏡「ひさき」とHSTによる協調観測が2014年初頭に実現している。

科学者がHSTの観測時間割り当てを得るには、提案を行った研究チームの主任研究員(Principal Investigator:PI)の名を代表者として記した提案書をTACに提出する。これまで第1ページに大きく記されてきたPIの名前だが、その性別が提案の採択率に影響していおり、小さいながらも男女格差が存在するという。STScI自らの調査によるもので、調査結果は「Gender-based Systematics in HST Proposal Selection」のタイトルでPublications of the Astronomical Society of the Pacific誌の最新号に発表された。コーネル大学のライブラリーサイト、arXiv.orgでも閲覧することができる。

調査は、HSTの観測サイクル11から21までの期間に応募された提案全件を精査し、PIの性別による差を検証したもの。サイクル12から18まで、わずかな差ではあるものの男性PIによる提案の方が採択率が高いという差が連続して続いているという。その差は、提案数から予測される採択数に対して女性PIの場合は4~5件程度少ないというもので、1サイクルだけを取り出せば偶然の範囲内だが、毎年の傾向として存在するという。研究チームのメンバーは男女混成となるのが通常で、PIの性別によってチーム編成が変わるわけではない。最近のサイクル19から21ではこの男女格差は縮まっており、特に2000年以降に学位を取得した若手研究者がPIを務める場合は、差が小さくなるとしている。提案した研究チームの所属する研究機関などの地域(北米、欧州、その他地域に分類)によって差が生じるのかについても調べているが、特に差はなかったという。

HSTの提案書には、研究者の自主的な分類によって観測分野別のトピックが記されている。このトピックによって、男女格差が増減するかどうかについても検証された。「系外惑星(EXO)」「熱い星(HS)」「星の形成(SF)」など一部のトピックでは、PIの性別によって大きな差が生じ、男性PIの提案採択率が高くなっていることもわかった。

こうした男女格差について、現在募集中のサイクル22ではすでに是正措置が始まっている。調査の責任者でTACのニール・レイド博士によれば、研究提案を検討する委員会のメンバーは、ジェンダーによるバイアス(偏向)の存在を認識し、提案の内容よりも研究チームの研究者を評価する傾向がある場合は、科学的な内容にフォーカスするよう指導しているという。また、これまで提案書の第1ページに大きく書かれていたPIの名前は第2ページに他の研究者と併記し、ファーストネームはイニシャルで表記するよう文書のフォーマットもあらためられた。研究者個人に関する情報を載せずに提案そのものの中身だけ審議できるようにすれば理想的だが、観測から最大限の成果を得るためには、研究者の業績などの情報を排除することは難しい。調査結果について議論しながら、提案のあり方をより良くする努力を続けるとしている。

《秋山 文野》

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