去る8月21日、静岡文化芸術大学(浜松市)で、ユニバーサルデザインの視点からパーソナルモビリティを考えるシンポジウム『UD+ in はままつ』が開催された。主催はUD+ in はままつ実行委員会、静岡県、浜松市、静岡文化芸術大学。
シンポジウムのテーマは「誰もが快適に移動できる、パーソナルモビリティの未来」。電動車椅子やシニアカーといった免許を必要としない、基本的に歩行者と同列に扱われる「乗り物」を題材にした講演や議論が行われた。
ユニバーサルデザインを示す「UD」の後に「プラス」と付け加えて UD+としているのは、ユニバーサルデザインの「誰にでも優しく、扱いやすい」という基本的な機能や役割に加えて「楽しい、魅力的」という付加価値をもたらしたい、という思いが込められているため。
冒頭は「パーソナルモビリティ活用の課題と可能性」というテーマで株式会社グラディエの磯村歩・代表取締役社長が講演。世界各国の既存商品の魅力や個性を紹介するとともに、地域にパーソナルモビリティを浸透させるための取り組みもアピール。
また「個人移動手段だけでなく、公共交通機関など複数のモビリティを組み合わせて活用できる環境が重要」と、使用環境のデザインの必要性を訴えた。
続いてヤマハ発動機の米光正典・IM事業部JWビジネス部長(兼)JW技術グループリーダー、スズキの林邦弘・次世代車両開発部第二課長、そして協働組合ハミングの橋本秀比呂・理事長が、車椅子やシニアカーなどの製品のリサーチや開発のときに発見した問題点や解決方法などを紹介。
最後に静岡文化芸術大学デザイン学部の谷川憲司・教授をコーシネータートしたパネルディスカッションが行われたが、ここではパーソナルモビリティが一般的には福祉機器として見られてしまっていることのネガティブ面や、イギリスのショッピングセンターで、店内の回遊用に電動ビークルの貸し出しを始めたところ、売り上げが急増した事例などが紹介された。
「年配者でも、道具に頼るより自分の足で歩いたほうが健康にいいのは当然です。でも行動範囲が拡大でき、生活の質が向上してワクワクできるなら、パーソナルモビリティを使う意義は大きいのではないでしょうか」と藤村氏。
また街づくりのために、パーソナルモビリティをどう活用すればいいのかを考えることの必要性が訴えられた。こうした乗り物の利用者を受け入れる地域の努力や、健常者でもこうした乗り物に触れる機会を設けることが必要、というのが登壇者に共通した結論。
会場の外では電動車椅子やシニアカーの試乗会も開催され、盛況を見せていた。クルマに限らない個人移動手段としての「乗り物」が活用できる地域環境のデザイン、それに人々の意識改革の必要性を実感させるシンポジウムだった。