『トゥオーノ V4R APRC』は、スーパーバイクマシンである『RSV4』直系のネイキッドモデルである。RSV4とエンジンや車体の基本を共用するだけでなく、燃料タンクやサイドパネル、前後フェンダー、ナンバープレートステー、シートカウルの基本フォルムも共通で、アップハンドル仕様のスーパースポーツといった様相を見せる。
ただ、ネイキッドスポーツとして最適化を図るために、フレームはヘッドパイプを10.5mm前方に移動。さらに車輌姿勢を後低とすることで、キャスター角を0.5度寝た25.0度に、ホイールベースを25mm長い1445mmとし、前後輪分布荷重は52/48%から50/50%としている。エンジン搭載位置とピボット位置もRSV4よりも5mm低くするなど、単なるカウルレスではない。
またエンジンも、クランク軸、ピストン、動弁系も含め65度V4の基本は同じでも、フライホイールマスの10%増量、バランサー軸のウェイト増量、カム軸を同じに吸気タイミングを10度遅角、エアファンネル長20mm延長、デュアルインジェクターをシングル化、1~3速のレシオをワイド化するなど最適化される。
そんなトゥオーノV4Rは、やはり走りもスーパースポーツ直系である。レーシングマシンとしてのコーナリング性能の高さを生かし、サーキットを攻めることができる。意思通りにマシンは反応し、正確にフィードバックが返ってきて、接地感も豊かだ。しかもマシンが根を上げることなく、ポテンシャルが高いことが分かり、無心の走りを許してくれる。
それでいて、シャープさは抑えられ、寛容でワイドレンジですらある。ストリートバイクとしてもナチュラルで、スーパースポーツにありがちなフロントの重さもない。
エンジンがスムーズで扱いやすいのはRSV4譲りだが、さらに柔軟で、6速2000rpmで走れて、コーナーで2速3000rpmに落ちても使えるトルクがある。この国内仕様は、10000rpmが近付くと頭打ちを感じさせるが、5000rpm以上でスポーツでき、7000rpm過ぎにかけては結構エキサイティングに楽しめる。
APRCのトラクションコントロールも秀逸で、要らぬスリリングさを回避してくれ、このハイパーネイキッドを心底楽しむことができるのだ。
残念なのは、足着き性があまり良くないことと、ハンドル切れ角がRSV4並みで小回りしにくいこと。でも、スーパーバイクマシンの素性を楽しめて、悪い意味でのスパルタンさもないという素晴らしい魅力を持っているのだ。
ちなみに、ピアッジオグループジャパンは、前後オーリンズ製サスペンションなどを装備したモデルを、20台限定発売する。これにも試乗したところ、突っ込みから初期旋回での姿勢変化制御は、まさしくレーシングマシンを思わせたことを付け加えておきたい。トゥオーノV4Rの素性がさらに昇華されていたのである。
和歌山利宏|二輪ジャーナリスト
1954年生まれ、1975年にヤマハ発動機に入社し、様々なロードスポーツバイクの開発に携わり、テストライダーも務める。また、自らレース活動も行ない、鈴鹿8耐第5回大会では4位入賞の成績を持つ。現在は二輪ジャーナリストとして執筆活動、ライディングインストラクターなど多方面で活躍中。