増え続けるクルマとその対策
北京では増え続けるクルマが引き起こす渋滞や環境汚染は深刻な問題となっている。しかし、北京当局はそうした事態をただ傍観しているわけではない。渋滞緩和に向け、様々な策を講じているのだ。
その1つはナンバープレート末尾の数字による平日都心部の走行規制だ。例えば、月曜日はナンバー末尾が5か0、火曜日は1か6といったように、それぞれ該当する曜日には、7時から20時までの間、北京中心から約10kmを外周する環状道路「北京五環路」より内側を走行することができない。これは、東京で言えば週に一度23区内を走行できない日があるようなものだ。
抽選制の導入、しかし倍率は…
ナンバープレート末尾数字の平日走行規制に加え、2010年には、抽選によるナンバープレートの取得制限が始まった。この制度は、北京市のナンバープレートの取得を無償の抽選にするというもの。抽選には北京市民のほか、連続5年以上北京市へ社会保険及び個人所得税を納めた者、北京在住1年以上の香港・マカオ・台湾を含む外国人が参加できる。
この抽選には携帯電話等から簡単に参加できるという。しかし、その倍率は約40倍(4月25日現在)というから、ナンバープレートを手に入れることは容易ではない。ある中国人男性は、「運良く2週間程度で取れる人もいるし、1年以上待っても取れない人もいる」と抽選の実情を語ってくれた。
こうして「クルマはあるがナンバープレートが無い」という不思議な事態が生まれる。
ディーラーによる高額な貸与
抽選に選ばれなくても車を走らせる方法がある。1つはディーラーによるナンバープレートの貸与だ。北京市ではナンバープレートの貸与・売買は規制していないため、新車を購入する際、ディーラーからナンバープレートを貸りることができる。貸与は無償ではなく、半年間で5万~6万元(約63万~76万円)。購入者にとっては大きな負担だ。
ナンバー無しの高級車
そして、もう1つの方法はナンバープレートを付けずに走るというものである。もちろん、それは違法であり、検挙されると2000元(約2万5000円)の罰金が徴収されるため、「方法」などと言うのは語弊があるかもしれない。しかし、一部の北京市民にとってそれは確かに1つの方法なのである。
「一部の北京市民」とは富裕層のことである。こうした人々にとっては、この程度の罰金など微々たるものなのだという。実際、北京でしばしば見かける、ナンバープレートを付けずに走っている車のほとんどは、アウディ、メルセデス・ベンツ、ポルシェなどの車両だった。
また、ナンバープレートに対する取り締まりはそれほど厳しく行われていないということもこうした事態を助長している。高級車を購入できる富裕層は、せっかく手に入れた車を眠らせておくよりは、わずかなリスクを背負って乗った方がよいのだろう。北京富裕層のモラル観が垣間見える。
政策の効果
こうした政策の効果は確実に出ている。2012年2月、北京の自動車保有台数が500万台を超えたことが北京市公安局公安交通管理局によって発表されたが、当初予想されていたよりも11か月遅い到達だった。これらの政策は渋滞の緩和には一役買ったが、自動車産業の後退を引き起こし、北京市の経済成長率は全国で最下位になるなどの反動も出ているという。