未来的なデザインは、モーターショーのコンセプトカーのようだ。インテリアのデザインもメーターパネルの表示も、いかにも新ジャンルを意識したもの。
これで公道を走っていいのかと一瞬、躊躇するけれど、実際に乗り込んでわかるのは完成度の高さだ。BMWブランドである以上、質感はお墨付き。たとえコンパクトな未来志向のクルマであっても、そこは譲れないのである。
運転席は右側。さらに充電方式も、全高も(日本専用アンテナ部分と、サスペンションのストロークで調整)日本スペシャル。販売台数がさほど多くない日本市場に合わせての開発は、それだけ日本ユーザーが電気自動車に慣れ親しみ、さらなる改善に向けての厳しい意見を得られるという期待の高さからだ。日本市場はBMWに注目されているのである。
ハンドルを握ると、ホイールベースの短さからくるクイックさが際立つ。都市型をいうだけあってUターンもお手の物だが、これだけ小さくとも観音開きでアクセスしやすいリアシートは、身長175cmクラスでも余裕のある天井の高さである。特筆すべきは、回生ブレーキの強さだろう。モーターで加速する滑らかさで速度をのせ、そのままアクセルペダルから足を離すと、まるでフットブレーキを踏んだかのようながくっとする急減速ぶり。
時速50kmで走行中に前方赤信号を発見しアクセルオフにすると、目標位置よりもずいぶん手前で停止してしまうほどで、最後少し、アクセルを踏み足さなければならなくなるほどだ。一度停止した車両は、ヒルスタートアシストのような機能があり一瞬停止を続けるほか、それ以上停止する場合、モーターが介入して停止を続けてくれる。もっとも、モーターが介入すると電気を食うし安全を考えればブレーキペダルをしっかり踏むのが基本なのではあるけれど。
このオンオフで見事に加減速ができるアクセルワーク、渋滞ではブレーキペダルに踏みかえず、アクセルペダルだけで速度調整ができる。このワンペダル・ドライブは、オフ時の回生ブレーキ、つまり、エネルギー回収だけが目的かと思ったら、これまで『MINI』の電気自動車などを走らせて集めたユーザーが、モーターならではのワンペダル・ドライブの楽しさを知ってしまい、そのリクエストに応えたものなのだそうな。
これまでEVは、ガソリン車の乗り心地に近づけるよう開発されてきたけれど、EVにはEVならではの走り方がそろそろ提唱されてくるのかもしれない。『i3』の出現は、これまでのEVとはちょっと違う気がしてきた。最後に、レンジエクステンダーゆえ、発電用に643ccのエンジンを積んでいるけれど、走行中は風切り音とロードノイズの方が圧倒的に大きいし、速度ゼロで停止すればエンジンも停止するので、エンジン音=エンジンの存在はほとんど感じない。レンジエクステンダー、かなりいいかも。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/エッセイスト
女性誌や一般誌を中心に活動。イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に精力的に取材中するほか、最近はノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。JAF理事。チャイルドシート指導員。