【東京モーターショー13】こういうのが欲しいんだ…ホンダ グローバルクリエーティブダイレクター 朝日嘉徳×南俊叙×エンリコ・フミア

自動車 ニューモデル モーターショー
左から、ホンダ グローバルクリエーティブダイレクター 朝日嘉徳氏、デザイナー エンリコ・フミア氏、ホンダ グローバルクリエーティブダイレクター 南俊叙氏
  • 左から、ホンダ グローバルクリエーティブダイレクター 朝日嘉徳氏、デザイナー エンリコ・フミア氏、ホンダ グローバルクリエーティブダイレクター 南俊叙氏
  • 左から、ホンダ グローバルクリエーティブダイレクター 朝日嘉徳氏、デザイナー エンリコ・フミア氏、ホンダ グローバルクリエーティブダイレクター 南俊叙氏
  • エンリコ・フミア氏(左)と朝日嘉徳氏(右)
  • 南俊叙氏(左)と朝日嘉徳氏(右)
  • ホンダ グローバルクリエーティブダイレクター 朝日嘉徳氏
  • ホンダ グローバルクリエーティブダイレクター 南俊叙氏
  • ホンダ S660(東京モーターショー13)
  • ホンダ S660(東京モーターショー13)

11月23日から12月1日まで開催された東京モーターショー13のホンダブースには、兼ねてから注目される『NSX コンセプト』とビート後継として話題の次世代軽オープンスポーツモデル『S660 コンセプト』を一目見ようと多くの人集りができた。

ブーステーマは「枠にはまるな」。その言葉には、新しい発想を持って取り組むというポリシーと、人を中心にエキサイティングなクルマづくりをしたいという想いが込められている。

デザイン室グローバルクリエーティブダイレクター・インテリア担当の朝日嘉徳氏とエクステリア担当の南俊叙氏。二人のトップが存在するその体制も特徴的だ。それぞれが考えるホンダデザインの概念と未来について、イタリア人デザイナー エンリコ・フミアが聞いた。

コンセプトはエキサイティング

フミア:まず、お二人はホンダというブランドをどういったものだと認識しているのでしょうか。

南:世間のメインストリームからはちょっと横にずれているのがホンダらしい。「こういうのもありなんじゃないか?」という新しい提案、ユニークなデザインをやるのがホンダなのではと思ってます。

朝日:「何をやらかすかわからない」という企画力がホンダの魅力だと思っています。

フミア:なるほど。モーターショーでの“Live outside the box.”(枠にはまるな。)というキャッチコピーも、そうした意識を表現したものなのですね。

南:はい。形状やマークを決めるブランディングのやりかたもありますが、それだけ留まるべきではないと考えています。まずクルマづくり自体をエキサイティングなもの、ワクワクできるものにしたい。ホンダという会社全体に、クルマを単なる移動の道具にしたくないという思いがあるのです。

フミア:エキサイティングというのが、ホンダデザインの共通テーマなのですか?

南:今年になって「エキサイティングHデザイン!!!」というコンセプトを掲げました。このHはヒューマンセンター、つまり人間中心の精神。ホンダは昔からMM思想、「メカ・ミニマム/マン・マキシマム」というものを持っていて、これが根底にあります。ひとことで「エキサイティング」と言っても、デザイナーによって解釈はさまざま。あまり縛りを設けず、自由に発想するのがいいと思っています。

朝日:近年のホンダは、ミニバンで成功してきました。しかし箱型というのはコンセプチュアルで機能的ではあるものの、エモーショナルではない。造形で美しさやエレガントな雰囲気を表現しづらかった。南は「人を中心に」と言いましたが、私はインテリア担当ディレクターとして「もっとわがままに、美しくかっこいいエクステリアを追及してほしい」と思っています。「すごくかっこいい、でもいったいどうやって人が座るの?」という課題をもらって、それを実現させるのが私の仕事ですから。

ブランドイメージの表現手法

フミア:現在のホンダでは、どのようなファミリー・フィーリングを設定していますか? 発想を縛らないというのは素晴らしい考えですが、全車種に共通した要素がなければ、ブランドイメージが構築できないのではないでしょうか。

南:エクステリアでは「顔つき」を揃えるようにしています。「ソリッドウィング・フェイス」と呼んでいますが、グリルやヘッドランプをひとまとめにして見せる方法です。それから、ホンダはHマークをすごく大事にしていますので、これを中心に据えた顔作りを考えています。

フミア:インテリアはエクステリアにくらべ、造形でブランドを表現するというのは難しい。ですが、ステアリング中央のバッジを見なくても、どこのブランドの車種かわかるというぐらいにできればいいですね。

朝日:いままでのホンダ車は、車種ごとの個性が出すぎていたかもしれません。これからはブランドとしての世界観や機能性の表現を整えながら、そこに車種ごとのキャラクター性を盛り込んでゆくことが必要です。グローバルでしっかり展開しなければならないファミリー・フィーリングの表現と、「ホンダだから実現できた」という新機軸の乗り物の提案を両方やっていかなければと考えています。どこよりも新しい感覚のクルマを真っ先に作るのがホンダですから。

フミア:新しいチャレンジやイノベーションを取り込んで、ファミリー・フィーリングの一部となるようにできればベストですね。

南:今回公開したコンセプトカーは、私たちふたりの掲げた方向性がシンプルにわかりやすく表現されています。量産バージョンでは、さらに研ぎ澄まされたデザインになっているでしょう。

よいデザインは機能に従いつつも美しい

フミア:今回のコンセプトカーはファンタジーではなく、フィージビリティ・スタディ(機能や使い勝手の検証)も進んでいるように感じました。そのまま量産に移行できそうなプロポーションやパッケージレイアウトでしたね。これは評価すべきポイントです。

