【セレナ ハイウェイスター 1300km 試乗】「クルマは楽しい」と思わせるファミリーミニバンづくりに期待…井元康一郎

試乗記 国産車

セレナ・ハイウェイスターSハイブリッド
  • セレナ・ハイウェイスターSハイブリッド
  • ウインドウグラフィックはよくデザインされている
  • 威圧感と抑制感のバランスは程よい
日本の普通車市場でも最激戦区のひとつとなっている排気量2リットルクラスのミニバン。1月にフルモデルチェンジされたトヨタの『ノア』『ヴォクシー』が発売後1ヵ月で合計6万台以上の受注を獲得するなど勢力を拡大。これまで2リットル級ミニバンのカテゴリーでトップを死守してきた日産『セレナ』を脅かしている。第三極のホンダ『ステップワゴン』は今年後半とみられる全面改良でダウンサイジングターボモデルに生まれ変わるという噂。それまでは“じっと我慢の子”…というのが現在の概況だ。

乱戦模様の2リットル級ミニバン市場において2月、辛くも王者防衛を果たした日産『セレナ』を合計1200kmあまりドライブする機会を得たのでリポートする。


◆視界の良さがリラックスした運転をサポート

グレードは「ハイウェイスター S-HYBRID」のFWD(前輪駆動)。パワートレインは2リットル直噴エンジン+CVT(無段変速機)。試乗車はオプションの16インチタイタを履いており、JC08モード燃費は15.2km/リットル。S-ハイブリッドは欧州で増えつつあるマイクロハイブリッドの部類に属するシステムで、モーターは出力1.8kWと走行アシストにはほとんど貢献しないが、エンジンの空転を助けて燃料カットの領域を広げたり、ブレーキ時に通常のアイドリングストップ車に比べて多く発電できるなどの特徴がある。

試乗コースは東京・葛飾と和歌山・高野山の往復で総走行距離は1249.6km。うち高速・有料道路は164kmだが、名阪国道、京奈和自動車道など無料の高規格幹線道路、バイパスを主体に走り、その区間を含めると行程の4分の3ほどが自動車道あるいはそれに準ずる道路であった。

セレナをドライブしはじめてまず印象的だったのは、視界の良さ。前方のAピラーの三角窓が広いのに加え、ダッシュボードがその三角窓の下限いっぱいまで見渡せるように深く彫り込まれるような形状で、斜め方向も見やすい。前方、前側方だけでなく、全周にわたって死角はこの種のクルマとしては少ないほうで、リラックスした運転が可能だった。


◆静粛性と乗り心地に優れるがハーシュネスの処理は少々苦手

静粛性も悪くない。エンジン、CVTのノイズはとても良く処理されており、パワートレインからの騒音、振動が不快に感じられるシーンはほとんどなかった。また、帰路は爆弾低気圧による豪雨の中を走ることになったのだが、フロントガラスやルーフに当たる雨音もよくカットされていた。

最近は軽自動車やコンパクトカーでも静粛性の高いモデルが増えてきたが、荒天になると遮音材の使用料や遮音ガラスの装備といった違いから、快適性に大きな差が出る。先般、ダイハツのスーパーハイトワゴンのベストセラーモデル『タント』でロングドライブをしたときも豪雨の中を走ったのだが、好天時の車内の静かさがウソのように騒々しくなる。このあたりは、オプション込み300万円台という2倍の価格差がモロに表れるところだ。

乗り心地やハンドリングなどのシャーシチューニングは、極度にフラット感に振られたもので、同乗者の快適性の高さを主眼としていることがうかがえた。圧倒的な得意分野は高速道路、高規格幹線道路でのハイスピードクルーズ。路面の荒れが少ないところでは滑らかそのもの。建設年次が古い道路でも路面のうねりをサスペンションがよく吸収し、上下方向の揺すられ感の少なさはシャーシ設計がそこそこ良いセダンモデルと同等という感じであった。

が、いいことばかりではない。ゆったりとしたクルーズ感という点は優れているのだが、ハーシュネス(荒れた路面や段差などでの突き上げ感)については、悪いというほどではないが凡庸だ。サスペンションのアッパーマウントの防振ゴムはかなり柔らかく作られているようで、振動の幅が小さい時にはハーシュネスは遮断されているが、道が荒れ気味のところでは変形幅を早めに使い切って、振動が急に増えるというイメージだ。

この乗り味は、内圧の高いブリヂストンの省燃費タイヤ「ECOPIA」を履いていることによる部分も少なからずあると思われた。今回は1名乗車であったため確認するすべはなかったが、この手のピークの強い振動はステアリングを握っているドライバーにより強く伝わりやすい傾向があるため、同乗者はドライバーほど不快な思いをしないですむのかもしれない。


◆ハンドリングは平均レベル

アッパーマウントやサスペンション連結部のゴム部品が柔らかく作られていることのマイナス点はハンドリングにも若干表れていた。高野山へのアプローチルートは急勾配のワインディングロードだが、S字コーナーでロールが反転するときなど、よれるような動きが顕著であった。もっともシャーシの能力に問題があるわけではないため、コーナリング性能自体は1.6トン台と重く、重心も高いミニバンボディとしては悪いというわけではなかった。

