「日本のカーナビ」としてはまだ未熟!? iPhone 5 + iOS 6のナビ機能を試す…神尾寿

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Appleの『iPhone 5』が9月21日から日本でも発売される。

すでに発表されたとおり、今回のiPhone 5はデザインからハードウェア、ソフトウェアまで大幅に変更された"フルモデルチェンジ"。約10年採用されていたDockコネクターまで一新されるなど、まさに新世代のiPhoneを体現するものになる。

また「クルマとiPhone」という視座でも、今回のiPhone 5とiOS 6は注目だ。iPhone 5では新たなクルマ連携機能「Eyes Free」が提唱されてトヨタやホンダ、BMWなど多くの自動車メーカーがこのプログラムに参画することが表明されたほか、iOS 6自体の地図がApple純正のものになり、独自のカーナビゲーション機能「ターン・バイ・ターン・ナビ」が用意された。特に地図とナビの部分は一般ユーザーもすぐに使える部分であるため、注目している人も多いだろう。

筆者は今回、このiPhone 5を発売に先立ち、じっくりと利用する機会を得た。さらにiPhone 5のターン・バイ・ターン・ナビ機能を、都内はもちろん、高速道路や地方都市でテストを行った。

iPhone 5の地図とナビ機能は、日本でどれほど実用的か。それをリポートしたい。


◆「道路地図」がメインになったiPhone 5の地図アプリ

周知のとおり、これまでiPhoneで採用されていた地図はGoogle Mapsをベースにしたものだった。しかしAppleは、iPhone 5にあわせて投入するiOS 6において地図の機能を刷新。Google Mapsの採用をやめて、各国でベースとなる地図データを購入し、独自の地図機能を用意した。

iPhone 5には、この新しいApple製の地図が入っているのだが、最初に起動してまず地図の雰囲気が大きく変わってしまったことに気づくはずだ。

詳しくはサンプルを見てもらいたいのだが、iOS 5までのGoogle Mapsベースのものは地図内に道路・駅(鉄道・地下鉄)・建物名・店舗情報などがバランスよく入っており、鉄道と道路の色分けなどもされていて見やすい。また地下鉄駅では出口番号なども記載されており、かなり使い勝手のよい地図になっている。

一方で、iOS 6で採用されたApple製の地図の方はというと、よくも悪くも"かなりシンプル"だ。道路の情報はきちんとあるのだが、都市部で重要な鉄道・地下鉄の情報が乏しく、地下鉄の出口情報はおろか交差点(信号)名も用意されていない。そのわりには飲食店情報は多かったりするなど、情報量のバランスが悪い。

なぜ、このような違いが生まれたのか。

実は今まで採用されていたGoogle Mapsベースの地図は、住宅地図をもとに様々な街の情報を付加して作られたものなのだが、今回のApple製の地図はもとになったのが道路地図なのだ。さらに地図デザインの発想が、「道路名(ストリート)と街区がわかればいい」というアメリカ型のものになっており、日本の地図に求められる建物名や交差点名情報が重視されなかったようだ。

むろん、このApple製の地図はデメリットだけということはなく、ベクター方式で描かれているため、地図のスクロールや拡大・縮小はとてもスムーズですばやい。従来の地図は通信環境があまりよくない場所だと表示まで待たされることもあったが、新しい地図はサクサクと地図が表示されるというメリットはある。しかし、総じて言えば、今回のApple製地図は日本の地図文化とかなり異なる背景で作られているため、そこに違和感を感じる人は少なくないはずだ。


◆ハードの性能を活かした速いルート探索と秀逸なカーナビ画面表示

では、iPhone 5のカーナビ機能「ターン・バイ・ターン・ナビ」の実力はどうだろうか。

iPhone 5のカーナビ利用は、地図アプリ上で目的地を入力・検索し、[ルート]ボタンを押すだけと簡単だ。目的地検索はクラウド上で行われるため地点情報の量は豊富。ルート計算も、iPhone 4Sの約2倍の処理速度を持つiPhone 5のA6チップの力を持ってすれば一瞬で終わる。目的地検索、ルート計算、地図スクロールといった点では、既存の組み込み式車載カーナビの性能を上回っている。

