今から50年前の1964年4月17日。1台のクルマが誕生した。フォード・マスタングだ。
発表の会場となったのはニューヨーク・ワールドフェア。そして考えうる効果的なディスプレイとしてフォードが選んだのは、何とエンパイアステートビルの86階展望デッキだったのである。彼らは果たしてどのようにしてそこまで車を運んだのか。50年たった今、その種明かしが行われた。そして、50周年を祝うイベントに先立ち、当時と同じく最新のマスタングを、再びエンパイアステートビルの86階に運び上げたのだ。やり方は当時も今も同じ。クルマをいくつかのパートに分解し、それをエレベーターで86階まで運び、再び組み上げたのである。その模様は58階に設えられたフォード特設会場に写真として展示されていた。
明けて本来の誕生日である4月17日、全米3か所で50周年の記念イベントが行われた。展望デッキに最新鋭モデルが展示されたニューヨークでは、50年前に発表会が行われ、今は公園になっているかつてのワールドフェアの跡地で。そして、西海岸はラスベガス・スピードウェイ。東海岸はシャーロットスピードウェイに、全米各地からマスタング・ファンとオーナーが集まった。主催するのはMCA(マスタング・クラブ・オブ・アメリカ)だ。このうち最大規模を誇ったシャーロットのイベントを取材した。MCA(マスタング・クラブ・オブ・アメリカ)のプレシデント、スティーブ・プリヴィット氏によると、シャーロットに集まるマスタングは、登録されているものだけで3800台。これに一般で個別に集まるものを加えると、1日あたり最大5000台ものクルマが集結し、およそ2万~2万5000人がこのイベントに集うという。
そのシャーロットスピードウェイは、全米で最も人気を誇る自動車レース、ナスカーの聖地でもあり、近隣には多くのナスカーチームの拠点が点在するところ。巨大なオーバルコースのインフィールドは、この週末に限ってマスタングで埋め尽くされた。勿論フォードの重役たちもここにきて挨拶をしたが、あくまでもクラブ主体のイベントであり、マスタングを囲んでそのオーナーたちが楽しい週末を過ごすピクニック気分に溢れていた。そして会場内には多くのショップも店を構え、同時にマスタングのパーツを扱う蚤の市も出店されていて、オーナーにとっては見つからないパーツを探す絶好の機会。驚いたことに、さすがに人気車種だけあって、新品のボディやシャシーが今では作られていて、その気になれば最新鋭のエンジンを積んだ1965年製のマスタングを作ることもできるのだ。
珍しいモデルの展示としてはシリアルナンバー1のマスタングや、1964年のインディ500のペースカーを務めたモデル(このクルマにはフォードGT40のエンジンが搭載されていた)、他に僅か50台しか作られなかったマスタングベースのピックアップ、ランチェロなどが姿を見せていた。