西3・4ホールはスマートモビリティシティとしてパーソナルモビリティの試乗コーナーやITS関連の展示があるだけでなく、トミカや部品メーカーの展示、学生フォーミュラなどバラエティに富んでいて、なかなか面白い。ややローカル色も感じるが、これも東京モーターショーの楽しみの一つだ。
そんなコーナーの一角に、いささか雰囲気の異なるブースがあった。それはサスペンションや駆動系の競技用パーツメーカー、イケヤフォーミュラ。アフターパーツのメーカーがここにあるのも異色だが、そこに展示されていたアイテムも飛び切りユニークだ。
シームレス・トランスミッション、つまり継ぎ目のない変速を実現するトランスミッションを完成させた、と言うのである。しかも最近主流のDCTではなく、従来のMTと同じシングルクラッチでシームレスな変速を2ペダルでも3ペダルでも可能としたと言う。本当に、そんなことができるのか、不思議に思ってじっくりと話を聞いて見ることにした。
イケヤフォーミュラ自動車開発部の福田氏によれば、シームレス・トランスミッションの仕組みはこうだ。発進時は1速にシフトし、クラッチをつなぐ。そしてシフトアップ時、通常のMTはクラッチを切って1速を抜き、ニュートラルを経由して2速にシフトしてクラッチを再びつなぐ。クラッチを切っている時間は動力が途切れるので、その間のエンジンパワーはロスしているし、変速に時間がかかる。DCTはクラッチを2つ使うことで、クラッチの切り替えで素早いシフトを実現しているが、シームレスは2組のギアを同時に噛み合わせることで継ぎ目のない変速を実現しているのだ。MTのギアを2組噛み合わせると言うことは二重噛み合い、インターロッキングを起こし、良くてエンスト、最悪はミッションブローを起こすハズだが、シームレスはその二重噛み合いを利用して、変速を行うのだ。
秘密はエンジンの駆動力をギアに伝えるシャフトと、ギアの噛み合い方にある。従来のギアとシャフトはスプラインと言う溝を使って噛み合い、ギアはスプライン上を平行に動いているだけだった。ところがシームレスではスプラインを斜めに捩じっているのである。これによって上のギアが噛み合った場合、低いギアはトルクがかからなくなって、自動的に抜けるのだ。
そんなことが実際に可能なのか。理解すればするほど不思議に感じたので、テスト車両に試乗させてもらった。トヨタ・セリカに搭載されたシームレス・トランスミッションはクラッチを自動化したAMTで、インテリアはATのセリカそのもの。ところが走り出す感触はダイレクト感に満ちたMTのシングルクラッチで、加速していくと次々にシフトアップしていく。その間、確かに駆動は途切れないのである。
変速時のショックもほとんどなく、ゴツッとシフトアップ時に音が聞こえるが、これは上のギアが入る音ではなく、下のギアが抜ける音らしい。池谷社長によれば、このシームレス・トランスミッションが誕生したきっかけは、通常のMTをシーケンシャル化するキットがベースにあったそうだ。Hパターンから+ーのシフトに変更する機構により、自在にシフトをコントロールする発想につながった。
しかしながら、実現まではトライ&エラーの繰り返しだったようで、スプラインをひねる曲線の最適な角度を見つけるまでが大変だったらしい。これまでで3年の開発期間を要したが、現在はトランスミッションメーカーを中心に、いくつかの企業と量産車に搭載するための共同開発をスタートさせていると言う。
従来のMTと同じ生産方法とコストで、素早い継ぎ目のないシフトを実現するシームレス・トランスミッション。搭載されれば、エコでスポーティなクルマの変速機として役立つことは確実。ぜひ量産化されることを望みたい。