スバル『WRX』といえば従来は『インプレッサ』の最強モデルとして位置づけられたクルマ。それが今回からは独立したグレードに昇格した。その新しい WRX に新たに設定された新星が「S4」というわけである。
WRXシリーズ は他に先代モデルから継承される最強の「STI」が存在するが、この2車、骨格は一緒でも、そのドライブトレーンはまるで異なる。
STI の方は先代同様レースで鍛え上げられたEJ20のコードネームを持つ2リットルターボユニットを搭載する。しかし、このエンジン極限まで鍛え上げられていて、さすがに燃費や環境への対応が難しい。そこで、時代や環境変化に対応した新エンジンとして開発されたFA20と呼ばれる同じ2リットルターボユニットが、この S4 には搭載されているのである。
燃費だけ見ると STI の9.4km/リットルに対し、S4 は13.2km/リットルと燃費基準は平成27年度達成レベルをクリア、排ガス基準は平成17年度排ガスレベル75%低減という認定レベルをクリアしたものとなっている。もちろんエコカー減税対象車だ。
そして、そのレベルを達成したうえで最高出力出力300ps/5600rpm、最大トルク400Nm/2000~4800rpmという STI に迫るハイパフォーマンスを達成しているのだから、まさにスバルのいう新世代のスポーツセダンと呼ぶにふさわしい成り立ちを持つ。
進化は性能面だけではない。この S4 にはWRXシリーズとしては初となる最新鋭アイサイトを標準搭載。また、VDC(ヴィークル・ダイナミック・コントロール)はマルチモードに進化。これはエンジントルク制御のみをキャンセルするもので、ブレーキ制御を残して安全性を確保ながら、最大のエンジンパワーを使えるようにした機能。さらにトルクベクタリング機能も採用している。
では実際に乗ってみるとどうか。300psに400Nmという巨大パワー&トルク。ちょっと前なら完全にスーパースポーツの領域の性能だが、このパフォーマンスを見事に使い分けることが出来る。
アクセル開度を絞った状態で走れば、スムーズで快適、少し足が引き締まったセダンとして使える。一方でアクセルをドーンと開けると、巨大パフォーマンスが目を覚まし、STI 顔負けの走りを楽しむことが出来る。
ただし、その両方がリニアでスムーズに移行するかといえば、残念ながらそうではなく、さすがにドッカンターボ的な性癖は少なからず残っている。だから、静止からフルスロットにした場合、多少なりとももどかしい時間帯が加速中に存在するということである。
トランスミッションはリニアトロニック。即ちCVTである。マニュアルモードでは8速のクロスレシオをパドルで使うこともできる。まあ、このトランスミッションが燃費向上に一役買っていることを考えれば、反論もないのだが、ここまで性能が上がってくると、より素早いシフトが可能なDCTというチョイスがあっても良かった気がする。
ハンドリングは非常に優秀だ。敢えてそれを試すためにパイロンスラロームコースを用意してくれたが、見事なほどスムーズにそれをこなし、ステアリングを切って実際にタイヤが曲がりだすまでのタイムラグを極力小さくしたという、このクルマのプロダクトゼネラルマネージャーの高津益夫氏の言葉が理解できる。
このクルマが目指したのは強大なパワーとそれを受け止めるシャシー側のバランスの良さで、これは STI にも共通することだが、いたずらにパフォーマンスだけをあげるのではなく、それをシャシー側でしっかりと受け止める体制を整え最大限の力を路面に伝え、コントロールできるように仕上げているという印象は強く伝わってきた。だから速く、そして乗りやすい。さらにそれが4ドアセダンであるというところがまたいい。
近年はミニバンやSUVに押されて、セダンやクーペの存在感が日本市場においては希薄だが、敢えてセダンをスマートに着こなすクルマとしては数少ない硬派なモデルで好感が持てた。因みにグレードが2種あり、スタンダードな「2.0GT」とパーツをグレードアップした「2.0GT-S」。前者はカヤバ製ダンパー装着車。後者はビルシュタインダンパー装着車となる。
どうも個体によるバラツキがあるのか、試乗したクルマによって異なる感想が返ってきていたが、僕の試乗したモデルでは断然ビルシュタインの方が、ハンドリング乗り心地共に優っていた。
では価格差22.68万円(S4GT-SとSTI)の2車を比べてどちらを取るかという話になる。マニュアルが欲しいのであれば STI。それなりに安全性や燃費にも気を使い、その上で性能ということなら S4 である。
5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)│AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来36年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。