アプリリアは2009年にV型4気筒エンジンを搭載した『RSV4』をリリースし、以来世界スーパーバイク選手権に参戦。2年目の10年にはマックス・ビアッジがチャンピンの座を獲得。そして2014年の今年も、ラグナセカでのアメリカ大会でワンツーフィニッシュを飾るなど、活躍を見せている。
そのRSV4の最高峰モデルである『RSV4 ファクトリー APRC』は、上級版ファクトリーに最先端の電子制御技術をふんだんに織り込んだモデルである。「APRC」とは、アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロールの略で、ワークスマシンに準じた制御技術が投入されているのだ。
しかし電子制御技術はともかく、RSV4は素性として、MotoGPマシンに最も近いスーパースポーツかもしれない。エンジンをコンパクト化し、車体全体としてマスを集中させるため、狭角V4を採用。燃料タンクの一部をシート下に設置するなど、マスの集中化も徹底されており、多くの直4マシンよりも運動性の高さで優位にあると言っていい。
ハンドリングは軽快なだけでなく、リーン時の特性の変化もリニアで自然。深いバンク角でもニュートラル性を保ち、リラックスできる。しっとり感があって、スパルタンさもない。
エンジンはスムーズさの中に、トラクション感覚を得やすい鼓動感がある。スロットルのオンオフに対しても、ライダーの意に沿った反応を見せ、走行ラインをコントロールしやすい。
トルクは10000rpmのピークに向かってリニアに上昇。そして、12000rpm過ぎに、パワーの高まりがある。V4らしくピーキーさはなく、出力カーブが自然でパワーを取り出しやすい。
APRCにはトラクション、ウィリー、ローンチの3つのコントロールに加え、クイックシフターを装備。
トラクションコントロールは、前後輪の回転数差だけでなく、車体のヨーイングやローリングを感知し、リヤが流れる動きに対処し、深いバンク角では作動が強められる。まるでトルク特性が路面状況に合わせて調整されたような自然さである。
ウィリーコントロールは、望まないウィリーに気を使うことがなく、走りに集中させてくれるし、ローンチコントロールのおかげで、スタート時は、スロットル全開のまま、クラッチ操作だけに集中すればいい。まさに“レーシングマシンレプリカ”なのである。
そして、2011年にビアッジが乗ったワークスマシンについてお伝えすると、やはりマスが集中したスリムでコンパクト感のあるフィーリングは、もはや市販車ベースではなく、純粋なレーシングマシンを思わせるものがある。
V4らしく扱いやすいエンジンは、ヘアピンを2速で回ってもメリハリよく走れ、1速でも過敏さがなく扱いやすい。ギヤ選択にシビアでなく、大変に柔軟だ。ピーキーさがないばかりか、ボワーッとしていて太いトルク感もなく、到達スピードも決して速いとは感じさせない。その意味でも乗りやすいのである。
和歌山利宏|二輪ジャーナリスト
1954年生まれ、1975年にヤマハ発動機に入社し、様々なロードスポーツバイクの開発に携わり、テストライダーも務める。また、自らレース活動も行ない、鈴鹿8耐第5回大会では4位入賞の成績を持つ。現在は二輪ジャーナリストとして執筆活動、ライディングインストラクターなど多方面で活躍中。