この"処理能力の余裕"は、カーナビのUIデザインにも現れている。ターン・バイ・ターン・ナビのルート案内画面では地図の表示方法は選べず、自動で画面がスクロール・拡大縮小して目的地まで案内するのだが、この表示画面がとても美しく、アニメーション処理が秀逸なのだ。iPhone 5では新たに4インチのRetinaディスプレイを搭載しているが、画面サイズこそ一般的なカーナビより小さいものの、解像度の高さにより地図は見やすく文字情報は読みやすい。さらに交差点など進路案内ポイントまで遠い時は遠くまで見渡せる3Dビューでルートが案内されるが、案内ポイントが近くなると自動的に地図の視点が上がっていき、周辺情報が確認しやすい2D画面になめらかに切り替わっていく。このナビ画面の演出はSF映画のワンシーンのようであり、とてもかっこいい。またGPSの測位精度とマッチマッピングの精度は高く、GPS信号がキャッチできる環境では自車位置のずれもほとんど気にならない。

しかし、iPhone 5のカーナビを褒められるのはここまでだ。率直にいうと、iPhone 5のターン・バイ・ターン・ナビは、"日本のカーナビ"として荒削りで未熟な点が多々あったからだ。


◆規制、案内方式、音声ガイダンス…不満点

まず、かなり基本的な部分の課題として、ルート計算や案内に必要な道路規制情報が不十分だ。さすがに一方通行の情報はきちんと盛り込まれているが、左折・右折規制や時間帯通行規制といった情報はなく、ルート計算時に"道路規制を無視したルートが設定される"ことも少なくなかった。これでは道路規制が複雑な都市部で安心して使えないだろう。

さらに日本のカーナビとして使いにくさを感じるのが、ルート案内が走る「道路名」を案内していく“アメリカ方式”であることだろう。右左折をするポイントの案内で、交差点名や目印となる店舗・建物が案内されることはなく、「○△×通りから、☆△×通りへ」といった具合に案内されるのだ。それでも道路名がわかりやすい場所ならまだいいのだが、都道府県道やそもそも道路名がない場所では、どこをどの向きに向かえばいいのかわかりにくい。ここも道路名と街区が整理されていてわかりやすいアメリカの地図・ナビの考え方になってしまっているのである。

そして、もうひとつ。このルート案内で問題なのが、Appleのカーナビ機能が「日本語がへたくそ」であることである。道路名でしか案内してくれないだけでも問題なのだが、その道路名の漢字をきちんと読み上げられないのだ。例えば、「環七通り」を「わななどおり」と読み上げてしまう。運転中はずっとナビ画面を見ているわけではないので、肝心の音声ガイダンスの日本語がめちゃくちゃだと混乱してしまうだろう。

ほかにも、Appleのターン・バイ・ターン・ナビでは、今のところ日本ではリアルタイム渋滞情報にまったく対応していないという課題もある。アメリカでは既存の渋滞情報サービスに加えて、独自のプローブ渋滞情報サービスまで立ち上げているのだが、日本ではオンデマンドVICSにも対応していない。このあたりもせっかくクラウドを使った通信カーナビであるのに、残念なところだ。


◆地図・カーナビ機能のバージョンアップにしたい

このようにiPhone 5 + iOS 6の地図・カーナビ機能のファーストインプレッションは、"荒削りで実用性に乏しい"と言わざるを得ないものだ。現時点でいえば、NAVITIME Japanの「NAVITIMEドライブサポーター」やユビークリンクの「全力案内! ナビ」、NTTドコモの「ドコモ ドライブネット」などの方が優秀だろう。

しかし、その一方で、Appleの地図・カーナビ機能は、今後のソフトウェアバージョンアップで大きく進化し、"化ける"可能性がある。Appleは現時点の日本向け地図・カーナビ機能が荒削りで不完全なものであるという認識を持っており、急ぎ改善をしていく方針だ。Appleの地図・カーナビ機能で課題となっている部分が、ソフトウェアの改修や収録情報の拡充で改善できるものばかりであることを鑑みると、今後のバージョンアップでよくなっていくだろう。そうなれば、地図スクロールのスムーズさやUIデザインのよさが生きてくるだろう。

振り返れば、2008年に登場した初期のiPhone 3Gも、当初は機能が不完全で日本市場向けには荒削りな部分があった。しかしそれをAppleは、半年ほどのソフトウェアバージョンアップであらかた改善してしまった実績がある。現時点では少々残念なiPhone 5の地図とカーナビだが、今後の進化を期待を持って見守りたい。
《神尾寿》

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