しっかり作りこまれてかちっとしたボディ。首都高速の、適度に曲がったコーナーに切り込んでいくときの反応のよさ。
ハンドルをすっとラインにあてると、そのまま鼻先が気持ちいいほどに行きたい方向に向かっていく。ボディのゆれや、違和感がほとんどない。日本にも、この面白さがわかるコンパクトカー・ユーザーがもっと増えたら、日本の小さなクルマたちもずいぶん変わるだろうに。
『up!』はコンパクトカー大好きな日本市場に殴りこんできた黒船である。爆弾なのかもしれない。日本の自動車メーカーは戦々恐々としていることだろう。ただ、この爆弾。ややツメの甘さがあるのも否めない。
それはMTベースのトランスミッション「ASG」。軽量で高効率なのはいいのだが、そのぶん、シフトアップするときに息継ぎをする。ここぞ!というときにアクセルを踏み込んでも、気持ちのとおりに加速しないことがしばしば起こるのだ。もちろん、慣れれば使える。これを使いこなすことこそが、楽しみであるというのもわかる。しかし、白物家電のようにクルマに乗る「日本のコンパクトカー・ユーザー」にそれが理解してもらえるかどうか、はなはだ疑問である。
さらに感じるのは、燃費重視のためギアがすぐに上がってしまい、ゆえにこもり音が出ることが多い。うーん、最近、どのクルマにもある傾向なのだが、女性はこの音、きらいなんですよねえ。
「どのクルマがお勧めですか?」。よく友人たちに問われるけれど、いいクルマの条件は、その人の持つ優先順位によって180度変わる。このup!。コンパクトでしゃきっと乗りこなしたい人には、めっちゃお勧め。でも、単なる足で楽したいという人にはどうなのか。あ、でも、被害軽減ブレーキが全車標準装備ってのは、絶対的なお勧め項目である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/エッセイスト
女性誌や一般誌を中心に活動。イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に精力的に取材中するほか、最近はノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。JAF理事。チャイルドシート指導員。国土交通省 安全基準検討会検討員他、委員を兼任。