シートについては運転席しか検証できなかったが、片道600km以上を走るのに必要最小限の性能は持ち合わせている。座面のウレタンは若干柔らかすぎるきらいがあり、長時間連続で運転するときは時折腰を浮かしたりヒップポイントをずらしたりしてシートと接触している部位の血流を回復させたくなったが、途中で座るのが嫌になるというほどではない。


◆完走時の平均燃費は15.35km/リットル、ダブルバッテリーは市街地に効く

次にパワートレインのフィールと燃費。2リットル直噴4気筒+CVTというパワーパッケージだが、前述したようにノイズレベルは非常に低く、高速巡航、市街地走行、ワインディングロードなど、シーンを問わず高いスムーズネスが維持された。セレナのインパネ内のタコメーターは250回転刻みというおおまかな表示で実数値は不明だが、スロットル操作を繊細に行えば、平地での100km/h巡航を1750回転目のゲージを点灯させることなくこなすことができた。

セレナの技術的な特色であるSハイブリッドは、ハイブリッドカーだと思って購入するユーザーにとっては期待外れに感じられる可能性が大きい。冒頭で述べたように、モーター兼発電機の定格出力は1.8kWしかなく、エンジンをアシストする能力はほぼゼロだ。1249.6kmを走り終えたときの合計給油量は81.38リットルで、燃費は15.35km/リットル。他の2リットル級ガソリンミニバンをドライブした経験に照らし合わせれば、似たり寄ったりの数値で、郊外ドライブでは大きな効果は体感できなかった。

が、Sハイブリッドをアイドリングストップ装置と見ると話は違ってくる。発電能力が最大1.8kWというのは、普通のクルマをアイドリングストップ化したのに比べて格段に大きい。今日、アイドリングストップ車はかなりの勢いで普及しているが、大きな弱点はコールドスタート時にアイドリングストップ機構が働きはじめるまでに結構な時間を要すること。数日間乗らなかったりした時など、スタートから30分近くアイドリングストップせず、ロクに恩恵を受けられないまま目的地に着いてしまうなどということも珍しくない。とくに気温の低いときは悲惨だ。

セレナはブレーキ時の発電量が大きく、またバッテリーを2個積んでいることから蓄電量にも余裕があることが功を奏してか、スタート後、早ければ1分以内にアイドリングストップ可能のランプがつきはじめる。冷却水の水温が上がりきっていない段階から暖気にこだわらず積極的にアイドリングストップするようプログラミングされていた。また、アイドリングストップしている間はエアコンが外気導入から自動的に内気循環に切り替わるなど、結構芸が細かい。

おかげで、市街地燃費は予想より良好だった。横浜から新宿に寄り道しつつ東京・葛飾まで、夕方のラッシュで大混雑した一般道を走ったときの燃費計の数値は12.4km/リットル。葛飾から横浜まで首都高速道路で移動したさいは、6号線両国ジャンクションの激しい渋滞を通過しつつ、13.9km/リットルと、ゴーストップの多い環境ではライバルに対して結構なアドバンテージが感じられた。長距離走行時に給油したところ、燃費計はほぼ実数を示すようで、満タン法でも同様の燃費が期待できそうだった。


◆観光地化進む高野山

今回ドライブした高野山は、空海を開祖とする真言宗の総本山である金剛峯寺をはじめ、多くの寺院が密集する幻想的な場所で、世界遺産となっている。かつては辿り着くのも一苦労という深山であったが、今は京奈和自動車道が通り、アプローチは容易である。インターチェンジからのワインディングロードには一部、1車線の隘路も含まれるが、広い道路が建設中で、その区間もいずれは通りやすくなることだろう。便利になった半面、秘境らしさが失われることを惜しむ声も僧侶からきかれた。

筆者は実家が寺院で、子供の頃に危うく出家させられそうになったこともあったことから、昔の高野山も見知っているのだが、30年ほど前に比べるとすっかり観光化され、世俗化はもはやとどめようもないという印象だった。が、それでも空海入定の地である奥の院、空海が入定前日に訪れたという言い伝えのある清浄心院など、神秘的な空気感が残されている場所も多く、圧巻であることに変わりはない。なかなかのドライブスポットであった。筆者が訪れた日は桜の季節の直前ということで日本人観光客はまばらで、欧米人観光客の姿が目立っていた。


◆“お客様”の後部座席から隔絶されたドライバーズシート

セレナに話を戻そう。果たして、セレナは家族のためのクルマとしては、十分な完成度を持っていると言える。室内は十分に広いだけでなく採光性も良好で、パノラミックな視界は2列目、3列目のパセンジャーを大いに楽しませることだろう。燃費も飛び抜けて良いという印象はないが、最新のミニバンとして一線級と言えるスコアは出ている。細かいことはさておき、総じて快適性も上々だ。

