NEDOと東京薬科大学は5月29日、東京大学、積水化学工業、パナソニックとの共同研究プロジェクトにより、微生物を利用した創電型の廃水処理に適した微生物燃料電池装置を開発と発表した。
研究開発の中心となったのは、東京薬科大 生命科学部応用生命科学科の渡邉一哉教授らの研究チームだ。
現在、生活下水や工場廃水の処理には活性汚泥法という微生物処理法が広く用いられている。しかし、活性汚泥法は、曝気(ばっき:微生物に酸素を供給すること)に多大な電気エネルギーを消費し、また電力供給が止まると処理ができなくなってしまう。
一方、21世紀になって有機物を分解して電気を発生させる微生物(発電菌)が発見され、このような微生物を使った「微生物燃料電池」が考案された。
微生物燃料電池は、微生物の代謝能力を利用して有機物などの燃料を電気エネルギーに変換する。正極(カソード)と負極(アノード)を設置し、負極では投入された燃料(主に有機物)が微生物により酸化分解されて発生する電子を電極で回収する。
その電子は外部回路を経由して正極に移動し、正極での酸化剤(主に酸素)の還元反応により消費される。負極の化学反応と正極の化学反応の電位差に従い電子が流れるので、その際の電位差と電子流量(電流量)の積に相当するエネルギーが外部回路において得られるという仕組みだ。
この装置を廃水処理に適用すると、汚濁廃水中の有機物から電気エネルギーが回収され、また曝気も不要であるため、省エネ型の廃水処理が可能になると期待されている。しかし、これまでの技術では、従来の活性汚泥法に比べて微生物燃料電池法の廃水処理性能が低い(数分の1程度)ことが問題となっていた。
今回の微生物燃料電池では、絶縁膜(プロトン交換膜)を挟んで正極と負極を一体化した「カセット電極」を作成し、このカセット電極を微生物反応槽に複数挿入することで、スラローム型流路を形成した点が工夫された点だ。
そして、実験室サイズの装置(容積約1リットル)を用いた模擬廃水処理実験において、水滞留時間9時間、有機物処理速度1.3kg-CODmの-3乗dayの-1乗という効率を達成した。つまり、従来方式の廃水処理法である活性汚泥法と同等の処理速度が確認され、微生物燃料電池の廃水処理性能が実用レベルに達したというわけだ。
今回の事業の成果により、汚濁廃水中の有機物から電気エネルギーを回収できるだけでなく、活性汚泥法よりも少ないエネルギーでの処理が可能となることから、まったく新しい創電型の廃水処理に繋がることが期待されるとしている。
プロジェクトチームでは今後、今回の技術のスケールアップ、低コスト電極製造技術の開発、ベンチスケールでの実証実験など、実用化に向けた技術開発を進めていく予定だ。