南:パッケージレイアウトがエクステリアのイメージを左右します。ですから性能だけでなくスタイリングの面からも、パッケージレイアウトのデザインを最初にしっかりやることが重要。昔はどのメーカーでも、エンジニア主導でパッケージレイアウトをデザインすることが多かった。現在ホンダではデザイナー視点からも、この段階でデザインを考えるようにしているんです。

フミア:現在は空力や安全の要件など、昔よりも規制や制約が増えてシンプルに美しさを追求することが難しい。ただ工業デザイナーとしては、さまざまなしがらみの中をいかに綺麗にかいくぐり、スラロームしてゆくか…そこで真価が問われます。

南:若手デザイナーには「昔のクルマをしっかり見てきなさい」といつも言っています。たとえばヘッドランプに丸型の既製品を使っていても、その周囲ではさまざまな工夫をして、表情豊かなフロントエンドを実現しています。そうしたアイデアが湧いてくるようにしたいのです。機能に関係なくただ造形が美しいだけでは、すぐに飽きられてしまうでしょう。

フミア:それはいいトレーニングになることでしょう。現在のデザイナーは全体のフォルムよりも、ディテールやグラフィックに注意を向けてしまいがちです。それは制約が多いからかもしれませんが、もっと基本的な部分からデザインを考えてほしいと思います。

朝日:実は私は、他社の軽自動車に乗ったことがないんですよ。乗って検証すると、自分の中に「軽とはこういうものだ」という枠を作ってしまう。それに同カテゴリーのライバルばかり気にしていたら、ブランドなんて構築できないと思うんです。デザイン案を提出したデザイナーには「あなたはそれが欲しいですか?かっこいいと思いますか?」と必ず訊くようにしています。

最新技術は普遍的価値のために

フミア:素晴らしいですね。共感します。私も自分が欲しくないものをデザインしたいとは思いませんし、自分自身が最初の顧客となるつもりで仕事をしています。枠からはみだしたデザインを実現したいなら、マーケティング側の理屈に振り回されてはいけません。

朝日:そうですね。デザイナーの意思が弱いと最大公約数的なデザインになって、エモーショナルなものにはならない。デザイナーは造形して見せられるのが強みですから、営業や販売の部門に「そうそう、こういうのが欲しいんだ」と言わせるものを提案しなくちゃいけません。

フミア:完全なマーケットイン商品は、栄養はあるけど味がしない料理と同じです。

朝日:市場では「エコだ、燃費だ」とさかんに言われていますが、それだけではサプリメントだけ食べて生きるようなもの。人生には美味しくて健康にいい食事が必要です。ホンダが世界に通用するブランドとなるために、ホンダ自身が美味しいと思う、ホンダにしか作れない料理を作っていきたいですね。

フミア:その料理には、ホンダにしかない材料や調味料が必要ですね。

南:ただ、新しいものを使うから新しい味つけをしよう、というのは違います。生産技術や素材技術は進歩を続けていますが、普遍的な美しさや人間の欲求といったものは、いつの時代もそんなに変わりません。そうした価値へ到達するために新しいテクノロジーが貢献することはありますが、新しさだけを表現してもそれは一過性のものにしかならないでしょう。

朝日:テクノロジーの究極は、"見えなくなること"ではないでしょうか。たとえば人間には「心地よい負荷」というのがあって、それを乗り越えたときに達成感を覚えます。それを得るためにテクノロジーがフォローしてくれる、というような関係が理想ですね。

南:本田宗一郎の言葉に「技術を研究するんじゃない。一番大事なのは人を研究することだ」というのがあります。テクノロジーは手法である、と。デザインでも同じです。造形が目的ではなくて、人のためにどういうデザインをするか、なのです。

朝日嘉徳|本田技術研究所 デザイン室 グローバルクリエーティブダイレクター
1964年生まれ。1986年本田技術研究所に入社後、1998年から2000年にかけてはロサンゼルスにあるHonda R&D Americas Inc.に駐在。2スタジオマネージャー、1ブロックシニアマネージャーを経て、2011年にはクリエーティブダイレクターに就任。『S2000』『アコード』『ステップワゴン』などの車種を手掛けたほか、2009年・2011年の東京モーターショープロジェクトリーダーも担当した。本年からはグローバルクリエーティブダイレクターとして同社のインテリアデザインを統括している。

南俊叙|本田技術研究所 デザイン室 グローバルクリエーティブダイレクター
1967年生まれ。1990年本田技術研究所に入社。2003年に主任研究員となり、翌年クリエティブチーフデザイナーに就任。2005年には海外向け高級車ブランド「アキュラ」のデザインダイレクターに任用された。2013年からはグローバルクリエーティブダイレクターとして同社のエクステリアデザインを統括している。『アコード』『アキュラ TL』『レジェンド』などの市販車のほか、2003年の東京モーターショーでは、コンセプトモデル『H.S.C.』も手掛けた。

エンリコ・フミア|カーデザイナー インダストリアルデザイナー
1948年トリノ生まれ。76年にピニンファリーナに入社し、88年には同社のデザイン開発部長に就任。91 年にフィアットに移籍してランチアのデザインセンター所長に、96 年には同社のアドバンスデザイン部長となる。99年に独立、2002年にはデザイン開発やエンジニアリングのアドバイザリーとして フミア・デザイン・アソチャーティを設立した。手掛けたモデルは、アルファロメオ『164』『スパイダー』、ランチア『イプシロン』、マセラティ『3200GT』など。

《古庄 速人》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集