そんな中で気になった点が数点。まずは1列目シートと2、3列目シートの隔絶感だ。これはセレナだけでなく、5ナンバーのハイトミニバン全般に言えることなのだが、1列目は運転手、2、3列目はお客様の空間という感じなのだ。

親しくしている別メーカーのディーラーの店長から聞いた話では、ハイトミニバンで家族がドライブをする場合、2、3列目を広く使い、狭いラゲッジルームに載らない荷物は助手席に置くといったケースが少なくないそうだ。パパとしては、自己犠牲のもとに家族を楽しませることを自分の楽しみと考えることもできようが、それはみんなでドライブをする楽しみとはちょっと別物だろう。今回の試乗車には装備されていなかったが、昨今流行っている後列シート用の天吊り型モニターなどがあった日には、もはやファミリーカーではなくミニ観光バスである。


◆「クルマは楽しい」と思わせるファミリーミニバンづくりを

もうひとつ気になったのは、これもセレナだけでなくライバルにも共通することなのだが、移動体としての性能はきちんと確保されているが、運転していると明確に飽きてくるのだ。クルマを単なる移動手段と考えるユーザーが多数派で彼らに売れればそれでいいというなら十分なのだろう。が、長い目で見ればそういう焼畑農業的なクルマづくりはクルマ離れを促進する一方だ。

東京モーターショーの裏年にあたる2012年秋、日本自動車工業会はモーターショーがわりのクルマイベント「お台場学園祭」を開催した。そのプログラムのなかに、来場者が自動車メーカーの社長とじかに語り合うというものがあった。若年者主体の100人の聴衆に「クルマが好きだという人」と司会がたずねたところ、YESと答えたのは30人あまりだった。クルマのイベントに集まる層にしてそのザマということに司会者が狼狽し、「では、親はクルマ好きという人」とふたたび質問したところ、YESと答えたのはやはり30人少々だった。

彼らの親の世代の中心は、ちょうどクルマブームと言われたバブル期に免許を取得し、ドライブを楽しんだ層と推測されたが、その世代にしてこのザマなのである。なぜクルマに対して醒めてしまったのか。クルマがステイタスシンボルやナンパの道具として機能しなくなったということももちろんあろうが、それだけでなく、家族のためのクルマ=ミニバンという構図が出来上がった中で、高い保有コストを押してでもクルマの楽しみを味わいたいという動機がどんどん失われてしまっているのも大きいのではないかと想像したものだった。

ファミリーミニバンの存在自体が悪だとは思わない。売れているのはやはり利便性が高いからで、ユーザーの支持はきちんと得ている。が、クルマは楽しいものだとユーザーに思わせるようなファミリーミニバンづくりを今のうちに模索しないと、ユーザーのクルマへの興味を喪失せしめ、市場をいっそう縮小させることにつながりかねない。

そこに差別化のチャンスありとみて、ハンドリング性能の良いミニバンを作ってみたのがホンダ。先代ステップワゴン、また低車高ではあるが『オデッセイ』と、低床・低重心プラットホームを開発し、走りのミニバンとして売ってみたのだ。が、ミニバンの特徴である高いアイポイントが失われることに対してユーザーが拒否反応を示し、あえなく失敗した。クルマとしての楽しさ=ハンドリングの良さといった単純な構図ではないことが、問題を難しいものにしている。


◆マーケットリーダーとしての日産への期待

これまで各社、さまざまなミニバン開発エンジニアと話をしたが、彼らの中に本当にミニバンが好きという人はほとんどいない。開発に従事している間は、自分を抑えて売れるクルマを作るという職務を黙々と遂行する。自我がなく、顧客の声を神の声として、ご希望は何でも聞きますよという姿勢なのだ。これでは、クルマなんて家族のための移動手段でさえあればいいと思っているユーザーに、クルマって本当は楽しいんだなと思わせるようなブレイクスルー的発想を生み出すのはほぼ絶望的だろう。

ファミリーミニバンが大嫌いというエンジニアを集めて、ファミリーに最適というキャラを死守したまま嫌いでないようにするにはどうしたらいいかアイデアを出し合ったらどうかなどという思いが頭をよぎった。

繰り返すが、これはセレナ固有の問題ではなく、2リットル級ミニバン全般に言えることだ。3ナンバーの大柄なモデルであれば、運転は楽しくなくとも威圧感たっぷりのクルマに乗ることで自分を大きく見せたいユーザーにとっては積極的満足を感じられるクルマに仕立てられるであろうし、もっと小さいミニバンであれば、前後席の関係はもっと緊密だ。このクラスはもともと、プレジャーという点では一番難しいのだ。

そのファミリーミニバンのステージでこれまでにない楽しみを創出し、クルマっていいものだなとユーザーに思わせるようなクルマづくりの突破口を、長年マーケットリーダーの座を守ってきた日産に見出してほしいと思う次第であった。日産はかつては、そういうエキセントリックな発想を得意としてきた歴史があるのだから。
《井元康一郎》

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